8話 冒険開始
「こんにちは! よろしくお願いします!」
「あら、はるぴよさん! お疲れ様です」
ちょうど一週間ぶりに訪れたギルドの受付お姉さんははるぴよのことをしっかりと覚えてくれていた。
「あの、実は私今日からこの3人とパーティーを組むことになったので、登録をお願いしたくてですね……」
「ああ、はるぴよさんのパーティーの方たちだったんですか……」
はるぴよが後ろに控えた3人の新撰組を紹介すると、受付のお姉さんは少し顔をしかめた。
「あの……どうかしましたか、何か問題でも……?」
空気を読むことには人一倍敏感なはるぴよである。あるいは社会人になって一番磨かれた能力かもしれない。
「いえ特に規則上問題はないのですが……他のパーティーの方たちから『ダンジョン入口近くに真剣で斬り合いをしている侍のコスプレをした人間たちがいる。怖くて近寄れないのでなんとかして欲しい』というクレーム……問い合わせが何件かあってですね……。ただ他の冒険者や民間人に直接危害を加えているわけでもないし、笑顔で斬り合っているので私闘をしているわけでもなさそうだし、ギルドの方では何とも手出しできなくて困っていた……というわけです」
「あ、あ、それはどうもご迷惑をおかけしました。……ちょっと! 3人とも他の人たちの迷惑になるような行動はしないでって言っておいたでしょ!」
「は? 俺たちは俺たちで鍛錬を積んでおっただけだが? 誰にも迷惑をかけてなどおらんのだが。なんだ、この時代の武士どもは自己鍛錬というものをせん腑抜けばかりなのか?」
土方は実に素直に不思議そうな顔をしていた。
「いや……そういうわけじゃないけどさ! 仲間内で真剣で斬り合って鍛錬も何もないでしょ!? 異様な光景に他の人たちは気味悪がって近付けなかったって文句が入ってるのよ! 変な形で目立つのはもうホントに勘弁してよね!」
配信者としてバズるには目立つことも必要だが、悪目立ちしては総叩きにあってしまう。はるぴよは何よりもそれを恐れていた。
「いやいやいや、はるぴよちゃん! 私たちは全然本気で斬り合ってなんかいないよ? 本気でやりあっていたら……ねえ? 斎藤さん?」
「ふ、当たり前だ。剣のやり取りは命のやり取り。本気でやっていたらこんなぬるい手負いで済むわけがなかろう」
沖田と斎藤がニヤリと微笑む。
「うるさい! このバカ! 異常者ども!」
指を斬り落とされて、骨を折っててどこが本気じゃないのか、はるぴよは彼らの行動の基準がまるで理解出来なかったが、それを話しても互いの理解が深まることは恐らくないだろう、ということを確信していた。
はるぴよは彼らをパーティーに加えたことを少し……いや、かなり本気で後悔したが今さら彼らを放り出すことはどう考えても遅すぎた。このまま進んでゆくしかないのだ。
「……あの、キツく言って聞かせておきますので。根は悪い人たちじゃないんです。本当です……」
はるぴよは振り返ってギルドの受付お姉さんにペコペコしながら嘆願した。
「まあ、もちろん誰かが実害を受けたわけではないですし、問題はないとギルドの本部でも判断したことですので……えっと、あの人たちもはるぴよさんと同じGランクの冒険者としてのスタートになりますが、よろしいでしょうか?」
「あ、はい! もちろんです!」
顔を引き攣らせながらもお姉さんが実務処理に話を戻したことにはるぴよは安堵した。
『ダンジョン攻略者免許』を持った者からの正式な紹介があれば、基本的には登録はさして厳しい審査があるわけではない。
はるぴよが彼らの身元保証人になることを正式に書類で提出し、登録料を納めるとあっさりと彼らもダンジョン内に入ることを許された。
「では、お気を付けていってらっしゃいませ! 今度は上手くいくと良いですね、はるぴよさん!」
ビジネススマイルで送り出してくれたお姉さんに、はるぴよは手を振って応えた。
「今日は4階層を目指します。今までの私の最高到達階層が3階層ですので、とりあえずはそれを超えることを目標にしようかと思います」
これから始まるダンジョン攻略に向けてはるぴよは3人に向けてそう宣言した。
もちろん彼らの実力を考えれば、さらに深い階層まで到達することも容易だろうとは思われたが、まずは近い目標を少しずつ達成してゆくというのがはるぴよのやり方だ。
「ねえねえ、はるぴよちゃん。Gランクってどういう意味なの?」
沖田がさっきの受付お姉さんとの会話をほじくり返してきた。
「冒険者のランク……格付けみたいなものです。Gランクは最低ランクでF→E→D→C→B→A→Sの順に高くなっていきます」
「なぁんだ、はるぴよちゃんは最低位なんだね!」
「そ、それは、私もまだまだ駆け出しの冒険者ですし、色々と上手くいかないこともあるんです!……あ、そんなことよりスライムです! とりあえずちゃちゃっと片付けちゃって下さい!」
前方の道を透明なブヨブヨした例のモンスター4匹が塞いでいた。
〈出たスライムたん〉
〈ダンジョンの最弱モンスター! 基本中の基本!〉
〈いやスライムくらい自分で倒せよ。何を偉そうに指示してんだこの女〉
しっかりと格好良くパーティーのリーダーとしてキメたつもりのはるぴよだったが、すかさずツッコミのコメントが飛んで来る。
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