第46話 「覚悟」②

「どうだい?私って優しいだろう…」

『ダーク・レディ』の言葉が終わらないうちに、長い黒髪が四方八方から一斉に、真弓に向かって襲い掛かってきた。

 しかし、真弓は身動き一つしない。『鬼丸』を上段に構え「キッ」と『ダーク・レディ』を睨み据えた。




 真弓の体をグルグル巻きに締め上げようというのか?

 何千本もの黒髪が右から左から絡まるように物凄い勢いで迫ってくる。


 真弓は黒髪を自分の体ギリギリまで近づけて、上段の構えから左右に手首を返しつつ『鬼丸』で薙ぎ払った。


 「カキーン!カキーン!」


 火花が散った! 黒髪はまるで鋼鉄のように堅い。『鬼丸』を握るつかがジンジンと痺れる。

 しかし、真弓は怯まなかった。刃先を右に左に弧を描くように黒髪を振り払っていく。


 するとどうだろう。鋼鉄のように堅いと思われた黒髪が「スパッ!スパッ!」と見事に切断されていくではないか。


 真剣を握るのが初めてとは思えない真弓の動きに『ダーク・レディ』の目の色が変わった。


 (こいつ…! 竹刀しか振り回したことがない筈だろ…)


 真弓は右へ左へと攻撃をかわしながら『鬼丸』を自在に操った。鋼鉄のように硬い黒髪と『鬼丸』の刃が空中で火花を散らしながら、黒髪を瞬時に切り刻んでいく。


 こんなに凄まじい攻撃を物ともしない今の自分を真弓は信じられなかっただろう。

 なぜなら、目の前のすべての動きが不思議なくらい見えているのだ。


『ダーク・レディ』との間合いを徐々に詰めていく真弓。

 しかし『ダーク・レディ』に一太刀浴びせるということは、自分の母親を斬ってしまうということなのだ。

 

 どうする? 真弓…!


 まさか母親を斬ることはないだろう…と一番ズル賢く考えているのは『ダーク・レディ』である『闇鬼』だ。


 とにかく、真弓を殺すことに集中すれば良いとばかりに、真弓を襲っていた黒髪を一旦引き上げて、すべての黒髪を空中でクルクルと束ね始めた。


 するとどうだろう。長さ4㍍はあろうかという、どこまでも太い固まり…それは例えていうなら、神社の巨大なしめ縄だ。


「どうだい?これを斬ってご覧よ!」と言うが早いか『ダーク・レディ』はこのしめ縄のように太く束ねた黒髪をグルグルと真弓に向かって回し始めたではないか。


 それはまるで歌舞伎で見る連獅子のような素早い動きだ。

 黒髪の塊が真弓の頭上から振り降ろされてきた。

 真弓は『鬼丸』で「カキーン」と薙ぎ払って床を転がって間一髪で避けた。


 『鬼丸』でもこれだけ太い黒髪の束は斬れない。

 逆に刃こぼれしなかったのが嘘のようだ。


 今度は真弓の左横腹を狙ってしめ縄黒髪が振り回されてきた。

 真弓は早技の如く中段の構えでしめ縄黒髪を押し止めようとしたが「ガキーン!」と物凄い火花が散ってそのまま道場の床に叩きつけられた。




(闇鬼は毎月1日、4日、8日、12日、16日、20日、24日、28日に更新予定です)

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