踏轍/雲隠凶之進 への簡単な感想
応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。
指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。
そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。
またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。
踏轍/雲隠凶之進
https://kakuyomu.jp/works/16817330653196213251
フィンディルの解釈では、本作の方角は真北です。雲隠さんの宣言と同じですね。
筆致に設定に第一話性といい、いずれをとっても真北を否定するものではないと判断します。
第一話性というのは、まるで中長編の第一話を切りとったような話、という意味です。掌短編のスタイルとしては珍しいものではありません。本作もこのあとに(余韻というレベルではなく)明確に中長編なりのストーリーが想像できそうな作品です。
第一話性のある作品は「面白そう」がそのまま「面白い」に変換されやすい性質があるので、掌短編ではまとめきれない設定やコンセプトでもある程度は登場させられるというメリットがあります。
また本作全体に漂うのが、筆致のこなれ感です。テンポの良いやりとりや地の文の運び方など、書き慣れた人の文章であるという安心感があります。
第一話性とこなれ感が本作の特長なのかなと考えます。
ただフィンディルとしては、第一話性とこなれ感に作品の説得力を任せすぎているように見えるのが気になりました。
まずこなれ感の話ですが、武の文章運びや自己紹介など「こういうの見たことあるな」という印象が蓄積したのを覚えています。そういう文章は安心感を与えてくれるのですが、同時に「この作品のこの文章ならではの魅力」に欠けてしまうことがあります。
また武と絢乃のかけあいはテンポが良くて軽妙なのですが、かけあい量の割には両キャラクターの魅力が「社長令嬢と執事の関係だけど本当は幼馴染」を脱しないことも気になりました。本当の意味で第一話になってしまっている。
「すらすら読める」のはもちろん大事なのですが、同時に「何か残る」も満たせるともう一段階面白くなるんじゃないかなと期待します。エンタメであってもコメディであっても「すらすら読める、かつ、何か残る」を目指すのは不可能ではないと考えます。
また第一話性については、あるだけで物語に活きてこない設定が多すぎるのが気になりました。
名探偵・社長令嬢・有名人・中流家庭出身・結婚願望・縁談破壊事件・幼馴染・ラーメン好きと設定は沢山あるのですが、このなかで物語に活きているのが社長令嬢・幼馴染・ラーメン好きくらいしかないように思います。名探偵・結婚願望・縁談破壊事件は設定紹介で終わっていますし、有名人・中流家庭出身については雲隠さん自身も意識できていないように見えます。
第一話性のある作品だから、だけで片づけるのはさすがに無理があるかなと考えます。
本作は設定によってキャラ表現を行っているのですが、設定を出せば出すほどキャラに厚みと個性が出るかというと、必ずしもそういうわけではないだろうと思います。
絢乃が好きなラーメンが二郎系ならば「設定マシマシなお嬢様が一番の二郎系だ」みたいにして設定の数を締めに用いることもできたでしょうが、家系ですし。
冒頭の謎解きパートは良いと思います。荒唐無稽気味にバランスを寄せることで「本作はミステリーというわけではないですよ」というメッセージが作れています。
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