愛人枠なんて要らないのよ

「昨日のヲタクの俺は平和な学園ライフを過ごしたい、良かったよな〜!」




「美波との再会のシーン、アレは感動モノだったな…」




 時刻は現在12:30分。食堂へと足を運んでいる流星はアニオタ仲間達とアニメ談義に花を咲かせていた。

 会話のネタになっているのは昨日放送したヲタクの俺は平和な学園ライフを過ごしたいというラブコメアニメ。主人公の東凛太郎あずまりんたろうが幼馴染のヒロイン涼風美波すずかぜみなみや他の美少女達に振り回される、というよくある青春ラブコメアニメである。ありがちな学園モノだが、主人公と個性の強いヒロインたちの絡みが評価され、今現在人気を博しているアニメの一つだ。

 流星自身も毎週しっかりリアタイ視聴をしており、自分の幼馴染もこんなふうに可愛げのある優しい幼馴染だったらな…と遠い目になりながら視聴している。




「あれはもう今季覇権間違いなしだな!正ヒロインの美波もさることながら他のヒロイン達とのいざこざもかなりそそられる内容で…」




 少しふくよかな体型のアニオタ仲間が鼻息をフンフンと荒らげながら熱く語っている。

 彼の名前は斎藤将司さいとうまさし。流星がよく話すアニオタ仲間の一人である。

 将司はかなりこのアニメが気に入ってるようで流星が最初に勧めたときは「えぇ〜?こんなありきたりアニメ、どこが面白いんだかw」とかほざいていたが蓋を開けてみればドハマリしている。これには流星もやれやれと言った様子。




(全く、飛んだ手のひらドリルだな…)




「きっと、このシーンは未来永劫語り継がれていくことになるだろうな…」




 メガネをくいっとあげて将司と熱く語り合っている少し細身の男は三郷賢治みさとけんじ。こちらも流星がよく話すアニオタ仲間で流星とは中学からの付き合いになる。

 中学時代はよく放課後にアニメについて語り合った数少ないアニオタ仲間の一人である。




「やっぱ賢治もそう思う?きっと今季最高の神アニメだぜ〜アレは!」




「俺もあんな幼馴染いたらなぁ…あ」




 流星は額に手を当ててしまったといった表情。なぜならこの話題に切り替えてしまえば必ずあの人の名が上がってくるからである。

 よりにもよってこの二人の前で。




「お前にはもういるだろ?女王サマが〜♡」




 将司が腰をくねくねさせながら流星にすり寄る。からかっているつもりなのか非常に頭に来る表情をしている。

 流星は拳が出かけたが、自制心でなんとか抑える。




「気持ちわりぃからやめろ。…まぁ、綾部さんはいいんだけどさ…」




「おいおいなんだよその顔は。あんな美人惚れさせておいて不満でもあるのかよ?」




「どうした急に黙って?」




 流星はなんとも言えない表情になる。それもそのはず。

 昼休みは流星にとって唯一の安息の時間だが、彼女が来ないとは限らない。彼女にこんな事を聞かれてしまってはまた拗ねられてしまう。基本的に無表情な響華は結構、というかかなりめんどいタイプなので極力機嫌を損ねることは避けたい。




(…いつ何を聞かれてるかわかんないしこれ以上の言及はやめておこう)




「いや美波もいいけどよぉ、俺は愛海のほうがタイプだな!」




 西条愛海さいじょうまなみ。凛太郎によく絡んでくるギャルでいわゆる”オタクに優しいギャル”。大胆なスキンシップと明るいキャラから美波の次に人気のあるヒロインである。

 将司の推しらしくこの話を聞くのも数回目となる




「サラサラの美しく輝く金色の髪の毛にモデル顔負けのスタイル…!それに加えてあのおっきなおっp」




「はいはいストップ。それ以上はここではやめろ。周りの女子からの視線が痛い」




「もうお前の欲望を聞くのも飽き飽きだ。そんなことをほざいている暇があったら少しはその肉を落とす努力をしたらどうなんだよっと」




「ふぐっ!?」



 賢治が将司の腹に抱えた欲望の脂肪をぐいっとつまむ。




「ほらほら、こんなに余計なお肉がついてちゃギャルどころか女の子すら寄ってこないぜ?」




「うるせぇ!これは俺が長い年月をかけて身につけたスーパーアーマーなんだよ!来たるべき戦いのためにも…これを外す訳にはいかn」




「はいはい。お前がそんなセリフ吐いたところでなんのかっこもつきませんよ」




「惨めになるだけだぞ将司。今一度、己を見直すがいい」




「ちえっ、なんだよ…そういうお前だって主人公を見下してる強敵みたいな喋り方しやがって…」




 二人にグサグサと言葉の槍を突き刺され、見た目も図太い将司もこれにはノリが悪いなぁと肩を落とす。

 高校にまでなって厨二発言は痛いだろう。




「あ〜あ、俺にも春が来ないかなぁ…できればオタクに優しいギャルが…」




「いやそんなのあるわけ…」




「あ!りゅーちん!」




「うわっちょっ」




 将司の儚い理想に苦言を呈そうと口を開いた時だった。

 学食付近で溜まっていた女子たちの中から金色の影が飛び出してくる。

 流星は反射的に受け止める体制に入ると、少しのけぞりながらも後ろ足で踏ん張り、なんとか受け止める。

 なんとか踏みとどまりホッと一息ついた後に流星は自分の胸に顔を埋めている金髪美しい少女にチョップを入れた。




「イデっ」




「急に突っ込んでくるなこのイノシシ野郎」




「イノシシって…も〜冷たいなぁ〜マイダーリンは」




「マイダーリンって…お前やめろ…俺が大変になるんだから…」




 美しくなびく金色の頭髪に太陽のような笑顔。モデル顔負けのスタイルと女子からの羨望を集めている彼女は四宮真帆しのみやまほ

 創生学園四本指に入る美女の一人で、生粋のギャルである。  

 この学園では有名人でその美貌もさることながらコミュ力に長けており、どんな人間とでも友達になってしまうためこの学園では真帆の事を知らないという人間のほうが少ない。




「いーじゃん!私とダーリンの仲でしょ〜?」




 流星と真帆は小学校からの付き合いでかなり長い付き合いと言える。

 最初から仲が良かったわけでは無いが悪かったわけでも無い。見かけたら話すといったレベルの仲だったが、人と人との距離は付き合いが長ければ縮まっていくというもの。今では仲のいい男女といえよう。




「真帆が勝手に距離詰めてきただけだろ…俺は本当はお前みたいなキラキラしてるやつの相手は苦手なんだよ…」




「え〜?りゅーちんだってキラキラしてるけど」




「してません。誰かさんみたいに綺麗な髪の毛でもあるまいし」




「なんかりゅーちんは存在…というか生き方がキラキラしてるっていうか…ほら、生徒会とか」




「…それは昔の話でしょうが。過去の栄光にすがるほど愚かじゃねーよ」




「…完全に俺らはそっちのけだな」




 当然のように抱きついたまま会話を続ける二人を見て、賢治は呆れた様子。女王の監視が怖いとか言っていたのはどこの誰だっただろうかと。

 流星自身も無自覚のうちにこんなことをやっているようでは先が不安である。




「あれ?ケンいたの?うぃー!」




「相変わらずだなお前は」




 真帆は賢治が居ると気づいた途端に抱きついていた手を離し、メガネをくいっとあげている賢治に肩をぶつけてグイグイと押す。中学の頃に流行ったノリだ。




「あ…あぁ…」




「…?どうした将司」




 将司は流星と真帆の様子を見て妙な声を漏らして立ち尽くしている。

 なにか衝撃を受けたような、念願のものを目にして嬉しさのあまり停止してしまっているような。らしくない様子だ。




「…いた」




「え?何がいたって…」




「オタクに…オタクに優しいギャル!」




「…へ?」




「?」




 目をキラキラと輝かせて高らかに将司はそう言い放った。食堂前で屯している生徒たちの視線が将司に集まる。




「俺、斎藤将司っていいます!流星の親友やらせてもらってます!」




「わぁお、りゅーちんのお友達?私は真帆。よろしくね〜」




(こいつ…こういうときだけ親友名乗りやがって…)




「あの、出会って急にで悪いんですけど真帆さんって彼氏居るんですか?」




「えっ」




「な”っ」




 流星と賢治は同時に不意打ちでも食らったかのような声を漏らす。まぁ当然と言えば当然だろう。

 出会ったばかりの人に、それも女子に彼氏がいるか聞くなどデリカシーが無いとかいう話ではない。ビンタの一発飛んできてもおかしくはない




(こいつヤバすぎだろ…バカなのか世間知らずなのかわからんが初対面相手にこれはアウトだろ。相手が真帆だからいいけど…いや良くないけど…これだからオタクくんは…)




「んえ?彼氏?そんなんりゅーちんに決まってるじゃーん♡」




「は?」




「え?」




「おい」




 先程まで光に満ちていた将司の目から光が抜け落ちる。光を失い、底なしの深淵のような闇に満ちた眼球が流星に向けられる。

 その瞳は次第に憎しみを含んだ怒りの念で満ちていく。煮えたぎるような感情が溢れ出てくるのを流星でも理解できた。




「流星…てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ」




「おいちょっと待て誤解、誤解だ将司」




「何が誤解だこの女たらし!女王サマじゃ飽き足らずギャルまで手に掛けやがって!!!!」




 いやいやと手を振って否定する流星の静止を聞かずに将司が突撃する。

 がしかし見かけによらずパワーのある流星によって止められる。引き剥がそうと賢治も間に割って入る。




「くそっ、この女たらし!裏切り者!」




「おいバカやめろって!こんな食堂の入り口でグーで殴るな!目立つし邪魔だから!」




「じゃあパーかチョキで殴ればいいんか!あぁん!?」




「そういうわけじゃないから!真帆!お前も止めるの手伝え!」




「ダーリンのご要望とあらば〜」




「ぐがあああああああああああああああああああああああああああああああああ」




「くっそ逆効果かよ!」




(まずい…このままだとあの人が…あの人が来る…)




「…あ」




 賢治が不意に声を漏らす。

 この場に居る生徒全員に走る妙に冷える感覚。

 まさかと流星は自分に殴りかかってくる将司を横目に自分たちが来た方向へ視線を向ける。その視線の先にいたのは流星がよく知る、いや知り過ぎている人間だった。




「…これはなんの騒ぎかしら?」




「…やっべ」




 恐れていた事態が起きてしまった。氷結の女王の君臨。

 お昼時のほのぼのとした空気を凍てつかせながらゆっくりと近づいてくる。

 そしてその足は取っ組み合いをしている流星の前で止まった。




(あぁ、終わった)




「…これはどういう状況なの流星くん」




「綾部さん!こいつ、綾部さんの他にも女をたらして…」




「まずは流星くんから離れなさい」




「が”っ…は、はいぃ」




 響華から放たれる並々ならぬ威圧に将司は萎縮してそそくさと流星から離れる。

 響華はつかつかと近づくと、遠い目で座り込んでいる流星に視線をあわせるようにしゃがみこんだ。




「流星くん、これはどういうことかしら?」




「…どういうことなんでしょうね」




 とりあえず知らないフリをしている流星に対して響華は怪訝そうな視線を向ける。

 愛する夫とは言え浮気(?)をされてしまったら許せないのだろう。浮気(?)をされてしまったということは響華にとってこの先の夫婦生活において支障をきたすことには変わりない。

 それは今後浮気された妻として生きていかなければいけないということ。響華の妻としてのプライドがそれを許さなかった。




「とぼけないで頂戴。なんであの女と一緒にいるのよ」




「俺だって一緒にいたかったわけじゃないんですけどね…」




「全くアナタと来たら少し目を離した隙に浮気だなんて…」




「浮気は言い過ぎでしょ」




「流星くんにとってはそうでも私にとってはれっきとした浮気よ。私を裏切ったという事実に変わり無いわ」




「うぉーう綾部っち!ういーっす!」




 流星が予測する限り最悪のタイミングで真帆が割り込んできた。

 この世の終わりのような空気が流れる。真帆の取り巻きですらも青ざめている。

 そんな空気の最中流星は世紀末に放り出されたような絶望感に抗うように思考を張り巡らせていた。




(どうするこの状況…真帆のせいで事態が刻一刻と最悪な方向に猛ダッシュしていってる。まずい。はっきり言ってまずい。どう考えてもまずい。綾部さんの機嫌もますます悪くなっていってるしどうしようも無いぞ…)




「四宮さんどうもこんにちわ。なんだかうちの夫が浮気していたらしいんだけど、相手が誰か知らないかしら?」




「浮気だなんて人聞きが悪いなぁ〜別に綾部っちからりゅーちんを奪う気はないんだぜ」キリッ




(なんでこいつは余裕で決め顔ができるんだよ)




「あら、その割にはうちの夫との距離がだいぶ近かったようだけど?」




(!?なぜ分かるんだ…?)




「アレ?もしかしてばれちった?」




「当然よ。流星くんの体から四宮さんの匂いがするもの」




(…この人マジか)




 犬にも匹敵する響華の嗅覚に流星もドン引きである。

 そんな警察犬みたいな芸当が人間にできるのか。いやもしかしたら人間じゃないんだろうかとありもしないことを疑い始める。




「あはは…まぁでもほんとにりゅーちんを奪う気は無いから。なんせ私はりゅーちんの愛人枠だからね」




「は?」




「おい」




 真帆からの予想外の爆弾投下に流星の脳内にはエマージェンシーコールが鳴り響く。いよいよ世界が崩壊を迎えるほどの緊急事態になってきた。

 無表情な響華から怒りのオーラがにじみ出ている。まずい。非常にまずい。




「…それはどういうことかしら」




「妻とまでは行かなくても影で支えるナンバー2ぐらいまでならいいっしょ?私だってこう見えて一途なんだなよね〜」




「ほう…なかなかいい度胸してるじゃない」




 響華が嫉妬に狂った北風だとしたら真帆はさながら太陽と言えよう。あの女王の威圧をもろともせず笑顔で跳ね返している。

 大抵の人間は女王と争うなど不可能のはずだが、真帆に限ってはその天真爛漫な性格故にそれを可能としていた。




「愛人なんていらないのよ。流星くんには私だけで十分なの」




「冷たいこと言わないでよ〜お互いりゅーちんの事好きなんだし仲良くしようぜ〜?」




(そろそろまずいぞ真帆…!)




「…いいでしょう。その度胸を認めてチャンスを与えるわ。アナタが流星くんと親しくするのに相応しい女か見極めさせてもらうわよ」




(えっなにそれは)




「おう!望むところだぜっ!私ご飯まだだから食堂でやろーよ」




「えぇ。構わないわ」




 笑顔と無表情の対極の表情の二人のぶつかり合いは数分の口論の後に響華の一言で一旦は幕を閉じた。

 響華と真帆は二人で食堂へと入っていき、流星たちはなんとか場を乗り切ることができた。周りの生徒たちからも安堵の声がちらほらと聞こえてくる。




「なんとか乗り切ったな流星」




「…賢治」




 先程のいざこざの間に蚊帳の外となっていた賢治が流星の苦労を励ますように肩をポンポンと叩く。

 ようやく安息の昼休みが戻ってきたことに安心した流星は壁によりかかるようにして倒れ込む。




「はぁ…真帆のやつ厄介な事しやがって…」




「ははは…お前はこの後にもう一仕事あるからな。まぁ今のうちにゆっくりしておこう」




「あ、将司のやつは?」




「あそこ」




 賢治の指差した先を見ると、廊下のロッカーの後ろに隠れてガタガタと震えている将司の姿があった。




「ガタガタガタガタ」




「…なんかどこかのホラゲーみたいになってる」




「よっぽど女王様が怖かったんじゃないか?表情には出てなかったけどかなりの威圧感だったしな」




「それを毎日相手してるこっちの身にもなってみろよ…」




「…死ぬな」




「だろ?」




 賢治は瞬時に結論を出した。というか考えるまでもなかった。

 あんな骨の折れるやつの相手など常識的に考えなくても過労死するに決まってる。

 流星の苦労が垣間見えた一瞬だった。




「それより、この後の飯どうする?食堂にはバチバチのお二人さんが居るわけだけど」




「…購買でパンでも買っていこう」




「そうするか…」




 流星と賢治は将司を引きずりながら購買で焼きそばパンを購入し、教室へと戻った。







「はぁ…」




 食堂前での一件から数十分、焼きそばパンを食べ終えた流星は教室で一息ついていた。

 女王が帰ってきたらどんな顔して対応すればいいのだろうか。拗ねた響華の相手はいつも以上に気を使わなければいけない。少しでも機嫌を損ねるような発言をしてしまえば今日一日不機嫌なまま隣で授業を受け続けることになる。

 あんなひどく寒い状況で授業を受けるなど御免だ。それに他の生徒達にも悪い。なんとかうまく対応しなくては




(て言っても死ぬほど神経使うからなぁ…憂鬱だ。…ん?)




机に伏していた流星の視界に見覚えのある影が入る。どうやら響華が帰ってきたらしい。




(帰ってきちゃったか…え?)




「あははっ、だよね〜」




「全くよ。もう」




 流星は予想外のことに飛び起きる。なんと響華と真帆が親しげに話しているではないか。心なしか緩やかな表情で談笑している。

 一体何があったというのか。流星はぽかんとした表情になる。




「…おかえり、なさい」




「ただいま。寂しかったかしら?」




「いや、別に」




「つれない人ね。少しぐらい甘えてくれたっていいのに」




「そんな事より綾b「響華」…響華さん、真帆と親しげに話してましたけど…」




「あぁ、真帆さんなかなか"分かる人"だったわ」




 何やら満足気に響華は答える。どうやら話しているうちに馬が合ってすっかり意気投合してしまったらしい。流石のコミュ力だ。




(…嘘だろ。女王ですら手玉に取ったというのか…ていうかいつの間にか名前呼びになってるし)




「かなり有意義な時間だったわ。流星くんの知らない話も聞けたし…」




(なるほど。あいつ俺のことをダシにして仲良くなりやがったな?なかなかやりおるマンじゃないか…)




「小学生の頃の流星くんの写真も手に入ったし…」




「ちょっと待ってください?なんですかそれなんでそんな物が真帆の手元にあるんですか?」




「なんでもいいじゃない。死ぬわけじゃないんだから」




「そうですけど…」




 まさか自分の小学生の頃の写真が流出しているとは流星も思ってはおらず、まさかの事態に焦り始める。




(くっそ…なんであいつそんな物もってるんだよ…恨むぞ真帆)




「…消してください」




「どうしてよ」




「…恥ずかしいからです」




カシャッ




「うぇ?今撮った?取りましたよね?ちょっと!消してください!」




「安心して。かわいい顔だったから」




「そういう問題じゃないでしょ!」




ピロリン




 赤面したところを見事に写真に収められ、削除してもらおうと抵抗していると流星のポケットの中でスマホが揺れる。

 手に取ってみるとメッセージアプリから一件の通知が来ていた。アプリを開いて見てみると真帆からのメッセージだった。




『さっきは危なかったね〜私も焦っちゃったよ。綾部っち、なかなかいいお嫁さんだね』




 流星は無表情ながらもどこか満足気に貰った写真を見ている響華にバレないようにメッセージを打ち込んでいく。




『誰かさんのせいでほぼアウトだったけどな』




『ごめんて〜あとでクレープ奢るから許して♡』




『いいよ別に。助けられたのはこっちだしな。…問題起こしたのはお前だけど』




『ダーリン優しいね♡愛してる♡』




『写真出しやがったのは関心しないけどな』




『ま、なんにせよさんきゅ。助かったよ』




 流星は自分の写真を流出させた恨みも込めた感謝の意を伝えた。とりあえず事も丸く収まったため一安心。流星は残り僅かな休み時間を使って睡眠をとることにした。

 廊下でただ一人微笑む愛人枠の笑顔に気づかずに。




「ふふっ、いつでも頼ってね。マイダーリン♡」

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