第1話
_______この世界は不思議だ。
普通すぎる。
そう、俺ははつぶやく。
まるで刺激を求めるような、救いを求めるようなそんな声色で。
そんななか、俺は出会ってしまったのだ。
アテナイス・ターズ・エミリアという人間に。
彼の心臓は高ぶった...心拍数が上がり、ささやかな風を運命だと感じた。
そんな彼には、花を刺激する悪臭も、赤く染まっている他人の体も、ただの背景にしか過ぎなかった。
「...お兄さんも、こっち来る?」
ただ、魅了された。そう言いながら手招きする、アテナイスという少女に。
「うん」
俺はは短く答えた。彼女に近づきたかった。
「なにしてたの?」
俺が聞くと、
「わからない」
と彼女は答えた。
「これがなんなのか、私にはわからない。でも、悪い気はしない」
平然と言ってのける彼女に、嘘はないと思った。
人殺しをわからないで済ませる彼女に、恐怖はわかず、なぜかより一層惹かれた。
「お兄さんは私のこと、気持ち悪いと思う?」
少し寂しそうな瞳をしたアテナイスは、そう言いながらこちらを見た。
「なんで?」
「だって、きっとこれは悪いことだから。わからないけど、きっとそう」
子供にしては大人びた口調だった。今思えば、俺より彼女のほうがわかっていたのかもしれない。
その頃の俺には、今の俺のような知性はなかった。だが本能が告げていた。彼女のわからないを、自分だけはわかりたい。
「気持ち悪いとは...思わなかった」
少し顔を明るくしたアテナイスを横目に見ながら、僕は彼女に聞こえるように、もしくは独り言のようにつぶやいた。
「むしろ、きれいだった」
綺麗。血に染まった人の体を呆然と眺め、なんなら殺しを行った少女に、綺麗という言葉を使ってしまった。
そう。俺は、彼女の殺しを肯定した。
「そう言ってくれた人、初めてかも」
アテナイスと俺。ともに6歳の頃、俺は救われた。
退屈という名の、強敵から。
それから俺とアテナイスはよく一緒にいるようになった。
あの日から時々会うようになると、家が近くだったことまで判明した。
自分で言うのもなんだが俺はなかなか裕福な家で生まれ、ここまで不自由なく育てられてきた。アテナイスも同様で、俺と同じような家庭に生まれ、家庭環境も似ている。
それもあり意気投合した友人だと親に紹介するととても喜び、これからも仲良くしなさいと言われた。
それもあって、俺達の関係はだんだん深く繋がっていった。
しかし、決定的な違いが一つあった。
アテナイスは、魔法特化型の隠し子で、俺は完全に戦闘特化。良く言えば近接戦闘特化型、悪く言えば筋肉特化型の隠し子だった。
一応、説明をしれておくと、
この世界には魔法が存在するが、それを使えるのは悪魔が現実に残した血を受け継ぐ、隠し子だけだ。
その隠し子でも受け継いだ血によって使える魔法は大きく異なり、俺とアテナイスはその両極端の位置にあった。
「じゃあ二人で組めば最強ってことだね!」
「あぁ。俺たちは二人で一つ、ずっと一緒だ。だろ?」
「うん!」
(俺はお前を一生守るよ。だからお前は俺のことを...)
一番言いたかった最後の気持ちは言えることもなく、にっこりと笑った冷酷な人殺しの愛おしい表情を、ただただ眺めていた。
大人たちからは、子供だった俺達の小さな約束の一つに過ぎなかっただろう。
だがこの小さな約束は、俺たちの中では大きなもので、これからを捻じ曲げていく発端だった。
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