一章 妖怪になるぞ、俺は!

第1話 変な夢


「おい、巻森」


「すー…」


「おい」


「は?」


「は?だとぉ……教師に向かって何を……っ!」


「…」



うるせー…いや待て。



「…」



ここ…教室か。教室…?



むくりと上半身を起こすと、見事に中年太りした非常勤の数学教師・佐藤が目の前にいた。

俺が通っている須賀田すかた高校でのあだ名は、何故か酢豚だ。


今は顔を真っ赤にして唾を飛ばしてきてる。



教室の所々で笑いが起こる。



ということはなく、クラスメートたちは、あからさまにまたかよ、という顔をしながらこっちを向く。

一部は佐藤に対して笑っているが。


だって、仕方ないじゃないか。


ここ最近はよく寝れないんだよ。



…あの夢のせいで。



今回はいつもと違ったが……もしかして、「来てる」って先生のことか?


……頭がぼんやりする。取り敢えず、二度寝しよ…



本当に、眠い。




「おーい、巻森ー」


「すー…」


「起きろー」


「…」



揺さぶられて、強制的に意識が覚醒する。



「あ…頼太らいた…」



上村頼太うえむららいた。爽やかイケメンって言葉がよく似合う、幼稚園の頃からの幼馴染だ。



「おはよう。…もう昼だぞ。一緒に昼飯食べよう」



周りにあまり良く思われてない俺と、唯一関わってくれるやつだ。

頼太は早速自分の席に戻り、弁当を持ってきた。……昼?



「ま、マジ?もう昼か…」



それなら二時間ぐらいずっと寝ていたことになる。

その間、誰も起こしてくれなかったのか。



「井上、ちょっと借りんねー」



頼太は、誰も座っていない前の席にどかっと座り、にやにやしながら俺を見た。何?気持ち悪い。



「な、何だよ…」


「また見た?変な夢」



変な夢。


頼太が指しているものは、最近…というか、六日前から見るようになった夢のことだろう。



「うん、見たけど…」


「けど?」


「変は変。だけど、いつもと内容が違った」


「え!?ガチで?どんな感じ?どんな感じに違ってた?」



う、うわぁ。何でそんな、必死そうに食い付いてくんだよ。変態みたいだぞ。

…俺のこの話を、笑いながら聞いてくれたいいやつだが。



「え、えぇと。最初に……」



さっき見た夢のことを細かく話した。



「…へぇ、知らない女の子が?」


「あぁ。かたすに行かないで〜みたいなことを何回も言ってきた」


「いつもと違うな…」


「んー」



変な夢を見たのはこれが最初ではなく、六日前から見るようになった。


いつも、黒い「何か」から出てくる無数の手に掴まれる、という内容だった。



しかし、今日見た夢は違う。



「本当に何なんだろうな…」


「…頼太。最初から言ってるだろ?これは俺の内なる力が…」


「あー、はいはい。そういうことね」



スルーされた。


なんでだ? 本気で言ってんのに。



「もしかしたら、悪いことが起きるって前兆とか?」


「いや、だから…俺の内なる……」



"かたす"が何を意味するのか。俺がそれを理解するのは、少し後の事だったんですわ。

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