2話

「はい、到着したわ」

「へえ、ここが……」

 見た目は普通の学校だった。

 モモちゃんはスタスタと中に入っていく。

「すみません、こちらの子を入学させたいのですが」

 入り口の事務員らしい妖怪に話かける。彼女は狐の耳と尻尾が生えていた。

「はい。願書はお持ちですか」

「は、はいっ、どうぞ」

 口裂け女は丁寧な字で書かれた願書を提出する。

「はい、お預かり致します」

 事務員はざっと書類に目を通すと「担当の者に確認します」と言って、その場を離れた。


 しばらくすると、事務員の方が担当の先生を連れて戻ってきた。

「あ~、あの時の先生だ!」

「はい、どうも。私は歴史担当の錦といいます」

「よろしくお願いします。錦先生」

「ああ、妖怪を連れてきてくれたんですね」

「ええ。入学希望者よ」

「えっと、口裂け女の鈴木です」

(そんな普通の名前だったんだ……)

「はい、鈴木さんね。じゃあ、今日は一日見学ってことで好きな風に回ってくれればいいから」

「は、はいっ」

「よろしければ、あなた方もどうぞ」

「わ~、妖怪学校の授業なんて気になるなあ」


 一時間目 数学

「今日は因数分解をやります」

「まだ習ってないやつ!」

「いんすうぶんかい?」

「俺はまだギリ覚えてるぜ」

「じゃあ、あれ解いてみなさいよ」

「いいぜ」

 ノインは生徒が黒板に答えを書く前に計算をしてみせた。

「ふ、普通の数学で良いのでしたら、得意です! 人間時代は理系でしたから」

「そうなんだ! 理系って何かカッコいいよね」


二時間目 歴史

 錦先生が教壇に立って、普通に日本史を教えている。

「1582年 明智光秀が織田信長を討った出来事は?」

「はいは~い!」

「はい、葉月さん」

「本能寺の変です!」

「はい、正解です」

「わ~い」


三時間目 体育

「妖怪大運動会の練習をします」

「墓場でやるのかな」

「いえ、このグラウンドでやります」

「な~んだ」

 葉月達は妖怪達に混じって、玉入れや綱引きをやった。

 

四時間目 国語

「今日は夏目漱石の『こころ』をやります」

「普通に近代日本文学をやるのね」

「Kが死んでしまった……」


給食は食堂で取る者と弁当を持参する者、購買で何か買ってくる者に分かれた。

 葉月達は食堂で取ることにした。メニューは案外普通で人間が食べることが出来るものだ。

「鈴木さん、何食べる?」

「私はカレーライスにします」

「俺も」

「私はオムライス」

「うどん」

「ラーメン!」

 それぞれが好きなものを食べながら談笑する。

「学校生活はどうかしら? やっていけそう?」

「は、はい。先生方も皆さん良い方ばかりで……。後はお友達が出来るかですが……」

「だったら話しかけてみようよ!」

「えっ、私なんかが話しかけて大丈夫でしょうか?」

「私なんかとか、あまり言うなよ。自信持てって」

「何て話しかけたらいいんでしょう?」

「これからよろしくとかで、いいんじゃねえか?」

「が、頑張ります」

 教室に戻り、葉月達は口裂け女が、別の妖怪に話しかけることが出来るか見守っていた。

「ほら、あの子なんか話しかけやすいんじゃないか?」

 ノインは、席に座ってぼーっと外の景色を見ている猫耳の子を見て言う。

「い、行ってきます」

「頑張れ~」


「あ、あのっ」

「何? 転校生?」

「は、はい。私は口裂け女の鈴木です」

「私は猫又の山田」

「あの、よ、よろしければ、お友達になってくれませんか?」

「友達? ……いいよ」

「いいんですか⁉」

「いいよ」

「あ、ありがとうっ、ございます!」


「友達も出来たみたいで、良かった」

「はい!」

「じゃあ私達は、これで」

「本当にお世話になりました!」

「うん。バイバーイ」


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