開幕、激闘の球技大会

 球技大会当日。空は雲ひとつ無く晴れ渡り、太陽が燦々と輝く。遮る物が無いため、日光は大地へと降り注ぐ。そのせいもあってか、気温もいつもよりも高く、熱中症警報が発令されている。



 そんな猛暑の中、生徒達はそれぞれの色とりどりのシャツで大講堂へと集まっていた。それぞれのクラスTシャツが映える。

 そんな中、流星はどこにいるかというと、舞台の袖口にて待機していた。

 生徒会長である彼は挨拶という役目がある。少々面倒くさいと感じるが、これもれっきとした生徒会長の役目。しっかりとこなさなくては、反乱が起きるのも時間の問題だ。



(う〜…あっちぃよここ…早く初めてくれ)



 舞台の袖口は小さな窓が一つあるぐらいで冷房などの設備は一切存在しない。そのため、かなりの蒸し暑さだ。新たに改善案の一つとして加えておくのが良いだろう。



(数週間前もここに居たんだよな。そう思うとなんかちょっと感慨深いな…これがエモいってやつ?)



 数週間前、流星は生徒会選挙でこの場に立っていた。多くの仲間達の力を借りて激闘を繰り広げ、なんとか勝利を掴み取った。そして今、生徒会長としてこの場に立っている。そう考えると流星はなにか考える物があると感じた。



(…ま、今回は挨拶だけだし、気楽に行くか)



 開催を今か今かと待ちわびる声で賑わう大講堂。準備を完了した実行委員がマイクを手に取った。



「会場にお集まりの皆様、おまたせ致しました!これより、球技大会開会式を始めます!」



 進行役の言葉に会場が湧き上がる。開会宣言をしただけでこれとは。流星は改めて球技大会の始まりを実感する。白熱した戦いになりそうだ。



「というわけで、まずはじめに我らが生徒会長からお言葉を頂きましょう!それでは行きますよ!せーの!」



『『りゅーせーくーん!!!』』



(そういう感じかよっ!?)



 流星はリハに無かった展開に驚きながらも、勢いよくステージに飛び出していく。

 姿を現した流星を生徒達は拍手喝采で出迎えた。



「りゅーせー!気合入れてけー!!!」



「緊張してんじゃねーのー???」



「羨ましいなこのリア充ー!!!」



 なんだかヤジも混じっていた気がしたが、流星は気に留めず用意された演壇の前へと向かう。

 マイクをとんとんと叩いて確認した後に、一礼をして話始める。



「…皆様おはようございます。生徒会長の諸星流星です。…あぁ、なんかここに立ってると生徒会長としての実感が湧いてきますね。今回は行事での挨拶は初めてということで私もそれなりに緊張しています。それなりに」



 普段の話し方ではなく、猫を被ったよそ行きの話し方で話す流星。『それなりに』の部分を強調しているが、本当は結構緊張している。



「さて、今日は皆さんが待ちに待った球技大会です。各クラスで練習を積んできたことでしょう。私もクラスの皆と精進してまいりました」



「お前結構サボってただろー?」



「ん”んっ…なにか聞こえた気がしましたが、気の所為でしょう」



 ヤジとのやり取りに客席からはつっこみと笑いが巻き起こる。長く退屈になる演壇での発表はこういう軽いジョークが大切だ。



「本日は快晴の空となり、暑さも厳しい猛暑日となりました。皆さんくれぐれも熱中症にはお気をつけて。保健室の玲奈先生にはあまり迷惑をかけないようにしましょう」



 流星はチラッと教職員側を横目で確認する。案の定、玲奈が悶ている。あと小一時間はあのままだろう。変な動きをされては困るので、流星には好都合だ。



「皆様の健闘を祈りまして、これで生徒会長の挨拶と致します。皆協力して頑張ってね!あ、あと俺面倒くさいから2組の皆は俺を決勝戦につれて行けるように頑張ってね〜」



 流星は一礼をして、生徒達からのツッコミを背に受けながら袖口へと姿を消していった。

 今日の一仕事を終えた流星はほっと安堵の表情で息を吐いた。



(ふぅ…こんなものか。さて、後は少し待機か…)



「流星くん、お疲れさま」



「え、響華さん!?」



 少しサボってから行こうかと考えていた流星を出迎えたのは妻(自称)の響華だった。まさかの登場とサボれなくなることへの危惧に流星は動揺する。



「な、なんでここまで…」



「仕事を終えた夫を出迎えるのは妻としての役目でしょう?それに、流星くんサボりそうだし」



 どうやら流星の考えは既に筒抜けだったようだ。響華の懐疑的な視線が流星の泳ぐ瞳を突き刺す。さすがの流星も愛想笑いを浮かべるしか無い。



「あはは…ほ、ほら、ルール説明始まりますよ。戻ったほうが…」



「ルールなんて既に頭に叩き込んでるわよ。いいから早く行くわよ」



「あ〜ちょっと、一回待ちましょ。ね?ね?」



 流星の言い訳など響華は気にもとめない。必死の弁解も虚しく、流星は響華に引きずられていった。

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