第42話 ルーツ

 エルンストと話して、印象深いことを言われた。


「君は誰よりも先を進んでいるが、その歩む道は過去に繋がっているようだ」


 確かに、俺は未来を救うためにルーツをたどる旅をしている。


 ゲートの暴走からはじまるこの星の崩壊。


 それを止めるためには、ゲートを自在に操れたというアレン皇帝と、その魔術でゲートを管理していたセシルという天才に関して徹底的に調べる必要がある。


 彼らが生きているうちはゲートは暴走などしなかった。

 彼らがいなくなってから10年足らずでゲートは星を飲み込むほど狂ってしまう。

 

 ふたりがいたときと、いなかったときの違いこそが暴走を止める鍵になる。

 俺はそう考えている。


 今わかっているだけのキーワードはわずかしかない。

 アレンの後継者とされ、自由自在、かつ気ままにゲートをあやつるファレルと、かつてファレルと共に行動して、今は道を違えたというクルト。

 

 優秀な回復術者として金持ちにたらい回しにされていたファレルと、見世物小屋で劣悪な環境に置かれ、失明までしていたクルトを引き取ったのがセシルだった。


 他にも才能豊かな男女が年齢問わずセシルの下に集められたらしいが、その中にザクロスの町長も含まれていたことは間違いない。


 エノクから聞いた話だと、セシルの弟子と言われるうちの何名かが、やばい実験に没頭し、しくじって死んだ。


 その中にファレルとクルトも含まれており、セシルは二人の死に大いに落胆し、その日から別人のようになってしまったという。


 その後、周囲の励ましもあり、再び弟子を集めて一からやり直そうとした。

 回復術者のための学校で、そこに幼かったエリアもいた。

 

 ただセシルはその時点でどうにもならないほどの病魔に冒されていた。

 学校は半年で取りやめになり、セシルは直後に亡くなり、その死に衝撃を受けたアレンまでも後を追うように風邪をこじらせて亡くなる。

 なのにどういうわけか、ここに来てファレルとクルトが死んでいなかったという事実が判明し、このことが帝国の混沌をさらに深めていくのだろうけれど、そこから先は俺が首を突っ込む範囲ではないだろう。


 とりあえず俺が今するべき事は、ファレルとクルトを追いかけて、いったい何がしたいのか問いただすことだ。

 さらにはゲートが暴走するから、あまり無茶苦茶なことはするなと忠告し、なんなら手伝ってくれと説得する……。


 相当難しいミッションではあるとはわかっている。

 

 だからこそ、俺個人のレベルを上げなくてはいけない。

 今のままじゃなめられて終わってしまう。

 

 魔法が使えないのはもう個人の才能だからどうにもならないが、それ以外のことで向上できる要素があるなら、鍛えなければと感じている。

 だから学校に通うのだ。

 学校に通いながら世界の崩壊を救うってのも難しい話だが、もうやるしかない。

 一分一秒、無駄には出来ないのだ。


 というわけで、俺はエリアを呼び出した。


 彼女は俺の専属の騎士になった。


 エルンストから許可は得たし、どこへ行くにも一緒だからとエリアと約束した。

 実際この子は強いから頼りになる。


 とはいえ、星の崩壊については説明していないというか、出来ていない。

 

 口が軽いし、その自覚すらないから、絶対言わない方が良いとエノクとエルンスト両名からきつく言われているのである。

 実際、俺が詐欺にあって小さい家具を買いまくっていることや、三級奴隷なのにエノクの弟子でクロードの軍師とか、実を言うとエリアの婚約者なんだよとか、あることないことがもうエクリアの民に知れ渡っていて、その元凶はすべてこの女にあった。


 なので一応知っていてほしいことがある。

 俺がエイリアンであると知っているのはエノクとエルンストだけ。


 それ以外の人間には以下の設定を貫くことにしている。


 すなわち草原の部族であったジェレミーは、ザクロスの街で受けた迫害のせいで記憶がほとんど失われている。

 エリアもクロードもその設定を信じて疑っていない。

 そこは覚えていてもらいたい。


「はあ、やっぱり死んじゃったか、あの町長さん」


 俺と同じ感想を抱くエリア。


「じゃあ、そのエメラルドの女の子をたどっていけば、君の記憶も蘇るかもしれないってこと?」


「かもしれないし、探っていくうちにクルトにたどりつく可能性もある」


 その言葉にエリアはためらいを覚えたようだ。


「クルトに会えたら戦う? あいつ……、強いよ」


 気持ちはわかる。殺されるところだった。

 あんな痛い思いは二度としたくない。


「わかってる。見つけたら速攻で逃げて、速効で報告する。そこから先はクロードとエノクに任せりゃいい」


 あまりにも正直な俺の言い方にエリアは苦笑する。


「なるほど、見つけるまでがお仕事ってことか。大丈夫、君には傷一つ着けさせないからね」


 そういうことである。


「で、どこ行く? ゲート、使うんでしょ?」


 目の前の冒険が楽しみで仕方がないといった感じである。


「とりあえずエノクに薦められているのは……」


 帝国の隣国ウォードをさらに北上すると、広大な草原にたどりつく。

 そこには七つの部族が存在し、一つに定住することなく草原を自由に動き回りながら一年を過ごしているという。


 かつては十部族いたそうだが、三つは帝国とウォードの同盟軍に滅ぼされ、三級奴隷として帝国領内の各地に散り散りになっているとか。

 ジェレミーはその内の一人だったのだろう。


「今の時期は草原の真ん中にでかい市場をこしらえてそこで商売しているらしい。冬の時期に作っておいた絨毯やら服やらを売り出すんだと」 

 

「じゃあ、さっそく行こう!」


 思い切り背伸びして体をストレッチさせるエリアの視線の先には、秘密の階段がある。


 

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