9話 はるぴよの覚悟

「とりあえず、ちゃちゃっと片付けちゃって下さい!」


 最初に現れたモンスター、スライムを倒すようリーダーらしく指示を出したはるぴよだったが、それに対して3人の新撰組はピクリとも反応しなかった。


「……あのな、小娘。俺たちも別に向かって来るけだものどもを始末することは何とも感じぬが、無要な剣を振るうつもりはないぞ?」


 スライムの佇まい・緩慢な動きに敵意は感じられなかったのだろう。あるいは本能的にスライムたちが脅威になるようなモンスターでないことを感じ取ったのかもしれない。土方はやや呆れ気味にはるぴよを振り返った。


「いや、でもですね! とりあえず倒せば経験値も報奨金も少しは入りますし……」


「何だぇ、小娘。アイツらを屠れと言うのか? ヒドイこと言いやがるな。よく見たらいヤツらではないか?」


 斎藤はのそのそとうごめいているスライムたちを愛おしそうに眺めていた。

 ……え、どうなってんのこの人たちの情緒? 戦闘狂集団じゃないの? 意外とそういう人間的感情もあるの? 今はむしろ困るんだけど?


「愛いっていうか、よく見ると水餅みたいで美味しそうじゃないですか?」

「そうだな、きな粉をまぶせば中々いけそうだな」

「あはは、土方さんもこう見えて甘党ですからね。あれだけでっかい水餅なら当分は食べられますね」


 はるぴよの感情など知ったことかとばかりに、今度は沖田と土方がそんな談義を始めた。


「いや、スライム食べたなんて話聞いたことないですから! とにかくここは道の真ん中で通行の邪魔にもなりますし、レベルアップのためにもモンスターは少しでも倒しておくべきです!」


「そこまで言うなら、お前が自分でやったらどうだ? お前も冒険者とやらの端くれなんだろ? 見届けてやるぞ」


 土方が悪戯っぽく笑ったことで流石のはるぴよも火が付いた。


「もちろんです! 舐めないで下さい!」


 腰の短刀ナイフを引き抜くと4匹のスライムに向かってのそのそとはるぴよは突進していった。




「……回復魔法ヒール!!」


 ぜーぜーと肩で息をしながら、何とかスライム4匹を倒すとはるぴよは3人の元に戻って来て自らを回復させた。


「……どうですか! 私だっていっぱしの冒険者なんですからね!」


「なあ、お前の言う冒険者とやらは、武士……要は戦う者のことを言っているんだよな?」


「もちろんそうですよ! それにしても4匹も一度に倒したのなんて初めてですよ。私も成長してますね……」


 自信満々にドヤ顔で言い切ったはるぴよに対して土方はやれやれとばかりに首を振った。


「小娘……お前、よく今まで生きてこれたな? あんなにヘボい剣を見たのは初めてだぞ?」

「ですよね……ウチは田舎剣術の道場ですけど、5歳の子供でももう少しまともな剣を振るいますよね?」

「だな、途中からは鈍刀なまくらで傷付けられる水餅たちの方が可哀相になってきたぞ……」


〈たしかにwww。自称新撰組さんたちの言う通りだわ〉

〈スライム相手にあんな泥仕合見せられるのは逆に才能かもしんが〉


 同接のコメントまで飛んで来ると打たれ弱いはるぴよはそれだけで泣きそうになった。


「……私のどこがダメでした? これでも短刀ナイフ術もカルチャースクールで習っているんですけど……」

 

「どこ? 全部だな。そもそも踏み込みが弱すぎる。技術がどうこう言う前に基本的な筋力がなければ話にならんぞ? 技は力の内にある」


「え、じゃあ、私が強くなるためにはどうすれば良いんですか?」


「とりあえずは足腰を鍛えろ。その短刀を振るった時に自らがふらつかない程度にはなれ」


「え~、脚太くなっちゃいません? やっぱり女の子は華奢な脚じゃないと魅力的じゃなくないですか?」


「別にお前が死にたいのであれば、俺たちにそれを止める権利はないが?」


「いや私たちは一緒のパーティーなんですから、接近戦では皆さんが私を守って下さいよ! 私は後方から皆さんを支援しますから! 良いですか? あなたたちは私のパーティーに温情で参加させて上げたのです。余計なことは言わない!今の時代の戦闘力というのはあなたたちの基準とは違うのです!あなたたちが私のパーティーから離れたらどうなりますか? 探索できませんよね? こっちの世界について知ることは出来ないと元の時代に戻る方法も、近藤さんのことも探れませんよね?」


「お前……よく今まで生きてこれたな」


 呆れ顔でしみじみと言い放った土方の言葉にはるぴよはピクリと反応する。


「……それは、どういう意味ですか?」


「どうもこうもない。武芸者としては子供以下。その割には自ら鍛錬をしようともしない。挙句の果てには他人を自らの盾にしようとする。そんな人間がよく戦場に自ら入っていこうと思ったな、という感想以外の何物でもない」


〈たしかに! これはこの人の言う通りだわ!〉

〈さっきから話聞いてたけどヤバいヤツの思考回路だもんなww〉

〈自分に何の価値もないのがわかってないのかなww〉

〈自称新撰組さんたちもヤバいヤツに拾われちまったなww〉


 不思議なことにここに来て視聴者数は増え、コメントは活気づいてきた。


「……ふぇええ~ん!」


 土方に正論で責められ、そして面白おかしく飛んで来るコメントに傷付いたはるぴよは、ついに泣き出してしまった。


「やっぱり私が悪いんですよね……。今までもそうだったんです……。何度かパーティーを組んでダンジョン探索に挑んだんですけど、すぐに皆私の元から離れていくんです。でもしょうがなくないですか? こっちは戦闘力も魔法の力もショボいんだから、ダンジョン攻略配信者として目立つためには自分より実力が上の冒険者たちを利用しようとするのは当然でしょ?」


「あ~、そっかそっか。受付のお姉さんが言っていた『今度のパーティーは上手くいくと良いですね』っていう言葉もそういう意味だったんだね」


 いつの間にか寄ってきた沖田がはるぴよの頭をよしよしと撫でていた。

 最強の件を振るう新撰組たちも女の涙には弱いのだろうか。

 土方も頭をガリガリと掻きながら、はるぴよについに折れたようだ。


「……ったく、仕方ねえな。お前の根性を叩き直してやるまでもう少し付き合ってやる。その代わり甘ったれたことをこれ以上言うな!」


「ホントですか、ありがとうございます! じゃあ、とりあえず今日はサクッと5階層まで行きましょう!」


 はるぴよは表情を一変させるとスタスタと元気に歩き出した。


〈コイツwww〉

〈こんな性格ゴミな人間久しぶりに見たわ!〉

〈ダメだ、性格悪すぎる! 自称新撰組の強さよりも、むしろコイツの動向を見続けたい!〉


 再び飛んできたコメントを見ながらも、はるぴよは別にダメージを負ってはいなかった。


(……ふんだ! 望まれるならクズ女でも何でも演じてやるわよ! 精々コメント欄を盛り上げて盛り上げてよね! その間にこっちは本当に強くなってやるんだから!)



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