第49話 「覚悟」⑤
それではと真弓は警戒しつつも右へ反転しながら、先程の機械音を確かめるためチラッと左を見上げた……。
その途端、真弓は体中の血の気が引いてしまうような恐怖と絶望に駆られた。
真弓を3㍍ほど上からジッと見下ろしている巨大な生き物!
大ムカデだ!
眼球だけでもテニスボール位の大きさがある。何十本もある鎌のような脚がグニョグニョと動きながら、左右の口に付いている出刃包丁のような牙がいつでも真弓を噛み殺す体勢に入っていた。
『ダーク・レディ』がまたしてもケラケラと笑い出した。
「私から間合いを取って逃げられるわけがないだろう。……私の髪の毛をさっきはよくも切ってくれたねぇ! でもそのおかげで、こんなに可愛いムカデちゃんになってくれたよ」
大ムカデは、体長が5㍍はあるのではないだろうか。太い後ろ脚でしっかり踏ん張って、上体を持ち上げているのだ。
真弓の右には『ダーク・レディ』! 左には大ムカデ!
まさに真弓は挟み撃ち状態に追い込まれてしまった。
(まだまだやられるわけにいかないのよ。でもどうやってこの状況を変えられるの?)
そしてこの時、真弓は『ダーク・レディ』の不思議な状態に気がついた。
右足をずっと沢村の胸に置いているのだ。
真弓を髪の毛で、そしてムカデで攻撃している時も沢村から離れようとしなかった。
(私を殺す気になれば『闇鬼』自身が動き回って襲ってくる筈。それをしないで裸足の右足をずっと沢村さんの胸に乗せている)
あの戦いの状況で右足をずっと胸に乗せられていた沢村の肋骨はきっとヒビが入っているかもしれない。
(早く助けなくちゃ……)
そして、真弓がもう一つ気になっていたのは『ダーク・レディ』が乗せている足が赤とオレンジ色に明滅していることだった。
その明滅は沢村の胸から『ダーク・レディ』の足に向かってゆっくりと上昇している。
まさに沢村のエネルギーを吸い取っているみたいに。
(ガッチリしていた沢村さんの体がやつれている感じがするわ……)
「ほらほら、余計なことを考えてるヒマは今のおまえにはないんだよ!」
『ダーク・レディ』は愉快で堪らないらしい。
「さぁ、ムカデちゃん…、その娘の首を喰い千切っておしまい!」
命じられるが早いか、大ムカデの牙が真弓の首めがけて風を切ってきた。
素早く左に転がるようにして危機一髪でよける真弓。
大ムカデの牙は道場の堅い板の間を軽々と砕いて、また鎌首を
そのような攻撃が何回も続いた。
一度は牙を砕こうと鬼丸で「ガキーン!」と受け止めたが、そう簡単に斬れるものではない!逆に真弓が堅い床に叩き飛ばされた。
1本が40cmはあろうかという大ムカデの無数の脚がガリガリと床を削り這い回る音もする。
真弓はその蠢いている脚をジッと見つめた。
(脚だ! 巨大なムカデを支えているあの無数の脚が無くなればムカデの動きを止められる!)
それに呼応するかのように『鬼丸』の太刀も
(『ダーク・レディ』に悟られないうちに…)
大ムカデが牙を剥いて襲い掛かってきた瞬間、真弓の体が『鬼丸』にまるで引っ張られるように素早く動いた!
(闇鬼は毎月1日、4日、8日、12日、16日、20日、24日、28日に更新予定です)
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