手紙/オレンジ11 への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。




手紙/オレンジ11

https://kakuyomu.jp/works/16817330653272511150


フィンディルの解釈では、本作の方角は真北です。

ほんの少し何かが違っていれば北北西というくらいではあると思いますが、私が今まで読んできたオレンジ11作品のほうが明らかに西寄りだと思います。


主人公(茉莉)の生い立ちは、確かに西と親和性が高いと思います。局所的には西らしい描写もあると思います。

ただ作品への落としこみ方や筆致などは、非常に北らしいと感じます。姿勢は西側に全力で前傾したがっているが立っている地面は北、そんな作品だと思います。


まず主人公の半生記が、要点を押さえた無駄のない筆致になっている。物語に必要な要素を必要なだけ描写することができている。これは描写対象人物と適切な距離感をとれていることを示唆します。

北向きの創作者か、“大人”になることで西を書くのが難しくなった創作者にありがちだろうと思います。逆に西しか書けない人からすると「無駄なく言い表せていて憧れる」と思われるかもしれませんね。


そして本作は方角を見定めるポイントが二つあります。

まず父からの手紙(ぐしゃぐしゃに丸められたチラシの広告)の処理。

中学生時の場面では文章を明らかにしなかったのを受けてフィンディルは「後々明らかになれば北に寄り、明らかにならなければ西に寄る」と考えていました。

後々明らかになるとしても、中学生時の場面で明らかにしなかったことにキャラレベルの理由があればまだ西もあったのですが、結果的に作品構成上の仕草と考えられますので北に強く寄りました。

次に父との和解なり父への復讐の有無。

主人公が作家デビューを果たして“表の人”となったのを受けてフィンディルは「和解展開か復讐展開が来れば北に寄り、いずれもなければ西に寄る」と考えていました。和解も復讐も(北らしい)主人公の「目的と達成」が成立しやすくなるからです。

そして結果的に復讐展開が来た。しかも「母はもちろん、周囲に父の臨終を見届けようと待機している医師や看護師がいるのは気にせず」と復讐へ箔をつける叙述もある。

ということで真北が妥当だと判断しました。


余談ですが、和解・復讐・成功はただそれが存在するから北寄り、とは必ずしもなりません。西向きの作者が物語中だけでも幸福であるようにと、作品品質を度外視して作者特権を発動している場合もあるからです。この場合はむしろ西向きを感じさせる展開となります。

両者の区別は(執筆経緯における事実ではなく)作品の雰囲気や魅力によって行われますが、本作は「読後感の苦さを残して作品品質に資するために構想当初より決められた結末」という印象を受けましたので、北寄りと判断いたしました。


この話の続きを残りの約2500字で書いてみると、もしかしたら西に寄るかもしれないなあと妄想しました。もちろん描き方次第ですけどね。


また

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「あら、良かったね。それにすごい、美玖ちゃん、上手」

「わたしも、かいてみたいな」

「そうだね。じゃあ今日、おやつを食べながらやってみよう!」

―――――――――――――――――――

「茉莉! 頼むからいい加減にお父さんに反抗するのは止めてちょうだい! 誰のおかげでご飯、食べられていると思っているの?」

―――――――――――――――――――

父の変質以上に母の変質のほうが、フィンディルには刺さるものがありました。

北として受けられる苦しさもありますし、西の端緒になる苦しさもあると思います。とても良いと思います。

ただこれはオレンジ11さんの課題なのですが、やはり「止めてちょうだい!」と役割語が出ているのが気になりました。実際の親子の会話で「止めてちょうだい!」はなかなか出ない感覚があります。役割語はフィクション化を促進させて読者と作品の距離を遠くするので、本作にはあまり合わないように思います。役割語自体が悪いわけではないのですが、作品に応じて役割語とそれ以外の口調を使い分けられるともっと良いかなと思います。

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