練られた奇策
未だ興奮冷めやらぬ観客を前に流星は壇上へと向かう。
ここまで場盛り上げた凌に素直に称賛を送りつつ、頭に詰め込んだ公約を蘇らせる。
一翔と理央によって練り上げられたこの公約。その効力は相手に依存するものであるが…凌の公約を聞く限りは余裕だろう。
完璧なお膳立てをしてくれた響華に感謝を送り、流星は壇上へと立った。
「…皆様、お久しぶりです。と言っても、数日ぶりですね。凌君の後でくだらないものとなりますが、私の公約を皆様にお伝えさせていただきたいと思います」
先程の発表まででかなりの盛り上がりを見せている場内を見るに、軽いジョークは不要のようだ。
練り固められたこの公約は優樹菜の考えに基づいて練られたもの。意外性を生み出すに当たって凌のような王道で攻めることは出来ない。
やるとすれば新しい方法、つまり改革。言ってしまえば外道な策でもいいわけだ。
今回のものはどちらとも言えるものと言えるだろう。
流星はスムーズに公約の発表へと移る。
「私の公約は…特にありません」
「…は?」
まさかの奇策に凌も合わせた場内の生徒達は騒然とする。
公約は特に無い。一見不利な勝負に匙を投げたように思えるその策が流星のとっておきだ。
公約を考える、という枠に囚われない実に意外性のある考えだと言えるだろう。観客として客席に座っている優樹菜はにやりとした笑みを浮かべる。
流星はいつもの口調で驚く生徒達に向かって話始める。
「…いや、僕も考えたんですよ?参考書の増設とか、食堂のメニューの改善とか。…でもはっきり言って、ぱっとしないというかなんというか…」
「…チッ」
凌が考えることは流星は大概知っている。王道なその考えに基づいたものは考えるに容易いのだ。
故に、これは凌への遠回しの侮辱だ。凌もそれに気づいたのか不機嫌そうに舌を打った。
流星も凌を一瞥する。
(お、不機嫌そうな顔。いぇ〜いwwwww)
日頃の恨みを晴らした流星は気を取り直して再び生徒達に向かって語りかける。
「まぁでも公約無し!ってだけじゃ当選は確実に不可能だと思うので、一応考えてきました。皆様に気に入っていただけるかどうかはわかりませんが…発表させていただきます」
茶化すような態度から一転、真剣な態度と切り替え、厳かな雰囲気になるように促す。
それに応じて生徒の意識は流星の次の一言へと集められる。
彼が口にした公約は…いや、公約とすら言えないのかもしれない。
それは実に奇想天外、斬新奇抜な常軌を逸したものだった。
「…私が当選した暁には凌君をいただきます」
「…え?」
「ほーぅ…」
侮辱の後に驚きの事実を叩きつけられた凌はらしく無く素っ頓狂な声を上げ、優樹菜は興味深そうな表情で呟く。
場内の生徒達の間には更に騒然とした空気が流れる。立候補者の相手を引き入れるなど、前例が無い。
それと同時に関心の声を上げる者も多数いた。場内はそれぞれの盛り上がりを見せていく。
驚きに驚きを重ねる流星は狙い通りに流れに悪い笑みが零れそうになるが、なんとか取り繕い、続ける。
「…あ、愛の告白じゃないですよ?うちの生徒会メンバーに引き入れるってことです。凌君からも話があったように中学時代に一緒に生徒会やってたんですよね。その時の凌君の有能ぶりときたらもう、私が何もしなくても成り立つぐらいでして。今回も是非、私の役に…ではなく生徒の皆様のために私の元で頑張っていただきたいと思いまして。あぁ、もちろん仄花さんも引き抜かせていただきます。あの二人のコンビネーションは抜群なのでね」
元来この選挙では相手を引き抜く、という行為は暗黙の了解とされてきた。
それは礼儀であり、重んじるべきことであるからだ。それをすることは情けをかけることを意味しており、敗者にとって最高の侮辱以外のなにものでもない。それほど自重すべき行為なのだ。
だが、この男にはそんなものは関係ない。勝負を仕掛けてきたのはそっちだといわんばかりにゲスい顔を凌に向ける。
OBにどうこう言われようとも切り返す策が彼にはある。黒木の名を使い、最悪自らのとっておきを使えば回避できる。
更に追い打ちをかけるべく流星はもう一つの提案を持ちかける。
「それと更にもう一つ。各教室にある目安箱は皆様御存知かと思われます。現在はあまり利用されていないあれを私はうまく活用したい。そこで私は月に一度、あれを利用した生徒集会を開こうと思います」
「さらなる追い打ち、完璧だ」
「なんかわかんないけどいけそー!!!」
凌を一気に追い詰めていく流星の姿に理央も満足げな表情だ。策がぴったりとハマり、ご満悦の様子。真帆も優勢な流星にテンション上がりっきりだ。
「目安箱に入れられた内容を実現できるかどうか皆様とご一緒に議論する、という内容です。この創生学園のさらなる改革の第一歩となることでしょう」
目安箱を使った月一回の生徒集会。生徒会独断の判断ではなく、全生徒が参加する決議となれば信頼性は高い。流星を指示するに値する公約の一つだろう。何人かの生徒が頷いているのが壇上からでも見えた。
先程の衝撃の公約に加えてこの公約。後攻だからこそ効くこの作戦は凌の威を狩るために作られたいわば最強の後出しジャンケンだ。その策に凌は見事にハマってしまったわけである。
苦虫を噛み潰したような表情の凌。ニヤつきを抑えられない流星。勝負は策士へと傾いた。
「少なくはありますが、以上が私の公約です。私は良きライバルと共に最高の生徒会を作り上げます!以上で私の公約の発表と致します」
一礼と共に巻き起こる拍手の嵐。流星の背中を後押しするようなその喝采は彼が袖に消えた後も続いた。
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