第51話 「覚悟」⑦
真弓にみるみる闘志が甦ってきた。
『鬼丸』を火の位、上段に構えた。
すると再び『鬼丸』が天色〈アマイロ〉に輝き始め、真弓の握る柄から腕、肩、上半身とその輝きは真弓の体全体を包み込んだ。
真弓と大ムカデの睨み合いはそう長くは続かなかった。
真弓が右足で床を蹴った!
「ヤーッ!」
気力の漲る剣士独特の声が道場に響き渡る。
その気合いに呼応するかのような威厳ある言葉が真弓の心に響き渡った。
「
心のままに
大ムカデとの戦いは一瞬で終わった。
真弓が上段から振り下ろした『鬼丸』が大ムカデの正面から尻尾までを僅か1秒ほどの高速で真っ二つに切り裂いてしまった。
そして真弓が切り裂く時に飛び散る粘液は『鬼丸』の放つ天色の光が守ってくれた。
大ムカデを斬った先には『ダーク・レディ』がいる。
まさか『ダーク・レディ』は、目の前に真弓が現れるとは思わなかったようだ。何の防御も出来ぬまま、真弓が上段から『鬼丸』の切っ先を左に下ろし、横一直線に右へ刀身を薙ぎ払う波動をまともにくらい、道場の板塀に突き飛ばされた。
真弓はそのままの状態で勢いよく沢村を左腕に抱え、床をひと蹴りした。
一瞬にして真弓は『ダーク・レディ』とは真向かいの板塀近くに降り立った。
位置的に『ダーク・レディ』は神棚のある上座、真弓は下座。距離にして約20㍍は離れている。
考えてみれば、真弓のどこに沢村を左腕1本で抱えるだけの腕力があるのだろう。
真弓は沢村を床にゆっくり寝かせて『ダーク・レディ』に踏まれていた胸に『鬼丸』の刀身を優しく押し当てた。
(もし肋骨にヒビが入っていたとしても、これで少しは楽になってくれる筈だわ)
真弓は沢村を介抱しながらも『ダーク・レディ』の動きに注意は怠らない。
『ダーク・レディ』はといえば、板塀に突き飛ばされる瞬間に回転して膝から降り立っていた。
その顔にもう余裕の笑みは無かった。頭部に蠢いていたムカデは姿を消し、なんと長い紅の髪に変わっている。
チャイナドレスも漆黒の色彩となり、シルバーの炎と火の粉の模様が散りばめられていた。
真っ二つに切断された大ムカデは……泡と化してすでに消滅していた。
真弓は気を失っている沢村をゆっくりと床に寝かせて、立ち上がった。そして『ダーク・レディ』のいる神棚に向かって歩き出した。
そのまま道場の真ん中で立ち止まった。
(ここならどんな攻撃も
そんな真弓の気持ちを察しながら『ダーク・レディ』は、再び不敵な笑みを浮かべた。しかし、その顔は先ほどよりも余裕の感じられない笑みに見えた。
「さぁ、これを避けてご覧!」
『ダーク・レディ』が叫ぶと同時に真弓に向けた両腕から再び鋼鉄の爪が超高速で伸びてきた。
右手の5本の爪は真弓の正面に…!真弓は「カキン!カキン!…!」と5本の爪を切り落とした。
しかし、左手の5本の爪は大きく真弓の右側を弧を描くように迂回して、ミサイルのように真弓の背中を襲ってきた。
真弓は振り向いて爪の攻撃を受け止める時間的余裕などない。一瞬の出来事なのだ。
だが慌てなかった。右手に持った『鬼丸』をすぐさま背中にあてがった。
背中に目がついているのではないかと思うような鮮やかな剣捌きで高速で襲って来た5本の爪を「スパッ!スパッ!」とすべて切り落とした。
真弓の右手は『鬼丸』を握ったまま背中に構え、左手は体の正面で左拳の人差し指と中指を真っ直ぐに伸ばし、祈るような型をとった。
剣道にこんな構えはもちろんない。まさに『鬼丸』を持つ真弓だけが編み出した「前後不動の構え」だ。
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