11話 レベルアップ!
それからはるぴよパーティーは一度ギルドに戻った。
レベルアップという概念を理解していない新撰組の3人は「なぜせっかく来た道を引き返すのだ?」と明らかに不服そうだったが、「とにかく一度回復しないと戦えない!」とはるぴよが頑として折れなかったために引き返すことが許されたのだった。
「スゴイですね、はるぴよさん! たった数時間でレベルアップですね! 流石そちらの新撰組さん……でしたっけ? の力を借りてのことですか?」
「いえ……ほぼほぼ自力です。っていうか、雑魚でもキチンと倒しておけばもっと早くレベルアップ出来たんですね……」
「まあ、レベル1から2に上がるのは比較的早い人が多いですからね。でも他の人と比べても仕方ないですよ、はるぴよさんにははるぴよさんのペースがあるんですからね、気にせずファイトです!」
どんな時も受付お姉さんは笑顔を絶やさぬプロ対応だった。
冒険者ランクは依然としてGのままだがレベルは2に上がっていた。素早さ、回避能力、体力、攻撃力のステータスがそれぞれ上がり、それに
「……まさか最初に獲得するスキルが『投石』だなんて思っちゃいなかったわよ……」
「え~、でもすごいじゃん、はるぴよ! 今度一緒にキャンプ行ったら河原で石投げ教えてね!」
独り言のボヤキのつもりだったが、それに対して回線を繋いでいるえまそんから的外れな励ましの言葉が掛けられる。
「……うん、まあ、そのうちね」
石を投げる冒険者なんてあんまり勇者っぽくなくてカッコいいスキルには思えなかったが、まあそれでも最初に獲得したスキルには違いないので大事にしたいという気持ちも少しあった。
「さて……もうお昼過ぎてるけど、まあでももう一回行くしかないわよね。またもう一回私が全滅させてく?」
再び1,2階層のスライム・ゴブリンを1人で全滅させるべきかとはるぴよが尋ねると、土方は首を振った。
「お前の話だとまた再び同じ敵が現れるのだろう? ヤツらの動きには知性を感じなかった。そんなヤツらを倒してもさして学びにはならん。次は最速で行くぞ」
「……手を出さず口だけ出すというのも逆に骨が折れるしな」
「あんまりゆっくりしていても日が暮れちゃいますしね!」
土方の言葉に、斎藤も沖田も嬉し気に同意を示す。やはりこの人たちも本来は自分で身体を動かしたいのだろう。
「ま、お前にも少しは骨のあるところが見られたからな。俺たちも手を貸してやる」
ダンジョンというのは不思議なものだ。わずか数時間前に全滅させたスライムやゴブリンがそっくり復活しているのだ。どうしてこんな仕組みになっているのか正確なところは誰にもわからない。
モンスターの復活だけでなく、倒したモンスターの死体が残らないというのも不思議だ。少し時間が経つと痕跡を全く残さず死体は消えてしまうのだ。
一説にはダンジョンそのものが巨大な生物ではないか……と唱える学者もいるようだ。ただし実際にダンジョンに入る冒険者たちにとって、そんなことはあまりに常識的なことで今さら気にも留めない、というのが普通の態度だ。
「はっや!」
はるぴよが合計3時間ほどかかった1・2階層は、3人の新撰組が先頭に立つと10分ほどであっさりと攻略を完了した。
もちろん彼らは雑魚モンスターたちを全滅させたわけではない。
1階層ではのそのそと蠢くスライムを撫でて
「土方さん! ほら、こんなにプルプルですよ!」
「おお!……だが近くでじっくり見ると意外と不純物が混じっておるな……やはりきな粉をかけてもあまり美味くはなさそうだな」
とか言いながら遊んでいた。
2階層では向かって来るゴブリンを斎藤が剣を抜きもせず、素手で岩壁に叩き付けて葬ると、それ以降ゴブリンたちは一切近付いてすら来なかった。
〈は? 怖……あんな倒し方見たことねえよ〉
〈普段剣とか魔法とかで倒されるモンスターを見ても何とも思わなかったけど、あんな光景見たらちょっと引いたわ〉
〈そうか? 俺はむしろ痛快だったけどな。むしろ自称する通りコイツらマジで新撰組なんじゃね? って俺は思ったけどな〉
「あの……斎藤さん? 何であんな倒し方したんですか? 視聴者さん結構ドン引いてるんですけど……」
はるぴよ自身は身近に接していく中で、彼らならそれくらいのことはするだろう、という予感があったのでさして意外ではなかったのだが、送られてくるコメントを気にして一応斎藤に尋ねたのだった。
「なぜ? 別に理由はない。まあ強いて言えばヤツらの汚い血で我が刀を汚すのが
「……というわけだそうです。視聴者の皆様。やはり武士という方たちは自分の刀を大事にされるようですぅ~」
〈カッコイイ……のか?〉
〈いや、本物の武士なら刀以外で戦うことを嫌いそうな気もするけどな?〉
〈わかんね。そもそもコイツらコスプレだろ?〉
まあ色々と賛否のコメントは飛んできたが、ともかく同接者は増え続け70人にまで達しようとしていた。はるぴよの配信者としての最高記録を更新し続けていたのである。
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