響華の好きなもの

 暖かな日差しに包まれて睡魔も誘惑してくる午後の授業。集中力も散漫してくるこの時間帯によりによって古典の授業。教師が教科書を読む声が子守唄代わりになり、教室内は昼下がりの静けさに溶け込んでいる。

 この時ばかりはおじいちゃん教師が魔道士に見える。

 



 教室内にはのしかかる眠気にうつらうつらとしている生徒がちらほら。

 流星はと言うと昼休みにぐっすりとふて寝をかましたため、睡魔に襲われることはなく、かといって授業に集中しているわけでも無かった。

 頬杖をついて、ただ窓から見える景色を眺めながらこの後の予定について考えていた。




(あと2時間か…長いな。今日は帰ったら撮り溜めしておいたアニメを見るんだ。頑張れ俺…あ、でもその前にあいつの所に行かなくちゃな)




 この授業を耐えた先に待っているアニメへの思いを馳せながら流星の意識は自然と隣の絶世の美女へと向けられる。

 この瞼も落ちそうになる空気感の中で背筋を伸ばし、菊のように凛とした態度で教師の言葉を聞いている。

 数え切れないほど見てきたその端正な横顔に流星は相変わらずの真面目だなと思いつつ、一つの疑問が生まれる。




(…響華さんって何が好きなんだろう?)




 ふと生まれた一つの疑問。自分以上に自分のことを理解している彼女の好きな事。かれこれこの学園に来て丸一年共に過ごしたわけだが、考えてみれば聞いたこともなかった。

 流星は響華の横顔を見ながら色々な憶測を飛ばし始める。




(考えてみれば教えてもらった事無いし…というかそんな素振りすら見たこと無いぞ…なんだろう、女子だから甘い物とか?いや、案外渋いものが好きだったりして…)




 考える程に次々と可能性が出てくる問題に流星は頭を悩ませる。

 普通ならば知ることの無い彼女の一面。そんな一面だからこそ流星の好奇心は掻き立てられる。流星は授業以上にのめり込んでいた。




キーンコーンカーンコーン




 思考を張り巡らせているうちに鐘が鳴った。日直が重い瞼を擦りながら立ち上がり、授業終了の号令をする。流星もそれに合わせて挨拶。教師もそれに応えるように一礼。ゆったりと教材をまとめ始める。

 授業が終わりを迎えると静かだった教室内には次第に賑やかな声が戻ってくる。

 流星も一つ伸びをしていると隣から聞き慣れたクールな声が飛んできた。




「流星くん、さっきから私に艶めかしい視線を送っているけど、どうしたのかしら?」




「…そんな視線を送ってた覚えは無いんですけど。てか気づいてたんですね」




 いきなりの角のある発言に流星は苦笑いで返す。響華は基本的にいつも凍てついたような無表情なので、冗談なのか本気なのかが分からない所が怖いところである。




「えぇ。横顔をあんなにまじまじと見つめられたら誰だって気づくわ。それで、どうかしたの?…悪いけど淫らなことは家に帰ってからにして」




「そんな事は頼みませんし、思ってませんから!周りからの視線が痛いのでやめてください…」




 響華のトンデモ発言に流星もタジタジになっている。周りから突き刺さる視線が流星に羞恥という名の痛みを与えてくる。

 響華は顔をヒートアップさせる流星を見てわざとらしく微笑むと、流星に向かって話しかける。




「じゃあ、どういうつもりなのかしら?」




(この人わざとだ…いい性格してんなほんとに…)




「…気になる事があったんですよ」




「へぇ…気になること、ね」




 響華は興味有りげな声を漏らすと流星の耳元に口を寄せ、抑えた声で囁いた。




「黒よ」




「…へ?」




(く、黒?なんの色だ?好きな色?いやそんなこと聞いてないし…)




 突然の発言に流星は意表を突かれたような表情になる。頭の中で『黒』というワードが何度も響き渡り、様々な推測が交錯する。

 幾多もの思考が飛び交い、パニック状態に陥った流星は響華に対して直接的な答えを求めた。




「なんの色ですかそれ…」




「下着よ」




「…え?」




 『下着』というワードに流星の思考は電磁パルスを食らった精密機械のように機能を停止する。そんな流星の脳細胞に追撃をするようにして響華は言葉をぶつけ始める。




「だから、今日の下着の色よ」




「なっ////」




 まさかの本日二度目のトンデモ発言に流星は再び顔を真っ赤に染めて取り乱す。両手をあわあわとさせて完全に響華のペースだ。

 予想と違った反応だったのか、響華は不思議そうな声を漏らす。




「?気になる事って下着の話じゃなかったの?」




「違いますよ!俺のことなんだと思ってるんですか!」




「あら、違ったのね。残念」




 口ではそう言っているものの響華の表情に浮かぶのはまたもや相手をあざ笑うような笑み。完全に流星をからかっている。

 流星以外の前では表情の変化が乏しい彼女のこの表情を見るに、案外加虐体質があるのかもしれない。

 ひときしり楽しんだ響華はもう少し楽しみたいところだったが、このままでも悪いと話を引き戻す。




「で、気になることってなんなのかしら?」




「あぁ、それなんですけど…響華s「響華」…響華の好きなものってなんだろうなって」




「流星くんよ」




(…うん、なんとなく分かってた)




 即答だった。響華の中において流星は絶対的存在であり、自らの命よりも優先順位が高い。一途すぎる故のこの答えだった。

 『違う、そうじゃない』という言葉が張り付いたような表情で流星が訂正を入れる。




「…それは無しで」




「…随分と難しい質問ね」




 流星という絶対権力の選択肢を消されてしまった響華は頭を悩ませる。流星が大好きすぎるあまり他の好きなものが霞んでしまい、好きなものが自分でも分からなくなっていた。

 そんな響華に流星が助言を与える。




「なにかないんですか?例えば…動物とか」




「動物ね…あ」




 響華は千切れたような声を漏らす。どうやら思い当たるものが一つあったらしい。響華はそれを相変わらずの淡々とした口調で述べた。




「流星くんの家の隣の家にいるワンちゃんとかかわいくて好きね」




「あーブン太のことですか?」




 ブン太は流星の家のお隣さんが飼っている6歳になるダックスフントのこと。ジャーキーが好物で人懐っこい性格のわんぱくな犬である。ブンブン鳴くからブン太になったらしい。




「あの子、撫でるとすごく気持ちよさそうな顔するの。可愛いのよね」




「あいつ人懐っこいですからね」




「あと、あの子寝顔もさることながら流星くんにそっくりなの。ちっちゃい流星くんみたいで可愛いのよ」




「それはなんか…複雑…」




 まさか犬と一緒にされるとは思っておらず、流星は『ちょっと嬉しい』と『なんか嫌』という曖昧な気持ちが交錯した複雑な心境になる。

 響華はというと朝撫でてきたときのブン太の様子を脳裏に浮かべ、すこし口角を上げて微笑んでいる。本人が幸せそうだったので流星はそれ以上の追求はしないでおくことにした。

 流星の好奇心は止まることを知らず、気の赴くままに動物以外の好きなものも探ろうと流星は真っ先に思いついた食べ物のことについて聞いてみることにした。




「他になにか好きなものはないんですか?好きな食べ物とか」




「食べ物ね…強いて言うなら梅おにぎりかしら」




 意外なことに響華が好きな物は梅おにぎり。女子だからという理由でなんとなく甘い物なのかと予想していた流星を覆すような回答だった。

 いつもおにぎりを食べているのはそういう理由だったのかと流星はパズルの最後のピースをはめた時のような気持ちになる。




「おにぎりっすか?スイーツとかじゃないんですね」




「甘い物も好きだけれど、やっぱりおにぎりに落ち着くのよね。日本人のさがってやつかしら?」




「まぁ確かにおにぎり嫌いな日本人ってあまり見ないですからね…響華は和食派なんですか?」




「どちらかと言えばって話だけれどね。流星くんが洋食派って言うなら喜んで鞍替えするわ」




「あはは…そこまでしなくてもいいですよ…」




 流星のためなら自分の好みすら変えるという響華の徹底ぶりに流星は若干引き気味である。決して悪い気はしないが、まるでアイドルのように持ち上げられると少し不思議な気持ちだった。

 自分の脳内にある『響華さんメモリー』に和食派ということを記録すると共に、流星の好奇心はある方へと向けられる。好きなものがあるということは逆もまた然り。響華の嫌いなものが気になる流星は若干の迷いを振り切り、響華へと問いかけた。




「…逆に嫌いなものとかってあります?」




「中身の無い、外見だけの男ね」




 これに関しては即答だった。冷え切った声が賑やかな教室の空気を切り裂いて流星の鼓膜を刺激する。先程までよりも僅かに表情が歪んでいるのを流星は見逃さなかった。

 日々ナンパを受けている響華にとって中身の無い男というのは纏わりつく虫のような物。話すことは愚か同じ空間にいることすら嫌気が差すのだろう。




「昔から私に言い寄って来る男はみんな張りぼての好意を押し付けてくるような男しかいなかったの。本当に目障りで仕方なかったわ。あんな言葉だけで私が釣れるとでも思ってたのかしら」




「…大変っすねぇ〜」




「それに比べて流星くんは私のすべてを見てくれる。幼い頃から私を支え続けてきてくれた優しい人。いい夫に恵まれて私は幸せよ」




「あはは…それは良かった」




 流星は褒められての照れくささとここが教室のど真ん中ということの羞恥心に襲われ、思わず視線を逸らす。別に流星も幼い頃からなにか考えて接していたわけではないが、彼女の支えになっていたのならそれで何よりだ。

 照れる仕草を見せる流星に対して今度は響華が質問を投げかける。




「流星くんの好きなものは何なの?」




「えっ、俺のですか?」




「えぇ。私にだけ言わせるなんて卑怯だとは思わない?」




「それは…そうかもしれませんけど…」




 いつもどおり流星を貫く響華の冷徹な視線。しかし、流星は見逃さなかった。彼女の口角が僅かに左斜め上に動いたことを。ほんの僅か5ミリメートルほどの変化だったが、彼女の顔を四六時中見ている流星はそれに気づいた。

 つまりこれがどういうことかというとこの女、流星をからかっている。




(この人…分かってるくせに言わせようとしてるだろ…ほんといい性格してんなぁ!)




「さぁ答えてもらおうかしら。アナタの好きなものについて」




 流星はこの数秒間で現在ありうる脳細胞を総動員させて反撃の手段を考える。他の人には向けない感情を向けられているという嬉しくもあり、危機的状況でもあるこの状況の打開策はなにか無いのか。

 そんな流星の左脳は一つの解を見出した。ピンチはチャンス、という言葉があるようにこの危機的状況を武器にしてしまえばいい。いつもぶつけられている気持ちをたまにはこちらから送り返してやろうではないか。

 響華に対して一か八かの作戦だが、決まればこっちのもの。

 流星は意を決して反撃の一手をぶつけた。




「俺が好きなのは、響華ですよ」




「…」




(…)




 ちょっとばかしキメ顔もしながら言い放った一言は二人の間に沈黙をもたらした。響華は相変わらずの無表情で。流星はキメ顔のままで膠着状態になっている。心なしか周りからの視線が痛い。

 両者睨み合ったまま時計の針は進む。和気藹々とした空間の中で二人の時だけがゆっくりと流れる。

 先にこぼれ出るような笑みを浮かべたのは響華だった。




「…ふふっ」




「…?」




 ふと珍しく笑みをこぼす響華を見て、流星はまるで未確認生物でも見たかのような表情を浮かべる。 

 そんな表情で見つめていると響華が笑いを押し殺しながら喋り始める。




「うふふっ…流星くん…顔…真っ赤よ…ふふっ」




「…はっ////」




 流星は即座に自らの顔に両手を当てる。その手からはほのかに感じ取れるほどの熱を感じた。どうやら気づかないうちに流星の羞恥心が働いていたらしい。

 カウンターを仕掛けたつもりの流星だったが、あまりの無反応に痛いしっぺ返しを食らってしまった。羞恥心の隙を突かれた流星は声にならない声を漏らして取り乱す。




「ッ〜!!!」




「自分で言っておいて…あははっ」




「なっ、しょうがないじゃないですか!なんで響華は動じないんですか!」




「おいおい見ろよ女王様が笑ってるぞ」




「うわほんとじゃん!珍し…」




 滅多に表情を崩さない響華が口を押さえてユリのように笑っている姿を見て、教室内の男子がざわつき始める。

 そんな野郎達の中から一人の丸刈りの男子が立ち上がる。




「今のうちに写真撮っておいて先輩に売ろうぜw」




「おいやめとけって…」




「大丈夫だって!影からこっそり撮ればバレねぇよ」




 仲間の静止などお構いなしに響華の笑顔を一枚写真に収めようと影からスマホを向けたその時だった。先程まで笑っていたはずの響華の表情はいつもの凍てついたものになっており、その鋭い視線がスマホ越しに男を貫いた。

 なにか冷たいものが男の体を駆け巡る。




「ちょっと、勝手に撮らないで頂戴。私を無許可で撮っていいのは流星くんだけなの」




 響華の冷酷な声が教室内に低く響き渡る。その言葉を向けられた男の顔からはみるみるうちに生気が抜け出し、青ざめていく。

 まるで相手の生命を吸い取っているようなその姿はまさに氷結の女王と呼ばれるに相応しい様だった。




「は…は…」




「分かったの?」




 念を押すように響華が凍える吹雪のような声で問いかける。男は恐怖で歪んだ顔をウンウンと必死に縦に顔を振った。それ以上は響華は何も言わず、男は大人しく席に座った。




「だからやめとけって言ったじゃん…」




「…」



「少々取り乱したわ。…ああいうのが中身の内男って言うのよ。全く、愚かなものね」




(…こっわ)




「…そう思われるなんて心外ね」




「…まだ何も言ってませんけど」




「顔に出てるわよ」




 表情から読み取られてしまった流星は『ははは…』と笑って誤魔化しを図る。

 幾度となく言い寄ってきた男達を返り討ちにしてきた現場に立ち会ってきた流星とはいえ、いつ見ても女王モードの響華は怖い。自分に向けられたら立っていられる自信は無い。

 不満げな響華が目を逸らしながら話しかけてくる。

 




「…流星くんに怖がられるのは…あまり好ましくないわ。他の男達ならまだしも…夫に怖がられるなんて…」




 響華の視線は話を進めるにつれて床へと下がっていく。いつもの冷徹な感じでもなく、デレているわけでもない。どこか沈んでいるような、らしくない様子だった。

 そんな様子の響華を見た流星はもしかしてと一つの憶測を生み出した。野暮なことだとは分かっていたが、確認も兼ねて流星は響華に話しかけた。




「…もしかして落ち込んでます?」




「…言わせないで」




 どうやら図星だったようだ。あの泰然自若な響華でも落ち込むことがあるんだなと流星は内心驚く。

 落ち込ませてしまった流星はいつも自分にしてくれていたように響華をフォローする。




「大丈夫ですよ。響華を嫌いになったわけじゃありませんから」




「…でも怖いんでしょう?」




「…そうですけど、『それで愛の形が変わるわけではない』ですよね?」




「!!!」




 『それで愛の形が変わることはない』これは響華が流星がミスをしてしまった時にいつもかけてくれていた言葉。脳裏の片隅にいつもいてくれた言葉を流星はしっかり覚えていた。落ち込んだときは自分が言ってあげようと。

 その言葉を聞いた響華はほんのすこしだけ目を見開く。




「流星くん…覚えていてくれていたのね」




「あれだけ言われたら覚えますよ」




「…満点ね。夫として満点よ流星くん」




 響華にいつもの感じが戻ってくる。決して明るい表情では無かったが、素直に喜んでいるということが流星には分かった。周りから『他所でやれ』という視線が刺さってきているが、気にしないことにした。

 流星がホッとしているのもつかの間、なにか思いついた様子の響華が唐突に響華が話を切り出す。

 



「ねぇ流星くん。私もうひとつ好きな物があるのよ」




「…これまた急ですね」




「えぇ。今思い出したの」




 流星に走るどことなく嫌な予感。なにか明確な理由があるわけでも無かったが、これ以上はやめたほうがいいと神がそう言っているような気がした。

 今の流星にはこれ以上よくない事が起こらない事を祈るばかりだった。

 その祈りを断ち切るように響華が口を開く。




「私、赤ちゃんが好きなのよ」




「あ〜(察し)」




「小さくて可愛らしいし、守ってあげたくなるじゃない?」




「まぁそれは…そうっすね」




 流星は頭を掻きながら歯切れの悪い返事を返す。この話をすること自体は問題ない。無いのだ。問題は場所である。

 ここは教室のど真ん中。一言で言ってしまえばまずいわけである。




「響華?その…ここでその話は…」




「どうしたの流星くん?私達もそろそろしなきゃいけない話じゃない?」




 先程から無視していた周りからの視線が響華の一言でより一層強く、無視できないものになっていく。どうやら流星の”嫌な予感”はあながち間違いでは無かったらしい。

 傍から見たら意味深な二人の会話を聞いた生徒達から様々な憶測が飛び交う。




「おいおい聞いたかよ今の!流星のやつ、学生のうちに…!?」




「そんなわけねぇだろ!流星にそんな根性ねぇよ!」




「響華さんたち相変わらずラブラブね…」




「ラブラブ…なのかな?流星くん、ちょっと困ってるように見えたけど…」




「流星なやつ抜け駆けかよ…くぅ〜っ、羨ましいぜ…」




(あ〜…有る事無い事言われてるぅ…てか、根性ないって言ったやつ誰だよ!くったばすぞマジで…ってそうじゃない。今はこの状況をどうにかしないと…!)




「きょ、響華?ちょっと言い方に語弊があるっていうかなんていうか…」




「?何も語弊なんて無いじゃない。昨日も夜遅くまで二人でシたじゃない」




ザワザワ…




 響華の発言により、生徒たちの誤解はさらに良くない方向へと広がっていく。まさかの発言内容に流星も驚きを隠せない。




(なぁぁぁぁぁぁぁんでこの人はそんな言い方しかできないんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!昨日シたのはアニメ視聴!別に淫らなことでもないしそういう内容でもないから!!!!)




 心の中で叫びを上げるも、響華にそれが届くことは無い。早く止めないと取り返しのつかないことになってしまうことは流星も分かっていた。しかし、この女思いの外ブレーキが効かない。どうやら止まることを知らないらしい。

 本日二度目の脳細胞を総動員させて状況の打開を図る。過ぎゆく時の中であれはこれはと思考を張り巡らせる。

 うなだれながら頭を悩ませる流星の視界に響華が入り込んでくる。




「どうしたの流星くん?具合悪いのかしら?」




「そういうわけじゃ…」




 流星は見た瞬間に分かった。限りなく無表情に近いその表情の中に潜む悪魔に。僅かにつり上がっている響華の口角に。




(この人…からかってやがる…!!!!!)




「どうしたの流星くん…ふっ」




「…いい性格してますね」




「あら、なんのことかしら?」



 からかわれていることに気がついた流星は他人には向けない感情を向けられていることの嬉しさとどうしようもできないこの状況でぐちゃぐちゃになっていた。




「…あいつ大変だな」




「そうか?仲睦まじくていいじゃないか」




(…こいつ)

 そんな仲がいいのか悪いのか分からない二人を見た剣人は哀れみの声を漏らす。そして相変わらずの一翔に呆れるのだった。

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