僕は彼を殺そうと思う。

青いひつじ

第1話


僕は彼を殺そうと思っている。

これは7ヶ月前から計画していたことである。


このような考えに至ったのには、ある女子生徒が関係している。




僕は彼女の心を映すような、真っ直ぐな髪に恋に落ちた。

風に乗って届く彼女の声を聞き、窓際で日に当たりながら読書をしたり昼寝をする彼女を眺めることが僕の唯一の癒しだった。


しかしある日、膝にかぶるくらいだったスカートの丈が急に短くなった。

上品な檳榔子黒の髪は、なんとも悲しい色に変わってしまい、毎日クルクルに巻いてくるようになった。

桜色だった唇は、淫猥な色に染められていた。

2年の夏休み前、彼女を変えたのが彼であることが発覚した。



こんなことで殺人計画なんて頭がおかしいのは百も承知である。

しかし僕はこの悲しみを抑えることができなかった。


彼を殺すために、まずは親しくなる必要があった。どうすれば心一畳ほどの僕と友達になってくれるのか。


噂によると彼はホラー映画が好きらしい。

夜な夜な近くのレンタルショップでホラー映画を借りている姿が目撃されていた。


僕は何度もシュミレーションした。



「おはよう。突然なんだけどさ、君ホラー映画が好きなの?」



まだ笑顔がひきつっている。

それに、ホラー映画が好きというどこで知り得たかもわからない情報を急に提示すれば不信感を抱かれるに違いない。

もっと彼について知る必要があった。



お昼休憩、僕は3年D組を覗いた。

彼は外側の窓の列、前から5番目の席で3人の友達とお弁当を食べていた。

会話から何かヒントを得られないか、聞き耳を立てた。遠くてよく聞こえないが、楽しそうに談笑していた。


すると、1人の女子生徒が彼に近づきノートを渡した。

ぷるん踊る巻き髪に、ノートを両手で持ち、首を傾げる姿から、恋をしているのだろうと一目で分かる。

意外だったが、彼はカーストの上位生徒であるらしい。


非常階段で1人味のしない冷たいお弁当を食べる僕に、彼と仲良くなる資格があるのだろうか。

急に自己嫌悪に陥ってきた。

彼を殺すための情報は今日は得られそうにない。

僕はその日、レンタルショップでホラー映画を数本借りて帰宅した。



次の日、想定外のことが起きた。

それは2限目、化学の授業のため理科室へ移動している時だった。

キュッキュッと廊下を走る音が後ろから近づいてくる。

立ち止まり振り向くと、例の彼が僕に向かってきていた。

サラサラと揺れる濡羽色の髪からは、悔しいが青春の香りがする。



「あのさ、、、はぁ、、A組の加藤だよな。昨日駅前で見かけてさ、、、はぁ、、ホラー映画好きなの?」



息を上げて走ってきた彼に、僕は不覚にもいい奴そうだなと思ってしまった。

 


「う、うん。まぁそんなに詳しくはないけど」


「そうなんだ!今度一緒に見よ!なんなら今日とか暇?喋ってみたいなぁって前から思ってたんだよなぁ」



涙が出そうになった。

彼は僕が思っていたような人間ではなかった。

僕の考えはとても幼稚で浅はかであった。

人に優しく話しかけられると、こんなにも心が温かくなるのか。



「もちろん!今日学校終わってからでも」


「やった!じゃあ、俺んちでホラー映画鑑賞会しようぜ!」



彼は僕にとって初めての友達になるかもしれない。そんなことまで思った。


放課後、靴箱で待ち合わせ2人で彼の家に向かった。

太陽が空に溶けていくなんとも幻想的な夕暮れだった。






「昨夜、男子中学生が同級生に殺害されるという事件が起きました。殺害されたのは、城西中学校に通う加藤裕樹さん(15)です。


逮捕された男子生徒は事情聴取にて、ホラー映画に出てくる殺害方法を試してみたかったと話しているということです」

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僕は彼を殺そうと思う。 青いひつじ @zue23

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