2話

 りんねには葉月にも黙っている秘密がある。

 それは幽霊、妖の類が見えること。

 母も同じ眼を持っていた。


「決して誰にも言ってはダメよ」

 幼い頃から、そう言い聞かせられていた。



 陸上部の練習が終わり、帰り支度をしている時だった。

「何、これ……?」

 黒く、見ていると不快な気分になる何か。

 この世のものじゃない何か。

 黒いもやが人の形を取り、漆黒の翼を持つ化け物に変わっていく。

(早く逃げなきゃ……)

 幽霊や妖とは確実に違う。嫌な予感がする。

 化け物、悪魔は、りんねに、また一歩近づく。

 りんねは悲鳴を上げて逃げ出したかったが、声が出ず、身体も動かなかった。

 ただ震えながら、悪魔が近付いて来るのを待つしかなかった。

(このままじゃ、死ぬ……?)

 悪魔との距離が10センチ程になった刹那、目の前が白くなった。

 いつの間にか、身体が動くようになっていた。

 りんねと悪魔の間に少年が立っていた。

 綺麗な白い羽を持った少年。

「魔法陣」

 少年がそう言うと、地面に星のような模様が現れ、悪魔は光に包まれる。

「聖水」

 少年が瓶に入った液体をかける。

 すると、悪魔が悶え、溶けていった。

「大丈夫か?」

 少年が振り返る。同じ年くらいの綺麗な顔をしている少年だ。

「あ、ありがとう」

「さっきの化け物は悪魔だ。俺達の敵」

「悪魔?」

「まあ、すぐに信じろってのも無理だろうが」

「で、突然で悪いけど、君も今日から天使だから」

(この町は天使になる奴が多いな。天間葉月といい、こいつも……)

「……は? 天使?」

(訳分かんない、どうなってんの? こんな葉月の空想物語みたいなことが……)

「とにかく天界に行く」

「天界?」

「飛ぶから捕まって」

 りんねが少年の手を取る。


 これが黒崎りんねと如月快斗の出会いだった。


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