第8話

叔父の声音はとても優しくて、大切な人への思いを感じる。

「叔父さんは…お母さんが好きなの?」

普段なら決してしない、踏み込んだ質問が考えるより先に口をついて出てしまった。

叔父は答えずにコーヒーをまた一口飲んだ。

私も慌てて一口飲み、息をせずに飲み込んだ。

少しだけぬるくなった液体が喉を通る。

息を吸うと一気に苦味が広がったが、鼻を抜ける香ばしい香りは少し心地良かった。

「二人が一緒になる前に、兄さんは俺だけに連絡してくれてね」

親戚達が遠慮なく何度も使った駆け落ちという言葉をあえて使わずに話す叔父に、両親への気遣いを感じた。

「二人共とても苦しい状況だったが、とても幸せそうだった。俺は二人を応援すると約束し、二人も折を見て連絡すると言った。お前のことも手紙や写真で知っていたんだよ」

叔父はなぜこんな話をするのだろう。

私は叔父の語る思い出話の行く末が不安になって、眼前に置かれたチョコレートタルトばかり見つめていた目をそっと上げて、叔父の表情を再度伺った。

こちらをまっすぐ見る二つの目の白目がうっすら赤らんでいた。今にも泣きだしそうにも、すでに泣いてしまった後のようにも見える。

ますます不安になって、それでも叔父から目が逸らせず見つめていると、ふいに叔父の顔がぐにゃりと歪んだ。泣いているのは私だった。

気づくと涙が後から後からポロポロとこぼれる。一度決壊したダムが勢いを増すように、遂にはしゃくり上げるように、声を上げてわんわん泣いた。しばらくして、頭の上にふわりと大きくてゴツゴツとした温かい感触。叔父が頭を撫でてくれているのだと理解した私は、涙も声も止める術を失くして、体中の水分を出し切る勢いで泣き続けた。

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