6話 配信再開

「やほほ~! ということでご覧の皆さん! はるぴよです! 皆さんにご報告があります。今日から私はパーティーを組むことになりました。何とこちら新撰組の皆さんです! 私と新撰組の皆さんとの出会いに関しては前回の配信をアーカイブに残してありますので、興味を持たれた方はぜひとも見返して下さいね! 」


 新撰組3人の協力を取り付けたはるぴよは、今まででの配信生活の中で一番の笑顔で同接の人たちに呼びかけた。


〈新撰組? 何言ってんの、この子? ヤバい子? ……あ、よく見ると若作りしてるけどそんな若くはなさそう〉

〈いや、俺は前回見てたんだが、どうやらマジっぽい。ただやほほ~という挨拶はちょっと寒いというかイタい……〉

〈は、マジで新撰組なの?〉

〈いや、そうだとかそうじゃないとかの議論をマジにしてどうする? こういう戯言に乗ってあげるのが俺らに出来ることだろ? マジのツッコミ入れてコントを崩すヤツは何がしたいんだ?〉


 やはり新撰組のネームバリューは大きいらしく、今までとは打って変わったようにコメントが飛んで来る。


「土方さんです!」


 はるぴよは視聴者に対するサービス精神でカメラを向けたが、土方はニコリともせずカメラを睨み付けたままだ。


「……斎藤さんです!」


 こちらは目線すら向けず煙草をふかし遠くを見ている。


「え~、お2人ともシャイなご様子ですね……。最後に沖田さんです!」


「これがカメラ? これを通して私を見ている人が日本中にいるってこと? ……え~どうも初めまして、 沖田総司です。 生まれは江戸の白川藩屋敷。子供の頃から近藤さん、土方さんとともに天然理心流を学んできました。そもそもといえばですね……」

「はい~、ありがとうございました! 皆さんの生い立ちなんかについてはまたゆくゆく知っていただく機会もあると思いますのでね!」


 はるぴよは強引に沖田の話を遮って終わらせた。このままチャンネルの主導権を沖田に握られては敵わない。

 だがここで先ほどからはるぴよを睨んでいた土方の堪忍袋の緒が切れた。


「……おい、小娘。お前がこの妙なものを俺たちに向けているのは百歩譲って許してやる。だが俺たちにまで下らぬままごと遊びに付き合わせるつもりならお前とはたもとを分かつぞ? お前に助けてもらった恩義はすでに返してあるからな、何の不義理もない」


「皆さん聞きましたか!? この現代人とは思えぬ物腰、言葉、配信を一切理解しない態度……彼らが本当に幕末からタイムリープしてきた新撰組だということはこれで一目瞭然ですよね?」


 カメラを回している最中のはるぴよは無敵だ。配信者スイッチが入ってしまうと恐怖の感覚がマヒしてしまうようで、凄んだ土方にも怖いという感情は全く抱かなかった。


〈いや、でもマジで強かったからな。別に俺は新撰組だろうとなかろうとどっちでも注目してゆくよ〉

〈は? こんな零細チャンネルに同接してた猛者がいるとは! つーかそんな凄かったん?〉

〈マジで強かった。ガルムの群れ10匹が一瞬で肉片になってたからな。剣に関しては一流の冒険者にも引けを取らないんじゃないかな?〉

〈いやガルムって、ザコってほどじゃないにしろありふれたモンスターだろ? もっと強いフロアマスタークラスのモンスター相手じゃないと本当に強いかなんてわからないだろ?〉

〈いや、それはそうなんだけどさ。でもあの速さはマジで目にも止まらぬ速さだったからな。とにかく俺は注目するぞ〉


 急に白熱してきたコメント欄を見てはるぴよは密かにほくそ笑んだ。


(うんうん、良い感じでしょ!)


 同接者は依然として30人を少し超えた程度だったが、これだけ話題になれば前回のアーカイブを見る人も間違いなく増えるだろう。そうなれば彼らの強さが本物だということは疑いようがない。どう考えても視聴者が増えるサイクルなのだ。

 視聴者が増えれば広告収入も入って来るし、彼らの強さであればダンジョン攻略の方もかなり良いところまで辿り着けるかもしれない。

 そうなれば増々このはるぴよに対する注目も集まり、やがてはアイドル系配信者としての地位を築けるのではないだろうか。うんうん、それこそが遅れてきた私の青春だよね!




「……おい小娘、いつまで呆けた顔をしている? 人の話を聞いているのか?」


 先ほどまで怒っていた土方に心配されてしまった。


「……とにかくですね! とりあえずいつまでもここに居ても仕方ないので行きましょう! またモンスターが出てきたら私たちを守って下さいね!」


「おい、俺たちはお前の用心棒に成り下がったつもりはないぞ?」


 むっつりと黙っていた斎藤の言葉に土方が同意する。


「ああ。そもそも俺たちが隊を発足し剣技を磨いてきたのは公儀に仇なす浮浪を斬るためであって、けだものたちを斬るためではないからな」


「そうですよねぇ、土方さん。私たちももう子供じゃないですし、何か罪悪感の方が勝っちゃいますよね?」


「いや、俺は別に罪の意識はないがな。生きとし生けるものは放っておいても皆いずれ死ぬのだしな。……なんだ総司、お前も随分優しくなったもんだな?」


「あはは、そうなんですかね? 私も結核でせっていた時期が長かったせいか、たしかについそんなことを考えてしまうことが多かったかもしれませんね」


 また沖田に対して土方の兄貴分的優しさが出た。


「でもですね! モンスターたちを放っておくと街に大量に流出して、人間たちの生活に支障をきたすこともあるんですよ? 皆さんがモンスターを倒せばそれだけ街の人を助けることになるんです!」


〈いや、ここのダンジョンって『新宿フルシアンテ』だろ? 大量発生スタンピードなんてもう何年も起きてないだろ?〉

〈わかってて言ってるんだって。コイツら自称新撰組を上手く自分のボディーガードにして稼ぐ魂胆でしょ。小ズルいなぁ、この姉ちゃん〉

〈まあまあ、姉ちゃんが言ってるのも完全な噓ではないでしょ。モンスター倒すのは冒険者の使命みたいなもんだし〉


 はるぴよの誘導にコメントでツッコミが入る。だがその言葉が当の彼らに届くことはない。


「ち、まあ俺たちも剣の腕を鈍らすわけにはいかないからな……。仕方ないだろう」


 不承不承といった口調で土方は返事をした。


「仕方ないですね、斎藤さん?」


「俺は別にどっちでも良い。俺も獣たちを斬ることに関して別に何とも思わんしな……ところで娘、俺たちはどこに向かっているのだ?」


「あ、とりあえず地上に戻っています。もう日曜も夕方ですし。睡眠不足はお肌の大敵ですし、私も明日からの仕事に支障をきたすわけにはいきませんので…………っていうのは冗談で! 皆さんが私とパーティーを組んだっていうことをキチンとギルドに届け出ないといけないんですって! そんな怖い顔しないで下さい、土方さん!」


 つい本音を漏らしたはるぴよを土方がまた睨んでいた。



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