札男/暗黒星雲 への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。




札男/暗黒星雲

https://kakuyomu.jp/works/16817330653424081975


フィンディルの解釈では、本作の方角は真北です。暗黒星雲さんの宣言と同じですね。


飽くまでフィンディルの感覚の話ですが、本作はシュールギャグではなく突飛な設定のコメディであると考えます。そもそもギャグではなくコメディであると。

ギャグとコメディの違いを話すと長くなるのでここでは簡単に留めますが、設定や物語を通したおかしみではなく局所的な爆発(の連続)におかしみを見出すのがギャグ、設定や物語を通したおかしみを志向するのがコメディというのがフィンディルの解釈です。それに照らすと、本作にギャグの要素はほぼなく、かなりしっかりとしたコメディであると考えられます。

またシュールも個々人により解釈に幅がある言葉ですが、「超現実的」を基本にシュールを考えると、しっかり現実を意識した質感を示している本作にシュールさはなく、突飛な設定に収まるものと考えます。「紙幣に人格を吹きこむ」ことをトリニティが“面白いこと”と思っている時点で、そこにシュールさはおよそないのだろうと考えられます。

余談ですがボボボーボ・ボーボボは不条理ギャグではありますが都度ツッコミにより現実との比較を提供している点において、シュールとは少し呼びにくいように考えます。だからこそ北西なんですけども。ボボボーボ・ボーボボから全てのツッコミが消失すると、もっと西に寄り(あるいは南に寄り)、もっとわけわかんなくなると思います。

ということで本作は、北西の不条理ギャグでも、もっと西のシュールギャグでもなく、突飛な設定の真北コメディであるとフィンディルは解釈しています。


真北のコメディと考えると、本作は全体的に質が良いと思います。面白かったです。

紙幣が自分の意思で戻るようにすれば稼げるのではという基本設定がコメディ映えしていますし、論理的なんだけどどこか抜けているトリニティの語り口も魅力的だと思います。使った15000円が数日で戻ってくるシステムは素晴らしいですが、それだと月に200000円の稼ぎにもならない。にもかかわらずシステムが軌道に乗りそうなタイミングで贅沢をしてしまう。良い塩梅でコメディが出ていると思います。

そして単に「論理的なんだけどどこか抜けている」だと超帝国長命魔術師とのバランスがやや悪くなるのですが(コメディとしては許容範囲)、ちゃんと最後で「トリニティは面白くて効率的な金策を試す暇潰しをしているだけなんだ」と説明を入れて設定とのバランスを回復させるあたり、非常に真北作家らしい処理で良いと思います。トリニティはゲームを楽しむためにあえて効率を詰めず、綻びを残していると。

このようにきちんと着地させようとする構成的仕草は「甘剣(あまけん)」と共通しているように感じます。同作者らしさを覚えます。


気になったところとしては、「紙幣に人格を吹きこむ」で稼働しているコメディが期待より少なかったところです。

メタファーにおいて(日本の)紙幣は、物であり人であると考えます。(現在の)一万円札は、一万円札紙幣であり福沢諭吉である。つまり「紙幣に人格を吹きこむ」という設定では「一万円札紙幣が人格を有する」と「福沢諭吉が別人格を有する」の二つのコメディの稼働が期待できます。し、フィンディルは期待しました。

しかし本作は「一万円札紙幣が人格を有する」は出ているのに対し「福沢諭吉が別人格を有する」はほとんど出ていないように感じました。「一万円札がそんなこと言うんだ」というおかしみはあるのですが「福沢諭吉はそんなこと言わない」というおかしみは感じられませんでした。また魔術の込め方や恋愛の感じから肖像が喋っているものと思われますが「福沢諭吉が喋っている」映像もあまり浮かんでこなかったように思います。

文字数的な都合もあるでしょうが、「一万円札紙幣が人格を有する」だけでなく「福沢諭吉が別人格を有する」も稼働できると、コメディとしてより骨が太くなるだろうと期待します。一万円札こと霜川憲かつ福沢諭吉こと霜川憲、というキャラ描写だからこそ仕掛けられる波状攻撃もあるだろうと思います。

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