手紙/神楽耶 夏輝 への簡単な感想
応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。
指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。
そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。
またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。
手紙/神楽耶 夏輝
https://kakuyomu.jp/works/16817330653216536686
(改稿後の作品のみ読んでいます)
フィンディルの解釈では、本作の方角は真北です。
神楽耶さんが本作を北西だと認識されている理由、フィンディルが想像するかぎりでは大きく二点あると思います。
まずは、人の死を扱った真面目でしんみりした話だから。
ですが人の死を扱った静かで感動する話は、エンタメの懐にもあります。恋愛や家族が絡むとなおさらです。
心情主導人物主導となれば北北西くらいはありえるかもしれませんが、本作は設定主導展開主導ということもあり、感動系エンタメ(≒真北)と判断します。
次、実体験をもとにした作品だから。
本作についての神楽耶さんのコメントで知ったのですが、本作は神楽耶さんの実体験がある程度反映されているようです。全部ではないようですけどね。
そして作品の方角では「西は昇華を経た作品が少なくない」とあります。
ですので「実体験をもとにしているから、真北エンタメではなくてかなり西に寄るのでは」と考えられたのではないかと妄想します。違ったらごめんなさい。
ただここについては判断の順番が逆です。
「昇華だから西」ではなく「西だから昇華(が少なくない)」です。作者の執筆スタイル・執筆経緯によって方角が決まるのではなく、飽くまでその作品の面白み・魅力によって方角が決まります。作者の執筆スタイル・執筆経緯は飽くまで傾向に過ぎません。
ですので実体験をもとにしていても、その作品にどんな面白み・魅力があるのか、あるいはその実体験をもとにした作品を書いて作者はどうしたいのか(が作品からどう感じられるのか)、これらによって方角はいかようにでも変わります。
そして本作は真北らしいそれであるとフィンディルは受けとっています。
真北の感動系エンタメとして考えると、基本的に本作はバランス良くまとまっていると思います。
若年性アルツハイマー病設定が物語をセッティングしすぎているきらいはありますが、感動系エンタメということで“偶然”への許容はあるほうですし、舞台装置だけに寄りすぎないかたちで若年性アルツハイマー病設定を扱えるようになるともっと馴染んでくるでしょう。
フィンディルが気になったのが文章の細部です。全体的に磨く余地があると思います。ひとつだけ挙げますね。
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食事は喉を通らなくなり、勉強は手に付かない。絶対にいないと解っている校庭に、彼女の幻を見ていた。
高校2年で、初めて持たされた携帯電話で地元の友達と繋がり、弥生のメールアドレスを聞き出す事に成功。
迷惑などかえりみず、何度も身勝手にメールを送った。
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「初めて持たされた携帯電話」だと、携帯の所持は亮介の意向というより両親の意向というニュアンスになります。塾に通う小学生なんかによく使う言い回しです。
ただ高校二年生というタイミング、弥生と繋がることを亮介は求めていた、これらを考えると携帯の所持は亮介が頼んで両親が聞き入れたと考えるのが自然です。(十数年前当時を考えても)両親主導で持たせるなら高校二年生ではなく高校一年生が自然でしょうし。
これら状況や文脈を考えると「初めて持たされた携帯電話」という言い回しはちぐはぐな印象を受け、「ん?」と読書が止まってしまいます。
亮介主導ならば「(高校2年のとき)初めて持った携帯電話」「(高校2年のとき)(親に)頼みこんで持つことを許された携帯電話」などの言い回しが自然だと考えますし、そのほうが「亮介はどうにかして弥生と繋がりたかったんだな」という主旨が強化されると思います。「初めて持たされた携帯電話」では受動的になって、主旨が少し弱くなってしまうように感じます。
このように文章細部で引っかかる箇所が本作では多数見受けられました。ひとつふたつならいいのですが、多数あると物語没入の重大な妨げになってしまいます。
細かいところの意識を上げて文章を洗練させていくと、より没入を誘える物語を提供できるのではないかと期待します。
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