三人よればなんとやら
生徒会選挙に負けず劣らずの盛り上がりを見せる球技大会。流星達2の2男子はドッジボールに出場し、見事予選を突破。決勝ラウンドへと進んでいた。
次なる相手はレオンと凌を用する2の1男子。二年生ながらに優勝候補に挙げられる程の実力を兼ね備えたクラスだ。
トーナメント表を見た一翔が全員に向かって話始める。
「次の相手は2の1だ。レオンと凌のいるクラスだな。実力は三年生に匹敵すると言われている。勝つなら対策は必須だな」
「あいつらなんか謎に仲いいんだよな…コンビネーションはバッチリだぜ」
レオンと凌は仲がいい。流星からしたら不思議でたまらない。
レオンは知っているのだ。凌の流星に対する思いを。なんでも、『騎士の瞳は真実を映す』のだとか。言葉にはしていないが、その思いは誰よりも熱い。レオンは流星のことが好きな人は好き(響華を除く)なので、レオンの凌に対する好感度は高い。
凌としてもレオンは他の面々とは違って自分に危害を加えてこないため、突き放すようなことはしていない。そのため、二人の関係は良好だ。彼らのコンビネーションは戦う上で大きな壁になるだろう。
「ま、心配する必要は無いさ。だって、俺がいるんだからな!」
胸を張り上げてそう言い張る剣人。その自身は一体どこから来ているのか。流星にも分かりかねない。
「…なんでそんな自身満々なんだよ」
「俺は今日活躍しまくって優樹菜さんに振り向いてもらうって決めてんだよ」
出不精な優樹菜がこの球技大会に出場していないことは言うまでもない。そんなことを剣人が知るはずもなく、意気揚々と次の決戦に向けての準備をしている。恋は盲目とはこのことなのだろうか。
「俺もうむり…疲れちまったよ」
垂れる汗を拭いながら将司がそう呟いた。なお、彼はボールが避けられないため突っ立っていただけである。
ぐったりした様子の将司に賢治がすかさずツッコミを入れる。
「お前は突っ立っていただけだろ」
「お前盾役なんだからもうちょい頑張れ」
「お前人をなんだと思ってんだよ」
「肉壁」
「脂肪の塊」
「頼むから死んでくれ」
そんな他愛も無いやり取り(?)をしていると、会場にアナウンスが鳴り響く。
「呼び出しのお知らせを致します。第一体育館、第二コートでドッジボール2の2対2の1を行います。選手の皆様は11時10分までに集合をお願い致します」
「どうやら時間のようだ。皆、行くとしよう」
「よっしゃ、見ててくれ優樹菜さん…!」
(いねぇっての)
一翔を筆頭に流星達は会場へと向かった。
第一体育館へとやってきた流星達は数分の練習時間を終えて最後の作戦確認を行っていた。
「いいか?まずはレオン以外を落とそう。アイツは正直言って規格外だ。アイツにボールが渡ったら全力で逃げろ」
「はいはいしつも~ん」
「なんでしょう糞剣道部エース」
「レオンくん一人にしたらどうやって倒すんですか?」
「それはその時考える」
「考えてねぇのかよ」
そうは言ったものの、レオンを倒すのは困難というレベルじゃない。精神的にも身体的にも隙のない彼を効力するのは難攻不落だ。もし倒せる人間がいるのだとしたらそいつは地上最強の生き物だろう。
悩む流星達に審判の生徒の一人が駆け寄る。
「すいません、2の2のどなたかボールのじゃんけんを…」
「…ここ最近運がいいなって人ー」
「俺がやる」
自信満々に手を上げたのは剣人。愛する人間のために戦う人間は強いらしい。止めても無駄なことは分かり切っているので、運命は剣人に委ねることにした。
対して相手側から出てきたのはレオン。偶然にも剣道部対決になったようだ。
「レオン、お前何出すんだよ」
「グーです」
「よし。…じゃんけん!」
「…で?」
「負けた」
「死ね」
「恥さらし」
「創生の汚点」
「言い過ぎだろ。そろそろ死ぬぞ俺。…うぇ〜ん」
「すいませーん!整列お願いしまーす!」
流星達は泣くフリをする剣人を置いて並び始める。あからさまな泣くフリは無視するのが剣人の扱いのコツだ。
コートのエンドラインに沿って並ぶ流星。正面の凌が飛ばしてくる怨念が空気を伝ってひしひしと伝わってくるが、無視が安定だと考えた流星は無視した。
(…なんかこう見るとアイツでっかいな)
並んだ相手の列を見てもレオンは飛び抜けた体格をしていることが分かる。生まれ持ったものを更に磨いた結果がアレだ。
双方のメンバーが集まったのを確認した審判はボールを持って話し始める。
「それでは、準決勝2の1対2の2を始めます!礼!」
甲高い笛の音と共に礼をして始める。流星達は各々の位置へと散らばった。
最初はどこかの誰かが負けたせいで2の1のボールでスタートだ。レオンがその大きな片手で審判からボールを受け取る。審判の合図と共に試合開始だ。
「よーい、スタート!!!」
「我が星とはいえ手加減はしませんよ…ふん!」
「おわッ!?!?」
レオンの手から放たれたボールは弾丸の如き速度で流星に一直線に飛んでくる。肩に大砲でも着いているのだろうか。流星は超反応を見せて上体を反らして躱す。しかし、ボールはそのまま一直線に後ろにいた将司の顔面にヒットした。顔面なのでセーフである。
「ぐがぁあッ!?!?」
「将司ナイス顔面キャッチ!」
「流星てめぇ…覚えてろ」
落ちたボールをすかさず剣人が拾い上げる。剣人は優樹菜への思いと力を目一杯込めてボールを投げた。渾身のそのボールは相手生徒の一人に見事ヒット。弾かれたボールは都合よく外野へと飛んでいった。
「ラッキー…!くらえッ」
「そうはさせません!」
近くの生徒を狙ったそのボールはかばったレオンによってキャッチされてしまった。
「あいつキャッチもできんのかよ…!」
「とりあえず逃げろ!アレに当たったら死ぬぞ!」
流星達はまるで化け物から逃げ惑う妖精のようにバラバラになって逃げる。ヘイト分散と被害を最小限に抑えるための策だ。
「まずは貴方ですッ、ふん!!!」
「また俺かy…」
そう吐き捨てて逃げようとしたときには既にボールは目の前。躱すことなど当然出来ない。将司は悲鳴を上げる暇もなくボールがヒットしてしまった。
「ぐああああああああああああッ」
「将司ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…ナイス囮」
「死んでくれ頼むから」
「くそッ、将司の敵だッ!」
将司の犠牲を無駄にさせまいとチームの一人がボールを投げ出す。不幸なことに飛んだ先にはレオンが。放った渾身のボールは呆気なくレオンの手の中に収まる。
「これでもう一人です!!!」
「うわあああああああああああああああああああ」
「まずい、おいお前ら!当たらなくてもいいからレオン以外の所に投げろ!!!」
「任せろッ」
剣人の呼びかけに応じて一翔が相手の選手の一人にヒットさせる。当てては逃げ、当てては逃げのヒットアンドアウェイを繰り替えす。
「死ねっ」
「うわっと!?…なんか怨念が飛んできてるんだけど!?」
「チッ、外したか…」
(アイツ元外野かよ…)
流星の視点が反転。床は天井。天井は床に切り替わり、向かってきたボールは顔の数センチ先を通り過ぎる。
外野から飛んでくる怨念とボールをバク転を駆使して交わしていく流星。普段使うことのない身体能力を存分に発揮していく。
「俺の恋路の糧になれッ」
レオンと凌に負けじと輝きを見せる剣人。唯一残念な所といえばこれを優樹菜が見ていないという所だ。
しかし、レオンも黙って見ているはずもなく、剣人を狙いながら他の選手に次々とボールを当てていく。
「くっ、流石に黙って見ているほど安い男ではないか…まさに獅子奮迅と言った所だな」
「そんなアニメみてぇなセリフ吐いてる暇があったら俺の事助けろ!」
レオンの豪速球を紙一重で交わし続ける剣人。喋る余裕のある所を見るに計算して躱している。スカしたやつだ。
剣人の躱したボールをキャッチした外野がレオンへパスを出す。
「剣人は後回しにしましょう。我が星よ、ご覚悟を!!!」
「俺かよッ!?」
レオンの放つ豪速球が流星に迫る。またバク転で躱そうとはしたものの、不幸にも足がもつれる。
(まずい…!)
「流星ー!!!」
「させるかッ…ゴフッ…」
「け、賢治!」
ボールが流星の目の前に来たその刹那、賢治が流星をかばって目の前に飛び出す。ボールは外野に弾けたものの、流星に当たることは無かった。
レオンの豪速球の勢いに吹き飛ばされた賢治は床に打ち付けられる。
「流星…お前がレオンを倒せ…」
「倒せったって、どうやって…」
「おい流星!無駄死ににかまってる暇ねぇぞ!」
剣人の呼びかけに流星は顔を上げる。外野へ飛んでいたボールは既にレオンの片手に収まっている。
気がつけば残ったメンバーは流星、剣人、一翔の三人のみ。相手はレオンの他にもまだ4名が残っている。
「おいどうすんだよ…このままじゃボール回され続けて終わりだぞ」
「…流星、キャッチしろ」
「はぁ?あんなのキャッチしてもふっ飛ばされて終わりだろ!!!さっき賢治がぶっ飛んだの見てただろ!!!」
「なら、俺と一翔が後ろから支える!だからキャッチしろ!」
「誰がそんなバトルマンガ見てぇなことできるか!じゃんけんで頭おかしくなっちまったのか剣人!」
「今はそれに委ねるしか無い!三位一体、俺達の力を結集するんだ!」
「一翔まで…あぁもう分かったよ!やるしかないんだな!行くぞ!」
どっしりと構え、ボールを受け止める体制に入った流星。その後ろを剣人と一翔が支える。三人は一か八かの策に出た。
「よっしゃ来いやぁぁああああああああああ」
「行け流星ー!!!!!!!!」
「行くぞ剣人、一翔!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」
「ふん!」
レオンが放った光の槍の如き豪速球は流星に向かって一直線…かと思われた。だが、ボールは一瞬にして流星の顔の横を通過。
「「「え?」」」
ボールが収まったのは流星の手の中ではなく、外野の手の中だった。
不運にも外野にいたのは怨念を持ち合わせた御曹司様。握りしめたそのボールからは見えないはずのドス黒いオーラが見える。
「死ね」
「「「あ」」」
結局流星達は準決勝で敗退となった。
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