2話

その頃、ノインは地獄に向かっていた。

「あれ、俺どうなっちまったんだ……?」

 確か、バイト先で変な女の子に声をかけられたところまでは覚えている。

「ていうか、ここ何処だよ」

 ノインの目の前には険しい険しい山がそびえ立っている。

死出の山というが、ノインは、それを知らない。

「過労で倒れたのかなあ……。それで夢でも見ているんだろ」

 ノインはとりあえず山を登ることにした。


 どれ程の時間が経ったか分からないが、とにかく山を登り切ったノイン。

 その先には川が流れていた。

「一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため……」

 川原では石を積んでいる子どもと、それを監督する鬼がいた。

「お、鬼⁉ 何かやばいな、この夢」

 ここは三途の川の手前、賽の河原だが、ノインは気付かない。

「おい、そこのお前!」

「お、俺っすか?」

「そうだ、お前だ! ぼーっとしてないで。さっさと川を渡れ」

 確かに、周りの奴らも川を渡っている。

「仕様がないな、渡るか」

 ノインは三途の川を泳ぎ始めた。流れが急だが、何とか踏ん張っている。

「あれ? 船?」

六文銭を鬼に渡した者は船に乗せてもらえるのだ。

「え、何それ賄賂⁉」

 ノインはポケットの中を見たが、一銭も金は持ってきていなかった。

「ちぇ、何だよ。ケチな夢だなあ」


 ノインは川を何とか渡り終えた。

「ふー、疲れたぜ」

「貴様、服を脱げ!」

「え、え、え、いや~ん」

ノインの服を剥ぎ取ったのは奪衣婆(だつえば)という老婆である。

剥ぎ取られたノインの衣服は、隣にいる懸衣翁(けんえおう)に渡され、生前の罪の重さを量られる。

「特に犯罪歴はなし!」

 そう言って服を返され、それをまた着る。白装束だ。

 

 次は宮殿のような場所に連れていかれ、鬼の親玉のような赤ら顔の大男の前に突き出される。

彼は閻魔大王であるが、ノインはそんなことは知らない。のん気に「何だ、このデカいおっさん」とか思っている。

大きな鏡の前に立たされる。鏡には現世での行いが映されている。

『あ~、素晴らしい領主様、どうかどうかお恵みを』

 金が底を尽きた時に、通りががった領主に金をもらおうとすり寄った時の映像だ。

「大叫喚地獄行きとする!」

「え、じ、地獄だって!」

 ここで、やっと事態の深刻さに気付いたノインは、何とか逃げ出そうとするも、獄卒に連れて行かれてしまった。


「ここは受苦無有数量処(じゅくむうすうりょうしょ)だ。えらい人にゴマをすると落ちる」

「あれだけで地獄行きかよ! あんまりだ! ていうか、俺は死んじまったのか⁉」

「当たり前だ。死んでなけりゃ、ここには来ないさ」

 ノインは絶望した。

「さあ、始めるぞ!」

 獄卒はノインを寝かせ、腹の辺りを棍棒で打った。

「痛ってえ!」

 打たれた傷に草を植えられて、それを抜かれる。

 声にならない痛みが走る。

(た、助けてくれ!)

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