第3話

叔父は何も言わなかった。

傘を叩くパタパタという雨の音、時折脇を通り過ぎる自動車が跳ね返す水飛沫。

変わらずゆっくりと前を歩く叔父の背中。

雨なのに下駄で歩く叔父の足の動きを交互に目で追う。

カラン、コロン、カラン、コロン…

言葉は無く、ただ音だけが響く世界で叔父の感情を読み取る事はできなかった。

先程の会話は白昼夢だったのかもしれない。

どこまで行くのだろう?そう思い始めた頃に、

「着いたぞ」と叔父の声。

顔を上げると私たちは喫茶店の前に居た。

喫茶店と分かったのは店先に看板があったからだ。

日が落ちてうっすらと暗くなり始めた周囲に柔らかい光を放って、【喫茶ダリア】という文字が浮かんでいる。

白い箱型のプラスチックにレトロな青文字で書かれた店名を囲うように青い薔薇と蔦が描かれ、中の照明で発光するタイプの古い看板だった。良い感じだなと思った。

建物は2階建てで赤茶のレンガで出来ているようだが壁中に蔦が生い茂っていてほとんど緑色だった。控えめに並ぶ3つの窓も辛うじて光が漏れる程度しかガラスが見えない。

見えている部分も曇っているのか不透明だった。

流行りに敏感な人達が「映える」と評しそうな佇まいではあるが、店先の看板が無ければ一見するとお店であるのかすら不明な不思議な建物だった。

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