第2話
地球とはなんだろう。太陽系とはなんだろう。江戸時代とは?戦争とは。
俺たちは一つものその言葉を知らなかった。
アテナイス....いいや、彼女ということにしよう。
俺と彼女は本当の世界すらも知らなかった。
だが、知らなくても良かった。
「ねえ柚汰。わたしの名前には何で漢字、ないの?漢字、あったほうがかっこいいよ!」
「そうか?おれはアテナイスの名前のほうがかっこいいと思うけど...」
今俺は、可愛らしく頬を膨らました彼女の隣に座っている。
不服の感情の現れなのだろうが、俺にとっては愛しい以外何物でもなかった。
湖が広がっていて木陰になっているこのベンチは、意外と穴場で人も少なく俺たちのお気に入りの場所だ。
日本帝国福岡支部では12歳になると国立魔法学校という全寮制の学校へ入学するのがお決まりなのだが、なんせ俺たち二人はまだ6歳。
特にやることがなく、普段はここで時間を潰している。
普段、は。
「ねえ柚汰」
「...なに?エミリア」
「あの人、可哀想」
そういい人差し指を突き出している。彼女の指の先には、それこそ先程説明した国立魔法学校の制服を着た青年がいた。
今にも死にそうな表情を浮かべた顔の目元には隈があり、乾燥し荒れた肌が死にそうという表情をより際立たせている。
何しろ全寮制。ストレスでやつれてしまうのもよくあることだ。
だが、そのよくあることを彼女は見逃さない、逃さない。
それを理由に、自分が死にそうにならないよう、精神を保っている。
「いってきて...いいよね?」
吐息がこもったその声が発せられた彼女の表情は、どこか興奮したような、そんな感じだった
「......行こうか」
その瞬間、彼女は走り出した。
腕を大きく振って、みるみる青年に近づいていく。
長く伸ばされた髪とチェック柄の上品なワンピースが風になびき、俺は追いかけるので必死だった。
そして彼女は青年に追いついた。
そこから先は簡単だった。
「ねえお兄さん。一緒にお話しよう?」
「.......」
青年は何も言わず救われたような表情で彼女の後へついていった。
衰弱した人間の精神ほど、漬け込みやすいものはない。
そして、彼女は青年の手を引いていく。ビルの間に、人気のない方に...
不審には思うだろう。だが、抵抗できない。そんな不思議な力を彼女は持っていた。
「まっ...て、エミリア....!」
俺のそんな囁きも、今の彼女には聞こえない。
俺が追いついた頃には、もう全てに片が付いていた。
目の前に広がる紅の景色、輝く赤色に染まった彼女の手。
壁には血がこびりつき、その壁に横たわるようにして先程の青年が首から血を流して座っている。
そこにただただ棒のように立つ彼女の手は、肘の部分まで赤く、身体強化で首を貫いたのは一目瞭然だった。
俺は思った。美しい、と。
それと同時に実感したのだ。
彼女は美しく繊細。
.....そして、冷酷な化物であるということを。
ゲッケイジュの鬼 @onsijiumu
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