心は、
最近、何をするにしても彼の顔が頭に浮かぶ。勉強をしてても、料理をしてても、スポーツをしてても、何をするにしても愛しの彼がよぎる。
愛しの彼。出会いは小学生の頃だった。もとから魅力的な彼だったけど、注目を浴びることはそんなに無かった。なんでだろう?今でも不思議だ。こんなに素敵な人が近くに居たのに皆何してたんだろう?
そんな彼と私の関係はいうなればただの顔見知りだった。出会ったら話すぐらいのそんな淡白な関係。最初はそんなものだろう。
今考えてみれば何をしていたのか…昔の自分に一言言えるとしたらもっと頑張れと言ってやりたい。
時計の針が動き出したのは中学時代。屋上での出会いだった。
自分で言うのもなんだが、私は結構モテる方の人間だった。上級生からのナンパは絶えなかったし、同級生からも熱い眼差しを向けられていた。正直面倒だったけど。
そんな中でもしつこい先輩が一人いた。名前は…なんだったか。たしか矢野なんとか先輩だった気がする。興味が無かったからあんまりよく覚えていない。
その矢野先輩はとりわけしつこくて断っても追いかけてくるし、まさに振り払っても離れないひっつき虫みたいな人だった。めんどくせぇやつ。…で、その先輩に追いかけられてた時に屋上で出会ったのが愛しの彼、諸星流星くんだった。
彼はあんまり乗り気では無かったけど、渋々助けてくれた。話してはいたけどあんまり私のことは覚えてなかったみたい。少し残念。
ここしかないと思った私は持ちかけた。『私の仮の彼氏になって欲しい』と。我ながら少し無理矢理すぎた気はする。ま、結果オーライってやつかも。
それから私と彼は仮初の関係になった。合法的に彼の隣に立てる。本人には隠してたけど幸せだったな。
彼とは本当のカップルのように過ごした。ご飯を食べさせ合ったり、手を繋いでデートをしたり、お部屋で二人で過ごしたり。夏は海に行ったりもした。冬は身を寄せあって眠ったし、春は二人でお花見にも行った。
私は彼の隣にいるだけで幸せだった。何をしてても彼は微笑んで答えてくれる。優しい彼。まさに太陽のような暖かさの彼は私の心の支えだった。
でも、彼はなにかを抱えている様子だった。私には計り知れない、大きななにか。私がそれを知るのは二年目の秋だった。
彼は手を差し伸べ続けた。もがき苦しむ人。泣きながら助けを求める人。救済を懇願する人。彼はそれが悪人だろうと手を差し伸べた。その姿はまさにヒーローだった。
でもそれと共に彼の身体はボロボロになっていた。私が気がついた時にはどうしようもないくらいに。
彼は大事な人を失ったらしい。私にはそういう経験が無い。だから分かりたくても、分からなかった。でも、今は分かる。その悲しみは深くて、もがいても抜け出せない泥沼のような感情なんだと思う。
私は願った。愛する彼が、私のヒーローが幸せになって欲しい。これ以上傷つかないで欲しい。私は何が起ころうと絶対に彼を支えると決めたのだ。彼の側で、一生。
でもその願いも、壊れるのは一瞬だった。
三年目の春。私は彼から別れを切り出された。あの時の衝撃は今でも覚えている。頭を殴打さたような衝撃。ぐわんぐわんと揺れる視界。ドロドロに混じり合う様々な感情。彼の前では明るく取り繕ったけれど、私の心には確かにヒビが入っていた。
確かに仮初めの関係だったが、私にとって彼は本当に愛する人間だったのだ。愛しの彼。たった一人、唯一無二の存在。それを失った私の心は既に限界を迎えていた。
高校に入った彼はどうやら新しいパートナーを見つけたらしい。なんで。なんで私を置いていったの。
彼と彼女の関係は小学生まで遡るらしい。スタートは私も一緒だったのだ。なのに、この差は何なんだろうか。
彼女は妻と名乗って彼の横に居座った。それを見た私の心はぐちゃぐちゃになってしまった。
なぜという疑問と押し寄せる絶望。不快な感覚が身体を駆け巡る。言葉にならない声が口からこぼれた時には私の頬には涙が伝っていた。
なぜ。なぜ彼女なのか。そう問いかけても答えは帰ってこない。むしろその”無”が自分を表しているような気がして、私はどうしようも無かった。
お願い、お願いだから、もう少しだけ。
私はそれでも諦めらなかった。まだ、まだ彼の側にいたい。せめて、せめても彼の目に留まるところに。
彼はそんな私を気遣ってくれた。時々、甘やかしてくれたりもして。けれど、それが私に希望を”持たせてしまった”のだ。
願う私は追いかける。彼の背中を。足跡を。その横顔を。でも、追いかけるほどに見えてくるのは彼女と彼の二人の姿。その間には入れる隙は無い。
それでも、少しでも振り向いてくれたら。一瞬、一刹那だけでも。お願い。
そう思っても現実は非情だ。
彼は私が追いかけるほどに離れていった。なぜ、なぜ私を置いていくの。行かないで。心ではそう思っても彼への申し訳無さと臆病な心が邪魔をする。
彼との距離とは対照に追いかけるほどに彼への気持ちは抑えられなくなっていく。お願いだから振り向いて。私を見て。どうして、どうして見てくれないの。
なんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんで自分はこんなにも臆病なのだ。
なんで自分はこんなにも不幸なのだ。
なんで自分はこんなにも愚かなのだ。
なんで、自分は。
私は、どうすればいいの
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