副委員長の座はどちらのもの?

「…」




「自分が愚かだといい加減に気づいたらどうなのかしら騎士様」





「そちらこそ自らの愚行に気づくべきではないですか冷たき女王よ」




 空が茜色に染まる夕暮れ時。流星は別校舎は理科室に隣接された実験室にて争う女王と獅子の間で遠い目をして天井を見つめていた。

 二人の喧騒には目を向けず、現実逃避するように天井のシミを数えている。

 互いの覇気をぶつけ合う二人の間には得も言えぬ重苦しい空気が漂っている。

 隣には流星の手をにぎにぎして遊んでいる真帆。そしてその隣には紅茶を啜る一翔と理央。向かいには凶真が不安そうな目で争う二人を見つめている。




(…どうしてこうなっちゃうのかな。もっと平和にいこうぜ平和に)




 流星は心の中で悲痛な声を漏らした。流星のいる所では必ずと言っていいほど争いが起きる。流星の心の中にはなぜという疑問よりも罪悪感が湧き出てくる。

 せめて止めようと考えるが、流星が止めれるほど幼稚な喧嘩ではない。かと言って他の者が間に入ればそいつは女王の氷柱に串刺しにされ、奮い立つ獅子の牙の餌食になること間違いなしだろう。

 どうにも手がつけられない状況に流星の口からは空虚な息が抜け出る。

 こうなった事の発端は数十分前まで遡る。




 数十分前の実験室。生徒会選挙の顔合わせという名目で集まった六人の中に流星はいた。右には響華。左には真帆が座っている。

 右からは身が粟立つような冷気。左からは暖かな太陽のような笑みが向けられている。

 傍から見たら両手に花状態の流星をニヤニヤとした目で見つめながら理央が紅茶を淹れている。困った様子の流星を見て楽しんでいるようだった。




「いやはや、まさに『両手に花』だねぇ〜My Star」




「ははっ、ありがたいことにな…」

 



(こいつ楽しみやがって…!マジであとで覚えてろ…)




 からかってくる理央に睨みを効かせていると、背後の実験室が開く。




「おまたせしました我が星よ。招集に応じこのレオン、飛んでまいりました!」




「よぉ流星。…また大変そうだな」




「あっ、二人とも!」




 背後から聞こえてきた馴染みのある声に振り向くと、流星に向かって跪いているレオンと苦笑いを浮かべる凶真の姿があった。

 ようやく頼れる人間がやってきたと流星は安堵も籠もった声を上げて二人の元に駆け寄る。




「よかった…頼れる人間が居なくて困ってたところだ」




「あら、頼れる人間ならここにいるけれど?」




 表情は動かずとも語気から自信満々な様子が伝わってくる響華に流星は苦笑いで濁しながら誤魔化す。ここは下手に刺激しないのが得策だ。




「…」




(あ、これ行かないとまずいやつだ)




 流星は響華の無言のアピールにより、隣の椅子へと戻る。流星が座ると響華は満足そうに流星の腕を抱き寄せた。腕に当たるふにふにとした柔らかい感覚が当たるたびに込み上がってくる感情を流星は理性で必死に押し殺した。

 その横で二人の存在に気がついた真帆が声を上げる。




「あ!レオーン!キョーマ!久しぶり!」




「これはこれは真帆殿!今回は真帆殿も参戦ですか?」




「そうだぜ!りゅーちんの愛人である私が満を持して参戦だっ!」




 ビシッと指さしをして決めポーズを取る真帆。その横で響華の表情が一瞬歪んだ気がしたが、流星は見なかったことにした。




「はは…お前も相変わらずだな」




「そういうキョーマはどしたん?メガネなんて掛けちゃって」




「まぁ…色々だ色々」




 妙に郷愁を感じる凶真の横顔に真帆は首を傾げる。




「色々?…高校デビューか!!!」




「いやちげぇから。なんなら真逆だし」




 勘違いしている真帆に鋭いツッコミを入れる凶真。凶真に真逆と言われた真帆はまた首を傾げる。高校デビューの真逆と言われてもピンとこないだろう。

 久しぶりの再開に各々心を踊らせていると再び扉が開いた。




「…む?俺が最後か?」




 最後にやってきた一翔がメガネをくいっと上げて若干不服な声で呟く。しっかり者の彼としては人を待たせることは言語道断であるため、最後だったことが気に食わなかったのだろう。

 やってきた一翔の存在に気がついた凶真が一翔に声をかける。




「お、一翔。お前もか」




「あぁそうだ。来るとは思っていたが…やはり”お前ら三人”も来たか」




 一翔は理央、レオン、凶真をそれぞれ一瞥してそう言った。彼にとってこの三人の並びは懐かしく感じるものだったからだ。

 一翔の瞳にはいつの日かまだバラバラだった頃の彼らが映る。

 どう見ても凸凹だった三人を集められ、少なからず困惑したあの日。

 この先どうなるのかと不安に駆られていたあの日。それが目の前の景色と重なり、どこか郷愁に近いような感情に駆られる。




「一翔?どうした?」




「…いや、なんでもない。川上之歎せんじょうのたんといったところだ」




「せんじょ…?」




「出たー!かずぴーの四字熟語!」




「一翔殿も参戦ですか。いやはや、またこの顔ぶれを見ることになるとは…運命とは侮れないものですね」




「あぁ。そうだな…」




 どこか懐かしい空気感にレオンの表情からは思わず微笑みが溢れる。それを見てまた凶真も感慨深い感情に駆られる。

 この二人にとってどれだけこの日が来ることを待ち望んでいたことか。それが二人の表情に出ていた。




「皆の衆、いつまでそこに立っているつもりだい?紅茶が冷めてしまうから早く座ってくれ」




「…だそうです。我々も座るとしましょうか」




「あぁ。そうしよう」




 募る話もあることから話を弾ませている四人に理央が茶菓子を並べながら呼びかける。四人は顔を会わせると、呼びかけに応じてそれぞれ席に座った。

 そこからの流れは実にスムーズだった。顔合わせとは言ったものの、ほとんどは中学時代からの知り合い。そうでない響華はすでに勧誘の時点で顔見知りとなっているため、紅茶をたしなみながら談笑に入り浸っていた。

 そんな中、話の流れからせっかく集まったのだからということで生徒会の役割を決めようということになった。一つ、また一つと決まっていく中で残りの役職が副委員長と庶務となる。




「生徒会長は言わずもがなMy Star。会計は一翔。書記は私。決まっていないのが凶真と真帆と女王サマとレオン…残りは副委員長と庶務だねぇ」




 理央がそう言った瞬間、待ってましたといわんばかりに”二人が同時に”声を上げる。




「「副委員長はもちろん私ね(ですね)」」




「「…は?」」




(おっとぉ?)




 最悪なまでに息があった二人の口から低いトーンの声で放たれた一言はたちまちその場を凍りつかせた。二人の間に重い沈黙が走る。

 なんとなくこうなることは予想していた流星はこの状況が最悪な方向へ向かっていることを理解するのに数秒もかからなかった。がしかし、すでに遅かったようで二人は既に睨み合いを始めていた。




「…また私の邪魔をしようと言うのね。愚かな騎士様」




「それはこちらの台詞ですよ堕ちた女王よ」




 互いに牽制を飛ばす二人。

 今にも一触即発というこの状況にマッドサイエンティストが切り込んでいく。




「まぁまぁ待ちたまえ。副委員長はもともと男女一つずつの二つ枠がある。争わなくたってどちらも副委員長になることは可能だ」




 全国にある生徒会の多くは副委員長が二人選出される場合が多い。

 それは意見の偏りを防ぐためと言われており、男女一人ずつの場合がほとんどだ。そのため、二人に争う必要は無い。理央はそう二人に告げた。がしかし、それは理央の推測に過ぎなかった。




「そんなこと分かっているわ。片割れがこの男であることが遺憾なのよ。なぜこの男なの?凶真くんでいいじゃない」




「…俺は庶務のつもりでいたんですけど」




 凶真がボソッと呟く。元ヤンとは言えど尋常じゃないほどの威圧を放つ女王に抵抗することはできない。

 自らに向けられた冷たい視線に凶真は目線を逸らす。




「おやおや、凶真殿が困っておられますよ。恐喝もいいところでは?」




 やれやれとでも言いたげな表情でわざとらしく肩を竦めるレオン。

 あざ笑うような視線が響華の二つの深い蒼と重なる。




「どうやら身の程をわきまえていないようね」




「貴方とてそれほど偉い身分では無いでしょう?」




 鼻を鳴らしながら煽るような口調でそう言い放つレオン。二人の争いが静かに激化していく。

 流星も止めようとするもこの間に入っていく勇気は生憎持ち合わせておらず、もはや手には負えない所まで来てしまっている。




「貴方のような独裁者なんかより真帆殿のような我が星のことをよく分かっている人物が副委員長を務めるべきなのです」




「随分と言ってくれるじゃない。口の利き方に気をつけたほうがいいわよ」




(おいおい…こりゃまずいぞ)




 二人の言葉の応酬は絶え間なく続いていく。

 ある者達は何も起こっていないかのように紅茶を啜り、ある者は不安そうな視線を送り、ある者は大好きな異性にひっついて笑顔を浮かべる。

 流星はただその様子を見守ることしかできなかった。

 



 そして冒頭に戻る。未だに留まる所を知らない二人の争いは更に激しさを増していく。

 このまま放っておけば取り返しのつかない事になってしまうことは明確だ。

 自分以外に止める者がいないと悟った流星は天井のシミを数えるのをやめ、いつものように困難な状況を抜け出すための打開策を生み出すために脳をフル回転させる。




(考えろ俺…この状況をどうにかしない事には生徒会の話が進まない。…でも凶真はやる気なさそうだし、真帆もこの調子じゃ無理だ。というか危ない発言をしそうで任せられん。となると道は一つだな…響華さんもレオンも納得するような理由をつけて和解させるしかない。…考えるだけなら楽なんだがな)




 どうにか響華とレオンの双方が納得し、和解する方法を考えるが、そう簡単に出てきたらこんなことにはなっていない。

 降りかかる受難に頭を捻らせる流星の横で何を思ったのか真帆が口を開く。




「…なんなら間を取って私一人dムグッ!?」




 不意の真帆の発言に危険な予感が走った流星が手で真帆の口を塞いだ。

 少し遅れたかのようにも思えたが、二人は互いの牽制のし合いで気づいていないようだ。




「馬鹿野郎…火に油注いでどうする」




「だって私が副委員長だったらりゅーちんとイチャイチャし放題でしょ?そんなのやるしかないじゃ〜ん」




「副委員長は暇なわけじゃない…俺の補佐や議会での意見をまとめたり、臨機応変な対応が求められるんだ。お前にできんのかよ」




「ダイジョーブ!疲れたときにはキスしてあげるし、めんどいことはかずぴーに任せれば万事解決っしょ!」




「それじゃ意味が無いだろ…」




 やれやれと言った様子でため息をつく流星。そんな呆れる流星を前に真帆は変わらず太陽のように輝かしい笑顔を流星に向ける。

 流星が真帆にかまっている間に二人の争いはさらなる段階へと進んでいた。




「大体、貴方より私のほうが流星くんのへの理解度が高いのだから私がやるべきなのよ」




「私の前でその話題を出しますか…少し選択を誤ったようですね女王よ」




「そちらこそ随分と言ってくれるじゃない」




 とても騎士とは言い難い嘲笑に響華の瞳が翳る。それが意味するのは開戦の合図である。

 二人の間に流れる冷たく、重い空気に痺れるような火花が散る。どうやら互いに互いの地雷を踏み抜いてしまったようだ。

 言葉を交わさずとも最悪なことに二人の意は一致していた。目線だけで行われるやり取りに流星は妙な違和感を覚える。

 僅かな沈黙の後に響華の口は開かれた。




「…私は流星くんの寝顔を知ってるわ。子犬みたいな寝顔で可愛いのよ。…普段共に過ごすことのできない貴方にとっては宝物でしょうねぇ?」




(…?)




 響華の口からいやみったらしく言い放たれた一見唐突な一言に流星の頭は?の一文字で埋め尽くされる。




(…え?ここでただの嫌味?にしては不自然に唐突…)




「それが何だと…私は我が星と三年間を共にした身です寝顔なんぞとうに知っております」




(…あ、なるほど)




 二人のやり取りを見て流星はようやく理解した。

 これはただの嫌味でもなく牽制でもない。これは『どちらが流星に相応しいか対決』だと言うことに。

 



「我が星と性別が異なる貴方は見たことが無いでしょう。我が星の美しくラインの入った腹筋…今もこの脳に端から端まで焼き付いています」




「それがなんだと言うの?流星くんの体のことなんて寝てるときに確認済みよ」




(なんで確認してんだよ)




 自慢するように声高らかに言うレオンに対して鼻を鳴らして返す響華。

 皮肉なことに同じ誇りを持った者同士のプライドがぶつかり合い、争いは激しさを増していく。

 心の中でツッコミを入れる流星を置いて二人の一進一退の攻防が続く。

 



「私は流星くんのタオルを三枚ストックしているわ。そのうち一つは使用した直後の物よ」




(消えてると思ったら響華さんの仕業だったのかよ。なんとなくそんな気はしてたけど。あとそんな物を保管するな)




「ほぅ…なかなかやりますね。流石は氷結の女王ですね」




「それはどうも」




 言葉だけのレオンの称賛に響華も平坦な声で返す。

 これだけではないとレオンが不敵に口元を緩ませて話す。




「しかしこれはどうでしょう。私が今身につけているネクタイは我が星からの贈り物です。それもです」




 レオンが今言った通りレオンが身につけているネクタイは流星から入学時に貰った贈り物。

 ただの贈り物であればいいネクタイとしか言いようがないが、流星からの贈り物という事実が二人からの価値を100倍にし、響華の口端を僅かに歪ませた。




「…流星くんからの贈り物なんて私だって5万と持っているわ」




「その割には、少し不服そうですね?」




「…」




 レオンから向けられる嘲笑に響華の視線が更に鋭くなる。次第に空気も重くなっていく。

 反撃といわんばかりに響華がレオンに言葉をぶつける。




「第一、私には流星くんとの約束があるわ。時が経った今でも私と流星くんを繋ぐものなの。貴方にはそういうものがないものねぇ?」




 僅かに眉根をピクリと動かしながらレオンが答える。




「私は我が星の側近…忠誠を誓った騎士なのです。幼稚な時期に押し付けた約束とはわけが違うのですよ」




「気取ってるだけの癖に言ってくれるじゃない」

 



 互いに互いの誇りを主張しては相手を関節的に侮辱する。そんな攻防が続く。次第に空気は重苦しく、冷たいものへと変化していく。

 ひりついていく空気の中で凶真が不安そうな表情で声を漏らす。




「大丈夫なのかこれ…」




「放っておくのが得策だろう。そんなに不安になる必要はないさ。二人が満足するまで紅茶を楽しみたまえ」




「なんでお前はそんなに冷静なんだ…」




 剣呑な雰囲気に冷や汗を流す凶真に対して呑気な声をかける理央。白衣をパタパタさせながら茶菓子を口に放り込む。

 不安げな凶真の視線の先には頭を悩ませる流星。懸命にもこの絶望的な状況を明るい方へと導くための一手を考えていた。

 しかし今だ解決への糸口は見つからず。ただただ二人を見守るしかなかった。

 



(試行錯誤してみるのはいいものの、さっきから同じ発想に至ってる気がする…ダメだ。この二人を和解させられるビジョンが見えない)




 思わず唸る流星を見て真帆が流星の耳元に口を寄せる。




「ねぇりゅーちん。ここは私に任せて♡」




「えぇ…お前余計なことしか言わないじゃん。どうにかできんのかよ」




「まぁまぁ、任せといてって!」




  自信ありといわんばかりに胸を叩く真帆を見て、流星には一抹の不安が走る。

 正直嫌な予感しかしないが、かといってなにか策があるわけでも無い。この争いが更に激化するまでの時間稼ぎという点でもここは任せたほうが良さそうだ。




「…じゃ任せたわ」




「おっけー!見といてねマイダーリン!」




 真帆は流星と響華の方に向き直ると一つ咳払いをした。

 そして二人の注意が一瞬だけこっちに向いたところで二人の脳まで届くように大きな声で言う。




「私、りゅーちんとお風呂入ったことあるぜ!」




「「!?」」




「おい」




「いてっ」




 流星は真帆の頭を小突くと急いで二人から離れた壁際まで引っ張る。

 流星と真帆は二人に聞こえないようにひそひそ声で話始める。




「おい何が任せとけだ馬鹿。火に油注いでどうすんだよ。もっと他にあったろ…」




「え〜?でもなんか効いてるっぽいけど」




 流星はちらりと棒立ちしている二人を見やる。

 真帆から放たれた一言は油になり、争いの火は更に激しさを増すかと思われたが、意外なことに二人はその一言に動揺を見せた。

 少しオーバーな表情を見せるレオンとわかりやすく口元を歪めて感情を表に出す響華。らしくない二人の様子に流星も一周回って困惑する。




「え何あれ…」




「ほら!任せとけって言ったでしょ?」




 真帆は誇らしげな笑みを浮かべるが、何を根拠に動揺しているのかが分からない以上流星にとってはその二人の反応は怪奇現象に等しかった。

 動揺に顔を歪ませる響華がレオンに声をかける。




「…わかりやすく動揺するのね」




「そちらこそ驚きがお顔に出ていますが」




 互いに牽制を忘れない姿勢を見せるが、互いに動揺が隠せていない。皮肉にもおんなじ反応を見せる二人。

 何が二人をそうさせているのか。それはまた皮肉にも二人共同じだった。

 あの響華でさえも心を乱していた理由。それは流星の異常なこだわりにあった。

 



 流星は誰にも譲れないこだわりがあった。アニメのリアタイ視聴?否。睡眠時間の確保?否。

 流星の中の絶対的なこだわり。それはお風呂時間の質にあった。

 四六時中響華が側にいる流星にとってお風呂は唯一のプライベートゾーン。もとから風呂に入ることが好きだった流星は誰一人としてその行為を邪魔することを許さない。中学の修学旅行でも他の人間とは入らずに一人で夜中に入るという異常なまでのこだわりを見せた。

 高校生となった今でもそのこだわりは変わらず、響華が無理矢理一緒に入ろうとしたときは流星のすべてを持って拒否した。

 結果的に誰一人として汚すことのできない流星の絶対領域になっていた。

 それなのにも構わず流星と共に入ったという真帆の一言。レオンは激しく乱れる心を抑えながらも動揺を見せ、響華は嫉妬よりも『あの流星くんが』という驚きのほうが勝っていた。




「動揺している所悪いけれど、まだ勝負は終わってないわよ」




「…分かっていますとも。決着がつくまでやり合おうではありませんか」




「もういいだろう…そこら辺にしておいたらどうだ?」

 



 未だ『どちらが流星に相応しいか対決』を続けようとする二人の間に一翔が仲裁に入る。

 争いが始まってからは黙っていた一翔が口を開いたことで二人の視線が一翔へと注がれる。




「このまま続けても埒が明かないぞ。もう十分お互いのことは分かっただろう」




「しかし…」




「レオン、お前は副委員長である前に流星の側近だろう?流星の意に背くようなことは避けるべきではないのか?」




 一翔に言われ、はっとしたような表情のレオンが真帆と話している流星に問いかける。




「…我が星はどうお考えなのですか」




「え?…あ、まぁ二人には和解して欲しいなぁ〜って思ってるけど…」




 流星の言葉を受けたレオンは苦渋を飲んだように口元を歪める。

 しばし腕を組んで考えるような仕草を見せると口から息が抜けた。




「…確かに側近として我が星のご意向に背くわけには行きません。今回は和解するとしましょう」




 割り切ったレオンが響華に握手をと手を差し伸べる。




「…だそうだ。響華くんも流星のパートナーとしてここは穏便に済ませたほうがいいのではないか?」




 そう呼びかける一翔に響華は瞼を落とす。

 自らの中で飛び交う様々な感情を整理し、息を一つ吸うと瞼を開いて差し出されたレオンの手を握った。




「えぇ。今回はお互い引き分けってことにしておきましょう」




 二人は互いに手をがっちりと握る。その力加減からはまだ残心の念が互いに伺えたが、その感情がまた荒ぶる前に二人は手を離した。

 二人の和解が済んだ所で理央が口を開く。




「仲直りの握手は済んだかい?それじゃ、副委員長は女王サマとレオン。庶務は真帆と凶真ってことでいいかい?」




「あぁ。それで頼む」




 流星からの許可の一言を受け取ると、理央は黒板の副委員長の字の下にチョークで綾部響華と獅子神レオンと名前を書いた。

 流星は不意に凶真をチラッと見ると無事に事が収まったことで表情からは安堵の色が見受けられる。それを見て流星もまた安堵の息を吐いた。




(はぁ…とりあえず和解してくれたみたいで良かった。これからはこいつらを束ねていかなくちゃいけないのか…こりゃ骨が折れるな)




「さぁ、ようやく役職も決まったことだしここは一つ一翔から何か士気を上げる言葉でも貰おうじゃないか」




 理央から直々に使命された一翔は疑問の声を上げる。




「…そこは俺じゃなくて流星のほうがいいのではないか?」




「俺は難しい事とか言えないからいいんだよ。ありがたいお言葉、お願いするぜ」




「そうか…それでは僭越ながら言わせていただこう」




 一翔はこほんと一つ咳払いをすると、席から立ち上がった。




「今回の相手は非常に強大な相手だ。前評判も圧倒的にあちらのほうが勝つと言われている。だからと言ってここで弱気になることはない。相手が強大だからこそ燃える。だろう?」




 一翔の一言一言に流星は心の中で相槌を打ちながら聞く。

 レオンと凶真も一翔の絶対的な安心感に触れながら話を聞いている。




「こんな状況だからこそ一致団結、精神一到だ。引き締まっていこう!」




「「「「「「おー!」」」」」」




「ふぅ〜ん、いい感じに締まったねぇ」




「今日はここら辺で解散としよう。後は各々好きにしてくれ」




「それでは私は部活へと行ってまいります。またお会いしましょう我が星よ」




「…げ。俺親父に呼び出されたから帰るわ。俺なんかしたっけ…」




「私はもう少し紅茶を楽しむとしようかねぇ…一翔、おかわりはどうだい?」




「あぁ、ありがたく貰うとするよ」




 一翔の言葉でいい感じに締まったので今日の顔合わせは解散となった。

 各々部活に向かう者や帰宅する者、紅茶を楽しむ者などそれぞれの所へと戻っていく。




「さて、俺も帰ろうかな…」




「待って」




 流星が自分も帰宅しようと席を立とうとした時、不意にその腕が響華に掴まれる。

 なんとなく嫌な予感がする流星は響華の方から目を反らしたまま響華に問いかける。




「…なんですか」




「真帆さんとのお風呂の件、じっくり聞かせてもらおうじゃない」




(おっとぉ…それが残ってたか)




「いいぜ響華っち!私とりゅーちんのイチャイチャを端から端まで教えて上げるぜっ!」




「おい」




 この後、流星は理央と一翔に見守られながら小一時間真帆とのお風呂の件について問いただされた。

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