第45話 「覚悟」①
ジリッジリッと、真弓は得意の摺り足で『ダーク・レディ』に近づいていく。
この間、どういうわけか『ダーク・レディ』は、布団の上で身動き一つせずにジッと真弓を凝視していた。
沢村は、ほとんど気絶に等しい状態だ。
『ダーク・レディ』との間合いを狭めつつ『鬼丸』を振り上げた真弓は「火の位」と呼ばれる「上段の構え」で『ダーク・レディ』に相対した。
襖の後ろでは、ラウラと宮脇が二人を見つめている。といっても、宮脇はいつでも逃げられるようにへっぴり腰だった。
真弓と『ダーク・レディ』は暫く睨み合ったまま、どちらも動こうとはしない。
サッシの窓からは、渦を捲いている真っ黒な雲が見える。もう昼近くになっているというのに、外はまるで夜のように暗かった。
静寂が過ぎる中「おまえ!私に勝てると思っているの?」最初に口を開いたのは、『ダーク・レディ』だった。
「私の恐ろしさがまだわからないようだね」そう呟くなり、両手を高く広げた。
その途端『ダーク・レディ』の髪の毛がフワッと逆立ち、あっという間に伸びていく。髪の毛は、まるで生き物のように天井から壁から、ありとあらゆる場所に這い回り、部屋中を覆っていった。
天井を這っていった髪の毛は、リビングと寝室の境にまで降りてゆき、まるで鉄格子のようにラウラと真弓を隔ててしまった。
「真弓ッ!」
「ほ~ら、頼みの綱のおまえの兄さんは、わたしの髪の毛の前では手も足も出ないよ」
ニヤリと笑った『ダーク・レディ』は、眉がキリッと上がり、吊り目がちだが鼻筋の通った美しい顔立ちだけに冷酷さが一段と増している。
「そうだねぇ…。『鬼丸』を持っているおまえをいたぶるにはこの部屋は狭すぎるねぇ。もっと広くしようか!」
『ダーク・レディ』がそう呟きながら、「パチンッ!」と指を鳴らした途端、8畳ほどの寝室が、あっという間に縦20㍍横10㍍の200平米はあろうかという巨大な剣道場に早変わりしてしまった。
四方は板壁で仕切られ、ラウラや宮脇の姿も見えなくなってしまった。
そして真弓が一番驚いたのは、この剣道場が自分が通っている黒辺高校の剣道場だということだ。
神棚の下に「剣禅一如」の額が掛かっているから間違いない。
「どうだい? おまえの愛する剣道場で死ねるなんて本望だろ? どうせ死ぬんだったら剣道の上衣と袴でも着せてやろう!」
『ダーク・レディ』はそう言って、真弓に向かって右手を上から下に下ろした。
すると、真弓はいつの間にか、いつも着ている白の上衣と藍色の袴に変身していた。
「どうだい?私って優しいだろう…」
『ダーク・レディ』の言葉が終わらないうちに、長い黒髪が四方八方から一斉に、真弓に向かって襲い掛かってきた。
しかし、真弓は身動き一つしない。『鬼丸』を上段に構え「キッ」と『ダーク・レディ』を睨み据えた。
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