令和五年葉月から令和六年皐月まで

令和五年 葉月


力尽き 蝉も鳴かない 真夏日に 日陰求めて 駆け歩き行く

蝉時雨 夏の暑さを 示しつつ 入道雲の 涼やかさを見る

道歩き 夏の暑さに 参るもの 百合の繁茂に 驚かれぬる

息絶えて 藻掻いた蝉が 羽ばたくも あらぬ方へと 飛び狂うなり

書き連ね 消しては書くの 繰り返し 夜のあわいに 寄せては消える

遠雷に 備えず歩き 濡れ鼠 夏の終わりの 集中豪雨


令和五年 長月


見上げれば 雲一つない 青い空 雲と紛うは 沈む弦月

数多行き 夜を先取る 蝙蝠は 雪て去りては 夕闇を引く

蝉は去り 代わりて鳴くは 秋の虫 時は静々 流れゆきつつ


令和五年 神無月


黄昏を 行くは蝙蝠 数知れず 西へ東へ 夜を先取る

電線に 群れて佇む 雀ども 何処より来て 集うものやら

暁の 空に棚引く 墨流し 明けの絵筆に 白く塗らるる


令和五年 霜月


吹く風の 寒さわからぬ 酔い歩き 月は白銀 宵の空にて


令和五年 師走


積もり行く 雪に戸惑う 明け方に 夜は如何程 積もるか思う /2023/12/17

一年の 終わりに思う 無為の日々 酔いて過ぎ越し 夢に佇む /2023/12/31


令和六年 睦月


疾く過ぎる 日々の流れは 風のよう 寒空の下 一人佇む

波凍る 画面の先の 冬景色 窓の外との 落差に惑う


令和六年 如月


雲一つ ない寒空に 鳶が鳴く 声はすれども 姿は見えず

絶え間なく 声たて風が 鳴り響く 春一番には 未だ冷たく


令和六年 弥生


吹き荒ぶ 春の嵐は 雪混じり 不香の花が 春分に舞う


令和六年 卯月


蛙啼き 最早初夏とも 思えども 未だ春先 夏は遠きに

桜木を 雲か霞か 見間違う 散り行く花は さながら雨か

右左 疾くも燕が 舞い踊る 帰り行く巣は 何処なりやと


令和六年 皐月


天を突き 松の新芽が 伸びていく 切るには困る 方向ばかりに

五月雨が 昼夜を徹し 降りしきる 晴れの日の間は いつになるやら

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三十一文字の歳時記 四辻 重陽 @oracle_machine

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