聖女/竹神チエ への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。




聖女/竹神チエ

https://kakuyomu.jp/works/16817330653445871727


フィンディルの解釈では、本作の方角は真北です。


確かに、ダウナーな美を見せたり、生き様に抗わなかったり、社会にいながら孤島で生き続けたり、そういう登場人物の姿は西と親和性が高いと思います。

ただ本作は何を読ませている作品なのかを考えると、それは設定だとフィンディルは思いました。

聖女は病を治すことができる、しかしそれは聖女の神聖力を消費する、使いきると聖女は死ぬ、そのため聖女の寿命は短い、護衛騎士は(おそらく)不老不死、夭折した少女は神聖力を持つことがあり聖女はその身体に転生する。

本作は、この設定を読ませている作品であると思います。確かに本作にはストーリーらしいストーリーはありません。聖女やエドが何か、それまでの自分達の運命に抗うようなエンタメ的行動をすることはありません。では本作は何を物語の推進力にしているのか。物語の推進力とは、何をもって文章を紡いでいるのか、何をもって文章を読ませているのか、ということです。

本作は設定を小出しにすることで物語の推進力を得ているのです。

聖女は病を治せる→エドはそれを良しとしていない、何でだろう→神聖力を使いきると聖女は死ぬからだ→聖女は死んだ→エドは死なない、エドはこれからどうするんだろう→夭折した少女に聖女が転生する。

というふうに、出した設定が読者に馴染んで続きが気になったタイミングで新たな設定を出す、を繰りかえして物語を成立させているようにフィンディルは受けとりました。

ダウナーな美をメインに文章を読ませているわけでも、彼らの生き様をメインに文章を読ませているわけでもなく、切り分けた設定を要所で投入することで物語を細かく勢いづけている。

これはタイミング良く“衝撃の事実”を入れることで読者を引っ張り続けていくエンタメの読ませ方であると判断します。驚きの連続で読者を飽きさせないタイプのエンタメ、それをダウナーなファンタジーに変換しているものと考えます。


しっかり設定で引っ張っているので、エンタメを薄めているわけでもないと思います。色は薄いけど味は濃いスープみたいな感じですね。色(ダウナーなファンタジー)を気にせずに味(面白さ)だけ見ると、しっかりエンタメだと思います。

仮に本作で西を目指してみたいのなら、聖女および護衛騎士に関する設定を全てカットしてみるといいと思います。これら設定が作中世界に存在するのはいいですけど作中では一切説明しない。要は本作に出ている設定を全て裏設定にするということですね。

それで作品を整えてみると、かなり西が強まると思います。


真北エンタメとして考えると、小刻みに更新される設定と、それ以前の心情描写が上手く連携できていないように見えます。

たとえば、軽微な病・怪我で聖女の“奇跡”を乞う民衆に、エドはおよそ殺意を抱きます。この心情描写、「神聖力を使い果たすと聖女は死ぬ」という設定時点ではすごく理解できます。聖女の犠牲も知らずに、民は何と欲深いのかと。しかし「聖女は死んでも別の少女の身体に転生する」と設定更新がなされると、ちょっと「ん?」となります。聖女の犠牲とは……? ん? と。「ん?」とはなるのですが、まぁ聖女が肉体的苦痛を受けることに変わりないし、100%転生できるかわからないのだろうし、そもそもエドは自身と聖女の生き方をおよそ罰とみなすほど苦しんでいるから、まぁおかしいというほどではないかと落ち着きます。落ち着きますが、エドへの感情移入のレベルは下がってしまう感覚がありました。「エドの気持ちはわかる!」から「エドの気持ちは、まぁ、わかる、かな」になった感じですね。

竹神さんとしてはできるだけ感情移入のレベルが下がらないように調整されたのかもしれませんが、エンタメとしては、設定更新がされることでむしろ以前の心情描写がより凄みを増すような連携があるともっと良いと思います。「エドの気持ちはわかる!」が「そうか! エド、そういうことか! わかるわかるわかる!」になるような。

設定を更新するごとに以前の描写が古くなる書き方ではなく、設定を更新するごとに以前の描写が新しくなる書き方ができると、もっと作品映えすると思います。

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