第3話 異世界での住民手続き



《前回のあらすじ》

平原から歩いたり自転車に乗ったりしながら、たまたま遠くに見えたお城に向かっていた。

城下町には幸い門番もおらず、たまたま日本語をしゃべる部族だったようで、近くの店員に話しかけると役所に向かうよう教えられた。



自転車を押していると悪目立ちしていた。

しかし、止めておくわけにもいかず、乗ればさらに目立ちそうなので押して歩いていた。

お城はさっき見たときよりも近づいたことで存在感が増していた。


役所に近づくと、この町の中心部なのか、先ほどより活気があり、人も多かった。

中央には噴水があり、そこに腰を掛けアコーディオンを弾いている人もいた。

まるでゲームの世界だった。

役所を見つけ、自転車を止め、小さなドアノブを回す。

外開きのドアを開き、少しかがんで役所に入る。この世界の住人は自分たちよりも背が低いようだった。


受付に人が立っており、番号札を渡された。

周りを見回しながら椅子に座る。

「53番の方―?53番の方―?」

窓口では口頭で番号が呼ばれていく。

渉の番号は58番なのであと5人といったところだ。

待っている人は置いてある新聞や雑誌を見るともなく見ているようだった。


周りを観察しているとあっという間に順番が回ってきた。

「58番の方―?58番の方―?」

番号札を握りしめ、立ち上がり、窓口に向かう。

「あ、番号札もらいますね。」

少し手汗に歪んだ札を渡すことに恥ずかしさを覚えつつ札を渡す。


「今日はどのようなご用件で?」

「あの、さっき町の外の平原に出てきてしまって、それでここのお城が見えたので歩いてきて、町の人に聞いたらここにって言われて…」

話しているのは自分なのに、内容は自分でも言っていてよく分からなかった。

「あ、お疲れ様でございました。」

しかし窓口のスタッフは冷静だった。

「それではこの町での住民手続きをさせて頂きますね。あ、この町の住民になるということでよろしいですか?」

他の町がどこにあってどういう風か何もわからないし、この町の人はみんな優しそうだったので、この質問はもちろん「はい」だ。

「それでは、名前をこちらに記入してください。一応年齢も分かれば書いておいてください。」

渡された紙にペンで『瀬戸渉 19歳』と記載した。

「瀬戸渉様ですね。お待ちしておりました。そうしましたら、住民手続きをさせて頂きますので、しばらくおかけになってお待ちください。再度この58番の番号でお呼びしますね。」


一度窓口から席に戻された。

紙に名前を書いたときに言われた『お待ちしておりました』の言葉が引っかかった。

なぜ自分はこの地を知らないのに待たれているのだろうか。

それとも、他の地域から来た人に対してはそういう風に対応する決まりでもあるのだろうか。


一人でぐるぐる考えていると再び同じ窓口で呼ばれた。

「それでは手続きが完了致しましたので、この住民カードをお持ちの上、お城の地下にあります住宅相談窓口に向かってください。お城は面倒ですが、一度噴水の前の階段を上って頂きまして、まっすぐ進むと入口がありますので、そちら入って頂いてすぐの階段を再度降りて頂きますと住宅相談窓口になります。」

丁寧に説明を受け、役所を後にする。

自転車を持って階段は上がれないので役所に止めさせておいてもらうことにした。


言われた通りに進むと住宅相談窓口の文字が見えた。

ここにはドアがなく、人も役所に比べるとかなり少ない。

受付もなく、窓口に直接向かうと先ほど手に入れたばかりの住民カードの呈示を求められた。

言われた通りカードを見せると、そこに書かれた数字を打ち込んでいるようだった。

「お待たせいたしました。瀬戸渉様ですね。お待ちしておりました。それでは瀬戸様の住宅をご案内いたします。」

「ちょ、ちょっと待ってください。家って元々決まってるんですか?俺、ここ初めて来たはずなんですけど。」

「あ、役所でお聞きになっていませんでしたか。これはこれは失礼致しました。それではわたくしが簡単にご説明させていただきますね。ここでは住民の自宅は住民カードを作成した時点で割り振られています。ただ、子供やお年寄りの方で一部屋いらないよという方は猶予手続きや返却手続きが可能です。まあ、そんなことは瀬戸様にはあまり関係ないので割愛させていただきます。で、この町では選択できる職業がある程度住民カードによって振り分けられています。一応相性があるので、変更も可能ですが、例えばランク1の方は勇者や魔法使いとして戦闘に行くことが出来ますし、ランク5の方は農作物を作ったり工場での製造業が出来ます。ただ、このランクの壁は基本的には越えられないので、ランク1の方は工場での勤務は出来ません。様々な手続きを踏んでいただき、ランク5になることでランク5で修業可能な職業を選択することが出来るようになるわけですね。そして、瀬戸様は現在ランク1ですので、戦闘や救命などの職業選択が可能となっています。ご自身の命の危険が伴うので、自宅のランクも高く、お城の高層階ワンフロア貸し切りとなっています。以上簡単にですが説明させていただきました。分からない点はございましたか?」

「あ、いや、その、何でランク1になっているのかとかはわかるんですか?」

「いえ、それはこのお城の王様の割り振りですので私たちも分かりかねます。ただ、ランク変更を行う住民はほとんどおりません。」

「はあ、なるほど。」

なぜ自分がそんなランクについているのかさっぱり分からないが、それを部屋まで案内してくれた住宅相談窓口の人に問い詰めてもしょうがないので一旦考えないようにした。

「なにかありましたら備え付けの電話で001を押してください。基本的には役所に繋がります。それでは失礼いたします。」


ドアが閉められ一人になる。

家具家電付きの家なので、すぐにでも生活は可能だ。

窓からはこの町が一望できる。

職業はどこで決定するのか聞かなかったなと気づいたが、今は身体も心も疲れていたのか、ふかふかのベッドに寝そべるといつの間にか眠っていた。



《次回 職業選択に向かう》

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