フラミンゴの恩返し
齊藤 紅人
フラミンゴの恩返し
・フラミンゴ(flamingo)
水かきのある長い脚と長い首を持ち、頭部に濾過摂食に著しく適応した特異な形態の嘴を有する大型の水鳥。体色は淡いピンク色から鮮やかな紅色。和名はベニヅルだが、ツルとは近縁ではない。――Wikipediaより抜粋。
ある寒い冬の夜のこと。
おじいさんの家の戸をとんとん、とんとん、と叩く音がします。
「はて、こんな夜更けにだれじゃろう?」
おじいさんは戸を開けました。
そこに立っていたのは若い娘でした。
娘の髪色は見たこともないような鮮やかな桃色で、その口はどういうわけかひょっとこのように反り返って歪んでいました。
「旅のものです。道に迷ってしまって……どうか一晩泊めて下さい」
娘はひんまがった口をしていましたが流暢にそう言いました。
「それは難儀な。ささ、入りなされ」
おじいさんは娘を家の中に入れてやりました。
おじいさんは娘のために温かい食べ物を与え、亡くなったばあさんの使っていた機はた織り機のある奥の部屋に布団を敷き、寝間を準備してあげました。
翌朝。
娘は泊めてもらったお礼に機はたを織ると言いました。
別に礼なぞいいのにとおじいさんは断りましたが、娘がどうしてもというので奥の部屋をそのまま使わせてやることにしました。
「でもひとつだけ約束してください。私が機はたを織っている間、決して中を覗かないで下さいね」
注文の多い娘だなと思いながら、おじいさんは分かったと答えました。
その言葉を聞いて、娘は奥の部屋に入り、ぴしゃりと戸を閉めました。
戸の向こうから機はたを織る音が聞こえてきます。
娘は部屋から出てこようとせず、三日三晩、機はたを織り続けました。
おじいさんは約束通り、部屋を覗こうとはしませんでした。
四日目の朝、娘は部屋から出てきて、織り上がった反物をおじいさんに差し出しました。
それは娘の髪のように桃色に輝く、とても艶やかで美しい反物でした。
「これを売ればいくばくかのお金になるはずです。受け取ってください」
娘の声が疲れで震えているのがおじいさんには分かりました。少しやつれ、髪も艶を失っています。
「お前さん、もしや……」
「いけませんおじいさん! それ以上言わないでください!」
「いや、そうではなく……」
娘は何かを言おうとするおじいさんに反物を強引に押しつけました。
「これでお金持ちになって良い暮らしをしてください! 喜助おじいさん!」
「いやだから、喜助は向かいの家なんじゃ」
「……は?」
「わしは喜作。喜助は向かい。喜助のやつ、先月ぐらいに『変なクチバシした桃色の鶴が罠に掛かってたのを助けた』って言うておったから、まあ間違いないじゃろて」
(゚∀゚) (゚∀゚) (゚∀゚)
「えええええええええーっ! ちゃうの!?」
「ちゃうなあ」
「ほな自分ニセモノ!?」
「ニセモノとは失礼な!」
「ないわー。近場で似た名前とかほんまないわー」
「そっちが勝手に間違っといて何やねん! そもそも恩返しに来るなら素直に『恩返しに来ました』って言えばええやないか! 『旅人です道に迷って……』とか訳の分からん嘘つくからこんなことなんねん!」
「それはあれやないか! 日本人らしい奥ゆかしさと、名も言わずに礼をするという出しゃばらない感じを子供に教育するためのあれや!」
「いま令和やぞ! ちゃんと名乗らな気持ち悪がられるだけやないか!」
「元号だしたら設定が無茶苦茶なるやんけ! それより反物返せや!」
「返すかボケっ! 受け取ってください言うたんお前やぞ!」
「ニセモノって知ってたら渡してないわ!」
「泊めてもらったお礼や言うてんから俺には貰う権利があるやろが!」
「それは言葉の綾やないか! お前それ織るのどんだけ大変か知らんやろ! 飲まず食わずで三日やぞ!」
「はーいお疲れ様でしたー。ありがとねー」
「じじい腹立つわー! こうなったら力ずくで取り返したる!」
「やれるもんならやってみい!」
「きえーっ!」
「おりゃーっ!」
――おちまい。
フラミンゴの恩返し 齊藤 紅人 @redholic
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます