生徒会室
生徒会選挙から数日。放課後に流星達は本校舎四階に位置する生徒会室へと集まっていた。
四階の中央にあるその部屋は生徒会にのみ使用が許可されている部屋であり、数年前に改修工事を終えたばかりで内装は新たしい。
中に入ればシンプルな家具が置かれており、テーブルに人数分の椅子。生徒会長が使うであろうデスクにシャワーと仮眠室まで常設されている。徹夜でも生徒会室に滞在できる設備が整えられている。
今日集まった理由は他でもない。生徒会室には私物を置くことが許可されており、今回はそれを置きに来たのだ。
各自置きたい物を持ち寄った9人は生徒会室へと入る。
「ここが生徒会室…意外と広いな」
「噂には聞いていたがここまで設備が充実しているとは…頑張ったら住めそうだな」
初めて見る内装に目を輝かせる凶真。子供のように興味深々だ。
一翔も整えられた内装に関心している。流石にここに住むのは学園の目も怖いのでやめてほしいところだ。いくら最高権力とは言え教師には咎められる。
「よっしゃ、早速置く物置いてこうぜ〜」
マイバックを持った真帆が化粧品をテーブルに並べていく。…あまり生徒会室に置く価値を感じないが。
「…なんで化粧品?」
「そりゃあ、いつ化粧が崩れるか分からないでしょ?りゅーちんに可愛くないとこ見られたくないし?」
「…そっか。理央は何持ってきたんだ?」
妙に大荷物な理央に流星は問いかける。理央は袋からそれを取り出しながら答えた。
「これかい?これはティーセットさ。こちらでも紅茶を飲めるようにしたいのでね」
理央が持ってきたのはティーセット。実験室での様子も見る限り理央はお茶好きだ。彼女らしい。
理央はカチャカチャと陶器がぶつかる音を立てながら棚へと一つ一つしまっていく。
「なかなか悪くない部屋だねぇ〜ここなら良い実験ができそうだ」
「頼むからそれはやめろ。…レオンなんだそれは」
流星の目が止まったのはレオンの持っているどう見ても銃刀法違反な剣。大きなレオンの体の3分の2ぐらいの長さのそれは振り回せば確実に凶器になるものだ。
日本のものではなく外国の物と見えるが、どちらにせよアウトな感じを醸し出している。
「あぁ、これですか?これは私が誕生日に母からもらったレプリカの剣です。母方の国で作られたものでして、かなりリアルに近いですね」
(…これはセーフなのか?いくら私物を持ち込んでいいとは言えこれはギリギリなラインだぞ)
「レプリカとは言え、これがあれば不審者の撃退など容易いでしょう」
(…ま、レオンが危険なことに使うとは思えないし、いいか)
「…響華さんは何持ってきたんですか?」
「私は茶菓子よ。理央さんがティーセットだから話し合って持ってきたの」
響華の腕に抱えられているのは瓶に詰められた茶菓子。クッキーからスコーンまでその種類は様々だ。手先の器用な彼女のことだ。恐らく手作りのものだろう。
「じゃ仄花のそれも?」
「はい。これは紅茶の茶葉です」
相変わらず背筋を伸ばして姿勢正しく佇んでいる仄花が持っているのは茶葉の瓶。聞けばインドからのものらしい。
これだけ揃えばいいティータイムになりそうだ。流星はこれからに期待しておくことした。
「理央様の腕はかなり立つと聞いています。私も負けぬように尽力致しますのでどうかご贔屓に」
「そこで張り合う必要ないだろ…」
「私のプライドが許しません」
「…そうですか」
変な対抗心を燃やす仄花。仲間になった以上張り合う必要は無いのだが、仄花は割と意思が堅い方の人間だ。何を言ったところで無駄だろう。どうやらこれからのティータイムは波乱になりそうだ。
各々置いている様子を見ていた流星の視界にあるものが止まる。
「…凶真、お前それ」
「ん?あぁ、これか?特攻服だよ特攻服」
「すっげー!夜露死苦とか書いてあるやつじゃん!私も着たーい!!!」
真帆が目を輝かせて見ているそれは凶真が現役時代に着用していた特攻服。
その背には『紅蓮華威那』という金色の文字が刻まれている。紅蓮華威那とは凶真が族長を努めていた組の名前だ。その地区じゃ負け無しの組だったらしい。
「これあると気合入るんだよな。あの時を思い出すぜ…」
「…それ置くのはいいけど昔を思い出して暴れるのはやめてね」
「流石にしねぇよ。安心しな」
「暴れたら切ります」
「怖っ」
「流星、これはどこに置けばいい?」
「…なにそれは」
今丁度入り口から入ってきた一翔が抱えているのは大きなテディベア。流星よりも背の大きいそれは一翔にお腹から抱き上げられ、だらりと手足を遊ばせている。
シンプルなデザインのテディベアは一翔の手によって一旦ソファに降ろされた。
(なんでこいつら変な物しか持ってこないんだよ)
「母上から頂いたテディベアだ。自室に置いておくとスペースを取られて不便だったから持ってきたんだ」
「ここは物置じゃねぇんだよ。変な物持ってくんな」
「…!くまさん…」
「…え?」
一翔の持ってきたテディベアを見て一瞬瞳を輝かせた仄花。流星が視線を向けると、はっとした様子で表情を取り繕った。
流星は見なかったふりをして一翔と話し続ける。
「…とにかく、ここに置いても邪魔だろ。もって帰れ」
「いえ、それは必要です流星様」
流星の言葉に対して珍しく食いついてくる仄花。仄花が他人の意見に反対するのは珍しい。それだけに流星は目を丸くした。
「…なんで?」
「生徒会の仕事は雑務に加えて外回りや書類の整理などが主です。疲れが溜まった時の発散として置いておいたほうが良いでしょう。ですので、置くべきです。いや、置いてください」
「…まぁそこまで言うなら置いておくか。仄花、置く位置は任せる」
「ふふっ、くまさん…」
一翔がテディベアを渡すと、仄花は再び頬を緩ませた。手足をぶらぶらさせて遊んでいる。身長も相まってその姿はまるで幼い少女のようだ。
意外な一面が垣間見えた瞬間だった。
(…案外そういうところあるのね仄花)
「りゅーちんは何持ってきたの?」
「俺?俺は…これだよ」
流星は胸ポケットから額縁に入れられた一枚の写真を取り出した。それは中学時代に撮った瑞希との写真だった。
その写真の中の彼は笑っていて、その笑顔は流星を支えてきた唯一無二のものだ。今も隣にいてほしいと願うほどに彼の存在は尊い。写真を見つめる流星の表情がそれを物語っていた。
しかしそんな流星の背筋に冷え切った刃物が突きつけられるような感覚が走る。久しぶりの感覚だ。
「…誰よその女」
振り向けば案の定響華が光を失った瞳と冷たい声をこちらに向けていた。
「違いますって。前に言ってた瑞希ですよ瑞希」
「否定から入る男は大抵嘘をついているものなの。信用ならないわ」
「なんで信じてくれないんですか…俺が嘘つくわけ無いでしょう?」
「そう言って何人も女と関係性を持ってたのはどこの誰かしら?己の行動を今一度振り返るべきね」
事実を突きつけられた流星は何も返すことができなくなった。返す言葉が見つからない。
この状態になると響華は急激に物わかりが悪くなる。自分以外の答えを受け付けない姿勢は幼児そのものだ。それだから厄介なのだ。
いつも以上に詰めるのが速い響華に手こずる流星。その脇から凌が話に割り込んでくる。
「瑞希は男だ。俺の親友だからな。よく見てみろ。男の制服を着てるだろ」
「…確かに男物の制服ね。でも、男装癖の女の可能性だってあるわ」
「それは無い。…瑞希は俺の幼馴染だ。だからアイツのことは俺が一番分かっている。それに、こいつをかばう理由が俺にはないだろう」
「…確かにそうね。今回はあなたに免じて許してあげる」
間違えたくせになぜ偉そうなのかは触れてはいけない部分だ。昔触れて大惨事になったのは言うまでもない。
流星はデスクの上に彼の写真を置いた。
その隣に更に一枚、彼の写真が置かれる。
「…凌」
「ふん、まさか被るとはな。不服ではあるが、アイツも多いほうがいいと言うだろう」
「…そうかもな」
凌が持ってきたほうの写真は凌と瑞希のツーショット。流星には一度とて見せていない笑顔の彼がそこにはいた。
流星はいつか自分もと思いを馳せる。
(…いつか自分も見れる時が来るのかな)
「ん”んっ…哀愁漂うところ申し訳ないがお二人さん、せっかくだし皆でお茶でもしよう。淹れるから待っててくれ」
「はいはい!私も手伝う!」
「私も手伝います。負けません」
「私も手伝うわ」
理央、仄花、真帆、響華の三人が紅茶の準備を始める。そのうちに男性陣はソファに座り、くだらないことで談笑する。
「…なんだか久しいな」
凌が小さな声でぼそっと呟いた。
「あぁ。そうだな」
その声に応じて流星は言葉を返す。
「…聞くな気持ち悪い」
「いいじゃねぇかよ。また一緒になったんだから少しは仲良くしようぜ〜?」
新しい生徒会室でのティータイムは日が暮れるまで続いた。
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