7話 一週間会わないと距離感戻っちゃいますよね?

「あの~、皆さんお久しぶりです~……私のこと覚えてますか?」


「何だ小娘、5日も空けてどういうつもりだったのだ?」


 次の週末の朝、はるぴよはダンジョン『新宿フルシアンテ』の入口で3人の新撰組に再会した。

 土方歳三ひじかたとしぞうが相変わらずの不機嫌そうな顔で迎えてくれた。


「え、いや、私は普通の会社員なので平日はこっちには来れませんって何度も言いましたけど……」


 はるぴよは久しぶりに会う3人に思いっきり人見知りを発動してしまっていた。コミュ力が低いはるぴよは打ち解けるのに時間がかかってしまうタイプだ。学力が高くてもそれだけでは幸せにはなれないようだ。


「何だ、お前。金策に生活の大半を捧げねばならんほど困窮しているのか?」


「いやO家商事に勤めてる私が貧乏なわけないでしょ。貯金はそれなりにあるわよ! だからって将来のこととか考えると仕事を辞められるわけないでしょ? っていうかそんなこと選択肢にないわよ……」


 週中の仕事は散々だった。大企業だから待遇は良いがその分プレッシャーも大きい。

「学歴の割に使えねえな」という上司の嬉しいお言葉を頂いたのも一度や二度ではない。それでもこうした週末の配信活動、ダンジョン攻略を生き甲斐にしてなんとか耐えてきたのだ。


「まあいい。お前の金策に関することなどどうでも良いのだ。それよりもとっとと、あの光に包まれて怪我を回復する奇術をかけてくれ」


「は? どっか怪我してるんですか?」


「あ、私も私も。私は肩が上がらなくなっちゃってねえ~」


 沖田総司おきたそうじがニコニコと会話に入ってきた。もちろんニコニコ話すような内容ではない。


「……俺も昨日右脚が折れて以降まともに歩けん。早々に頼む」


 斎藤一さいとうはじめは例によって安定の無表情だ。


「え? は? ほ?」


 彼らが何を言っているのかまだ理解出来ていなかったが、そこでようやく対面している土方の異常にはるぴよは気付いた。彼の右手親指は無くなっていたのだ。

 はるぴよの視線、それを見て顔をしかめたのに土方も気付いたのだろう。


「ったく、総司のヤツ。妙な小技ばかりを覚えやがってな!」

「いやいや、土方さん! 卑怯な小技とバカにしたものでもないと思いますよ! 私、気付いたんですよ。人は指を切り落とされると剣を握れないんですよ!」

「まあたしかにな。悔しいがあれは完全にお前に一本取られたのかもしれん……」

「土方さんが負けを認めた!」

「バカ、あの一本だけだぞ!」


「……あの、一応聞いておきますけど、皆さんはこの5日間何をされていたのですか?」


 妙にキャハキャハ騒ぎ出した3人にドン引きしつつもはるぴよは尋ねた。とっくに想像はついていたが。


「 暇だから鍛錬のために俺たち同士で斬り合っていたのだ。他にすることもないしな」


「…………」


 はるぴよは土方の言葉を何とか理解しようと務めた。


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・はるぴよ不在のため3人だけでダンジョン攻略に向かうことは出来ない。➡そうね。それはごめんなさい。

・暇つぶしに鍛錬をしよう。➡うんうん、どんな時も鍛錬を欠かさない。流石は武士だね!

・はるぴよが回復魔法使えるんじゃね?➡そっか、最初の時にヒールで助けてあげたもんね!

・じゃあ幾ら負傷しても回復出来るな。よし真剣で斬り合おう!➡は? 何言ってんの、キモ! この人たちマジで人間?

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 いくらはるぴよの優秀な打算コンピューターを弾いてみても彼らの思考回路はまるで理解不能だった。

 

「……回復魔法ヒール!」


 怖くなったはるぴよは思考停止して彼らを回復させた。彼らの言葉に動かされたというよりも手足をブラブラさせている彼らの身体が正視に耐えなかったという方が適切だろう。


「よしよし、流石だな小娘」

「これでは医者も廃業せざるを得んな、ははは」

「いやぁ、五体満足ってのは良いものですね!」


 手をグーパーに握って感触を確かめたり、ぴょんぴょん飛び跳ねてみたり、肩をグルグル回したりして、彼らは復活した自らの身体を無邪気に愛おしんでいるかのようだった。

 そもそも剣で斬られる痛みとか恐怖とか、逆に仲間に剣を向けることが怖くはないのだろうか? この人たちは?

 というかまだ一回しか会ったこともないはるぴよの回復魔法にそんなに全幅の信頼を置くことに躊躇はなかったのだろうか? はるぴよとこうして再会出来なければ、あるいははるぴよが何らかの理由で回復魔法をかけることが出来ない状態に陥っていたとしたら、彼らはそのまま不具者になっていたのだ。訓練のためと称して仲間内で斬り合う前にそうした普通のことを考えなかったのだろうか?

 はるぴよは彼らを理解しようと務めたが、とても彼らの考えには及ぶ気がしなかった。




「……やほほ~! 皆さんお久しぶりです、はるぴよです! ……はい~、前回私は新撰組の皆さんとパーティーを組むことになったのでした。その様子をご覧になりたい方はぜひともアーカイブをご確認ください。……じゃあ今からギルドに入りま~す。今日からいよいよ本格的なダンジョン攻略開始ですね!」


 新撰組にドン引きしてペースを崩されたはるぴよだったが、気を取り直して配信を開始した。


〈お、やっとか。おせーよ〉

〈週末ヒロインならぬ、週末配信者!〉

〈キタキタ。土曜の朝にボーっと見るのにちょうどいいんだよね〉


「……え~、同接者は30人ほどですか、見てくれている皆さんありがとうございます!」


 時刻はまだ朝の9時。親友えまそんはまだまだベッドで夢の中だろう。はるぴよは配信画面を自ら確認した。

 前回配信の終盤では同接者50人近くまで達したので、もう少し増えているかと期待していたのだが思っていたより同接者数は伸びず、はるぴよは少しガッカリしていた。

 やはり週末だけの配信者ではファンは付きにくいのだろうか? 私がもう少し若くて可愛ければ……いやいや! これからでしょ! コメントが最初よりは全然多いってことはそれだけ固定ファンが付いてくれたってことだろうし!

 一瞬弱気になりそうなはるぴよだったが、すぐに自らを励ましてカメラの前で笑顔を作った。



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