第50話 「覚悟」⑥
(『ダーク・レディ』に悟られないうちに…)
大ムカデが牙を剥いて襲い掛かってきた瞬間、真弓の体が『鬼丸』にまるで引っ張られるように素早く動いた!
体を半身にして牙を避けたかと思ったら、一瞬にして大ムカデの胴体の右下にもぐり込み「ガガガガガ……」と金属がぶつかり合うような音を立てながら、大ムカデの右脚をすべて斬り払った。
右脚が完全に無くなり、のたうち回る大ムカデ!
「やった!」と一瞬ホッとした真弓だったが腕や肩、足に粘り気のある液体がベタベタと付いている。大ムカデの脚の切り口から飛び散った粘液だ。
脚を斬った時に粘液が飛び散り、真弓の上衣や袴、腕や踵、首筋に降り掛かっていたのだ。
粘液が付着した箇所があっという間に火傷をした時のような痛みに変わっていった。そして、みるみる内に皮膚はケロイド状になり激痛が走る。
痛みで立っていられない真弓はその場に跪いて歯を食いしばるしかなかった。
「バカな子だねぇ! おとなしくムカデに食われていれば痛みも一瞬で済んだものを。その粘液はおまえの肉どころか骨まで溶かすよ!」
『ダーク・レディ』はケラケラと笑いながらなおも喋り続けた。
「それにムカデを見てご覧! おまえがそんな痛い思いをして斬った脚がもう再生してるよ。このまま喰われちまいな!」
真弓が痛みを堪えて振り向くと、大ムカデが頭を持ち上げようとしているところだった。しかし、再生したばかりの脚ではまだうまく自分の体を支えることができないようだ。
(うぅ、痛い! このままお母さんの体は闇鬼になってしまうの……?)
真弓が弱気になったその時『鬼丸』の刀身がまたしても天色に輝き出した。
すると柄を握っている真弓の右手が勝手に動き出して、左腕のケロイド状になった傷口に天色に輝く刀身を押し当てていた。
どうしたことだろう? あっという間に痛みもケロイド状になった傷口も元の綺麗な皮膚に戻っていく。
(ありがとう『鬼丸』! まだ私に戦う力を授けてくれるのね)
真弓は『鬼丸』を急いでケロイド状になった数カ所の傷口に押し当てて、一瞬にして完治させてしまった。
これに慌てたのは『ダーク・レディ』だ。自分の頭のムカデが届かない距離に真弓はいる。
「おい! 何をモタモタしている! 早くそいつを噛み殺してしまうんだよ!」
大ムカデもやっと臨戦態勢に入れるまでに回復したようだ。鎌首をもたげて真弓を睨みつけた。
ここで真弓はやはり不思議に思った。
(『ダーク・レディ』は、ひとっ飛びで私を襲いに来ることが出来た筈。なのに沢村さんから足を離そうとしない。おかしい?)
しかし、今は目の前の大ムカデに全神経を集中しなければならない。
どうやってこんな大きな化け物をやっつければいいのか?真弓は自信が無くなりかけた。
その時だ。
「怯むな!己を信じて突き進め!」
(『鬼丸』? 私を勇気づけてくれるの?)
真弓はラウラと宮脇を振り切って寝室に飛び込んだ時の自分を思い出した。
(そうだ、お母さんを……沢村さんを助けるために私はここにいるんだ!)
真弓にみるみる闘志が甦ってきた。
『鬼丸』を火の位、上段に構えた。
すると再び『鬼丸』が天色に輝き始め、真弓の握る柄から腕、肩、上半身とその輝きは真弓の体全体を包み込んだ。
(闇鬼は毎月1日、4日、8日、12日、16日、20日、24日、28日に更新予定です)
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