第5話

ボックス席というだけあって、私達の席は箱の様な作りで3面が壁に囲われている。

もちろん窓もない。

密談にはぴったりだが、私と叔父には誰かに隠すような会話などないと思う…あるのかもしれないと思い始めてはいるけれど。

叔父の背後には綺麗な風景画が飾られていた。

もしかしたら私の後ろにも絵が飾られているのだろうか。

私は振り返って絵があるのか確かめる選択に蓋をする。

騒がしい子供は大人の機嫌を損ねる。

コーヒーが運ばれてくるまで深呼吸を繰り返しながら前方の絵を眺めていようと決めた。

ふと、足元に何かの気配を感じた。

大袈裟な動作にならないようにさりげなく足元を確認すると青い目が二つ。

店主の瞳に似た綺麗な目の黒猫がちょこんとテーブルの下に座っていた。

「ミケか?」と叔父が呟く。

見ると叔父もテーブルの下を覗いていた。

黒猫は私達のちょうど真ん中あたりで返事をするように「にゃお」と鳴いた。

三毛?この子は黒猫だと思うけど…

心の中で叔父の声を訂正する。

「猫、お嫌いじゃないですか?」コーヒーを淹れながら店主が言う。

なんとなく私に言っていると思ったので私は小さく首を振った。

猫も犬も生き物は大好きだ。人と虫は少し苦手だけどハムスターも小鳥も魚も生き物は全部好き。

「よかった。ミケは人好きなんです。仲良くしてやってください」

そう言って薄く微笑んだ店主の声に三毛はミケという名前なのだと気づいた。

叔父はこの喫茶店によく来るのだろうか?

ミケが下であくびをしながら伸びをしている。

ゆったりと流れる店内の空気とコーヒーの香ばしい香り。ミケを挟んで座る私と叔父。

非日常がもたらす作用なのか深呼吸の成果なのか緊張が少しずつ解れてゆく。

いつもはまともに見ることが出来ない叔父の顔をそっと覗き見ると、叔父の不安そうな目とぶつかった。

そう言えば叔父ときちんと目を合わせたのはこれが初めてではないだろうか。

私は内心の動揺を悟られないようになるべく自然にミケに視線を戻した。

今日はすでに一つミスをしてしまった。

もう失敗出来ない。

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