【特別論4】インカ神話の魔王も天界に居た!?

 インカ神話の表向きの魔王は「スーパイ」とされます。地下世界の魔王にして鉱山の神様です。ゆえに今でもペルー・エクアドル・ボリビアの鉱山労働者達はスーパイを信仰しますし祭りの時にはスーパイに扮する者も居ます。スーパイダンスというダンスも祭りの時に披露されます。見た目はまんま西洋のレッサーデーモンです。ですが彼らの意見を聞くと「畏れ多い神」であって魔王要素はどこにも見つかりません。


 そう、侵略者のスペイン人はスーパイを魔王としました。しかし例外がありました。ケチュア人もスーパイを魔王としています。じゃあスペイン人が来る前から魔王じゃないかと思う人。


 本当にそうですか? ちなみにケチュア人の首都はあのマチュピチュです。文字通り天空人とも言われ天空(山岳の頂上)に神々の遺跡を作りました。インカ帝国の首都はクスコです。これ重要です。絶対に間違えないでください。マチュピチュは特に太陽の神殿で有名ですね。


 こっからが重要です。インカ人は凶事が起きると山の神に生贄を捧げます。それも少女や少年を。生贄に選ばれた人は突如上等な服を着てコカ入りの豪華な食べ物や飲み物を飲まされ徐々に意識(痛み)を消失させます。コカを飲む・食べるという事はインカ文明の人にとって「人としての痛みを無くし神の領域に達する」事も意味します。生贄の旅とは人間を卒業する旅でもあったのです。そして山岳地帯に到着させると一斉に生贄の命を絶ち遺体を聖贄として湖に沈めたり埋めてたりしているのです。


 もう分かりますよね。スーパイはそんなこと要求してないのです。


 つまりインカの人々にとって魔王と呼べる存在は実は地下とか魔界ではなく天空に居たのです。じゃあなんでスーパイは魔王の汚名を着せられたのか。おそらく山岳民族と鉱山で働く平野部の人では全く信仰が違うからでしょう。むしろスーパイは無事生贄に捧げられずにあの世に旅立った人を守る神様だったのではないでしょうか。スーパイ信仰をおそれた天空……つまり山岳民族の人はスーパイ信仰の広がりを恐れスーパイを「魔王」と呼んだのでは?


 なお「マチュピチュ」と言われた遺跡は1911年に発見されました。『ナショナルジオグラフィック』1913年4月号で世界的に有名になりました。インカ帝国の皇族の別荘地ということまで分かっております。実は避暑地だったのです。そしてこのような遺跡がペルーの山岳地帯に数々存在することまで分かりました。ふもとの遺跡群とは全く違うわけです。

 2022年に実は「マチュピチュ」と言われた遺跡は「ワイナピチュ」と呼ばれることが分かりました。とはいえもう約110年後の新発見で世界中でもう「マチュピチュ」で世界遺産名ごと通ってしまっているので2024年現在ではもう名称変更は行われないとのことです。「ワイナピチュ」とは「マチュピチュ」のすぐ北側にある神殿の意味では無かったのです。ちなみにこの「ワイナピチュ」に月の神殿がありここでも生贄を捧げていました。


 そして生贄に捧げられし神々を信仰していた者たちこそ天空、つまりインカ文明の貴族たちと神官たちです。


 そして生贄とされた少年少女とその生贄の同行者には壮絶な冒険が待っていました。断崖絶壁の山を登るのですから。神々に捧げられず旅の途中で死亡したり同行者も崖から落ちて命を落とすこともあったでしょう。つまり生贄に捧げる者も生贄にされる者の痛みを共に味わえということです。そんな悲惨な信仰を地上に居たスーパイ信仰者たちは止めようとしたのではないでしょうか。つまり魔王を退治しようとしたものこそが「悪」だったという悲惨な物語が浮かび上がって来るのです。


 なおインカ文明は文字を持ちません。口伝くでんです。つまり書籍で語られる「物語ストーリー」ではなく「テールズ」なのです。ただしインカ帝国の人々は、石板ではなくひもを使って言語情報を伝えていました。なので徐々にひもの形で古代文明の解析がなされてきたのです。


 口伝1

 口伝2

 口伝3……


 という大量の口伝伝承群と大量の生贄が発掘されCT検査やDNA解析の結果薬物が飲まされていたとかふもとに居る人たちより生贄は上等の服を着ていたとか生贄の旅は壮絶な冒険だったことが次々分かったのです。つまり1913年当時にはないDNA解析やCT検査や地質調査などで真実が分かったという事です。

 そして山岳民族つまり支配者こそが下界ふもとを支配し生贄や税などを要求していたのです。これを「魔王」と言わずして何が魔王なのでしょう。中には体育座りのまま縛られ生贄として命を絶った者も居ます。


 これですね、口伝を解析していけば行くほどおそらくRPGとして応用できる可能性が私は高いと思いますね。また大量に生贄を要求した真の目的は支配地域であるふもとの地域の力をそぐためだった……。そういうことでは。


 中には生贄の風習に耐えられずにパーティーを裏切る強キャラも居た事でしょう。同行者と生贄たちはスーパイ信仰の街つまり鉱山の街に逃れた者だって絶対に居るはずです。だからこそそんな裏切り者は「魔王」信仰者と言われたのでしょう。じゃなんでインカ帝国軍はふもとの鉱山を襲わないのか。たぶんですが鉱山街は帝国に貢納しており鉱山から来る収入を無くすのを嫌がったのでしょう。つまり皇帝たちは鉱山とその周辺を支配下に置いてたけど完全には支配をしていなかったということです。あるいは旧約聖書に出て来る「逃れの町」と同様の機能を鉱山街は持っていたのかもしれません。


 ――つまり、魔王スーパイを滅ぼす者こそが真の悪だった


 残念なんだけどDQとかFFのように魔王だのラスボスを倒せば終わりじゃなくてもっと深く掘り下げていくと主人公こそ「悪」だったという悲惨な伝承が南米の口伝の現実だったのでしょう。


 では魔王とは誰か? 実はインカ神話にはそれぞれ四柱の創造神がおりそれぞれが追放されています。特に二番目の創造神ワリャリョ・カルウィンチョに至っては「口から火を吐き、下界の人々に対し二人以上の子供を持つことを禁じ、二人の子供のうち一人を両親に選ばせたうえで自分が食べるために生贄を差し出すことを要求する神です。たぶんこれはインカ帝国の勢力関係を示しているのでしょう。「口から火を吐く」とは比喩で火攻めをしたに違いありません。おそらくですが……つまり四回政権交代が起き天空(=皇帝・山岳地帯)に居る魔王を三回倒したということになります。しかしせっかく倒した魔王も結局自分達が魔王化してるのです。


参考文献: 『ナショナルジオグラフィック』

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