いつだって太陽
「はぁ〜だり〜…」
流星はストレートすぎる言葉を呟いた。それを追いかけるように生気の失われた行きが口から吹き抜ける。
ここ最近はというと、迫った球技大会に向けての練習ばかり。出不精な流星の体は日に日に削れ、毎日のように筋肉痛と言う名の悲鳴を上げている。
どこに行っても球技大会の話で埋め尽くされているこの学園内で、この昼休みの生徒会室だけが流星の安息の地だった。クーラーから出てくる冷気を浴びながら、流星は疲弊した体を休ませる。
「my star、それ今日で何回目だい?既に指では数えられないぐらい聞いた気がするんだが…」
「うっせぇな…こっちは大変なんだよ。あっついなか練習させられるわ、運ばれた先の保健室で襲われそうになるわ…」
「ふぅ〜ん、魅力も罪、ってやつかい?…一翔、紅茶はいるかい?」
「あぁ。一杯頼むよ」
流星は返事を返すことなくソファの上で溶けるようにダラダラする。この後に控えている練習の事を考えるとやってられない。
そんな流星を不敵な笑みを浮かべて見つめる美少年が一人。
「そうだよな〜大変だよな〜my starさんはw」
「…なんでここにいるんだよこいつ」
「お前が優樹菜さんの居場所を吐くまでついてくことにしたんだよ。…それにしても、恩人をこいつ呼ばわりか?誰が運んでやったのか忘れないで欲しいね」
「その誰かさんのせいでひどい目にあったんだよ…」
鼻高くそう語る剣人。いちいち作った声で話すのが鼻につく。流星の気を逆撫でするのに特化したこの男は流星の安らぎを邪魔する不安因子だ。流星は睨む気力も無いためソファにへたり込む。
「いいからお前は優樹菜さんの居場所を吐け!」
「う〜ん、ヒントは本校舎三階」
「三階!?よっしゃ、待っててください優樹菜さあぁぁぁぁぁぁん!」
剣人は流星のヒントを聞いた瞬間、その目を希望に輝かせて生徒会室を飛び出していった。なお、今のヒントは道化師もびっくりの真っ赤なウソだ。
その会話を剣人の横で聞いていたレオンが口を開く。
「…失礼ですが我が星よ。あなたはそれほど運動神経が悪かった覚えは無いのですが…」
「…できると好きは必ずしも結びついてるわけじゃないんだよ」
流星自身、運動神経は悪くなく、むしろ少し良いぐらいだ。中学時代は様々な部活から勧誘が来たほどだ。
だが、完全インドア派の性格とオタク思考が合わさり、その運動神経が日の目を浴びることはなくなった。幼い頃から苦楽を共にしている一翔と剣人はそれを残念に思っている。
会話を聞き兼ねた一翔は紅茶の入ったカップをコースターに置いてその視線を本から流星に向ける。
「…流星、お前はやればできるんだからやってみたらいいんじゃないか?スポーツというものは他人との友情を育む上で重要なイベントに…」
「めんどいからヤダ」
「…お前というやつは」
一翔は再びため息を吐く。これでは宝の持ち腐れだ。目の前で溶けているこの怠惰な人間は自分の才能を活かすことすらもけだるげらしい。凛々しかった生徒会長はどこへ行ったのやら。
「改善案として球技大会無しに出来ねぇかな…」
「それは無理だろう。四大行事だぞ?…というかその流れだと体育祭も消えることになるんだが」
「体育祭はいいんだよ。俺は球技が好きじゃねぇんだ球技が」
ソファに顔を埋めて流星はそう吐き捨てた。流星はやるとしたら球技よりも肉体派だ。本人曰く、運動してるって感じがするかららしい。さっきの話と矛盾しているのは触れていはいけない部分である。
疲弊した体とともにソファに沈んいでる流星の元に太陽がやってくる。
「うーっす!りゅーちんいるって聞いたから来たぞー!」
「…真帆」
「りゅーちんどしたー?暑さでやられたかー?」
真帆は起き上がった流星にずいずいと近づいてくる。距離感という言葉をこの太陽は知らないらしい。まるで大型犬だ。
「…んぁ〜暑いって…離れろ〜」
「ん〜なら膝枕してあげる!」
なぜそうなる、とつっこむ場面だったが今の流星にそんな気力は無い。幸いにも今は響華は昼休みなのでいない。流星はされるがままに真帆の膝へと頭を乗せた。
(…やわらか)
「…お前髪どうしたの?」
「お、流石りゅーちん!そこに気づくとはさては私の事好きでしょ?」
「…まぁな」
真帆の今日の髪型はハーフアップ。ロングで下ろしているいつもとは違う髪型だ。流星は真っ先にそれに気づいた。
気づいてもらえた事が嬉しい真帆は思わず顔をほころばせる。流星はそっけない返事で返した。
「へへー照れちゃって〜かわいいんだから」
「…そうかよ」
「で、なんの話してたのー?」
「球技大会の話だ。流星がどうしてもやる気にならないみたいでな…」
「え〜?りゅーちん運動神経いいんだからやりなって!かっこいい姿私に見せてよ〜」
「…気が向いたらな」
「…分かりやすいねぇ〜」
そっけない態度をとっているつもりだろうが、バレバレだ。表情が隠しきれていない。これには理央もやれやれと言った様子。
表情を隠そうとする流星の瞳に真帆が映る。普通の人なら分からないだろうが、少し虚ろだ。ツギハギで繕ったようなその場しのぎの表情。太陽にも影はあるものだ。
「…真帆は何に出るんだ?」
「私はバスケー!うちのクラスは経験者が多いんだ〜」
「真帆は運動できるから、きっと活躍するだろうな」
「りゅーちん絶対見に来てよね!」
「…あぁ。考えとくよ」
「分かりやすいねぇ!」
太陽のような明るい笑みを浮かべる真帆に流星は微笑んで返す。あまりのデレデレ度に理央も思わず大きな声を上げる。まぁ無理もないだろう。
「なんだようるさいぞ理央」
「…君ぃ、女王がいないからって随分とデレデレだねぇ…」
「…別に」
「…分かりやす過ぎるね」
真帆の膝に頭を乗せながらそっぽを向いて流星はそう言った。どう足掻いても分かりやす過ぎる。目の前で何を見せられてるんだと唸る理央。理央自身奥手なのもあってこういうのには慣れていない。
「りゅーちん私のこと大好きだもんね!」
「…まぁね」
真帆が流星に顔を寄せる。その様はまさに主人に忠実な大型犬だ。流星はどうと言う訳でもなくその頭を撫でる。真帆の扱いは流星が一番理解っているのだ。彼女がどう思うのか、何を感じるのかも。故に、今は彼女に寄り添った。
(…少し眉がたれてる。寂しいのか…あまり無理はするなって言ってるのに…俺が言えることじゃないか)
「真帆」
「何?」
「無理すんな。気軽にいつでも頼れ」
「…えへへ。何〜?急に」
彼氏だった自分にさえもその仮面の下を見せようとしない真帆に少し寂しさを覚えながらも彼女の頭を優しく撫で続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます