1話

葉月は久しぶりに現代日本に帰って来た。

 中学校の入学式。

「これくらいは出て来なさい」とモモちゃんに言われたからだ。

 突然、視力が上がっていると怪しまれるから、伊達眼鏡をかけて登校する。


「ねえ、りんね、部活どうする? やっぱり陸上?」

 りんねは小学校では陸上部に所属し、大会で優勝する程だった。

「うん、そうね。葉月は?」

「う~ん、悩み中」

 葉月は部活動のチラシが貼ってある掲示板と、にらめっこしている。

「あっ、これ!」

「どれ」

 葉月が指差したのは「漫画アニメ同好会」のチラシだった。「オタクよ、集え」という文字と可愛いアニメ風イラストが描かれている。

「葉月に合ってるんじゃない?」


 部活動加入は入学式の三日後、本格的に授業が始まってからだった。

 放課後、葉月はチラシに書いてある部活棟の部屋に向かった。

 

「ようこそ、漫画アニメ同好会へ!」

 扉を開けると、男子生徒と女子生徒が迎えてくれた。

「は、はい、よろしくお願いします」

 部屋には、同じく新入生と思われる男女がパイプ椅子に座って待っていた。

「じゃあ、早速、自己紹介しようかな。俺は部長の霜月 正宗。ガ⚫︎ダムオタクだ」

 部室には恐らく彼が作ったであろうプラモデルが飾られてあった。

「福岡 渚。コスプレイヤーよ」

 その通り、この学校の制服ではない制服を着ている。何かのアニメのキャラなのだろう。

「はい、次は新入生」


「水無月 唯です。漫画は色々読んでます。よろしくお願いします」


「島田 流です。鉄道が好きです。よろしくお願いします」


「天間葉月です。アニメ見るのが好きです。これからよろしくお願いします」


「今年は、この5人でやってくぞ!」

「活動内容はアニメや漫画、その他オタク的趣味について語るだけよ」

「今日は歓迎会だな!」

「私達の溜まり場カフェがあるのよ」

 そう言って、彼らが連れてこられた先は……「喫茶エンジェルどりーむ」という喫茶店であった。


「正宗君に渚ちゃん、こんにちは」

「「こんにちは」」

「おや、新しい子達もいるね」

「うちの新入部員です」

 葉月達は、それぞれ自己紹介をした。

「よろしくね。それじゃあ、ご注文は?」

「ウィンナーコーヒーで」

「ココアで。今日は部長のおごりよ!」

「え、ちょ、せめてお前と俺で割り勘」

「部長のおごり!」

「はいはい、もういいよ」

「僕もコーヒーで」

「クリームソーダで」

「あ、私もクリームソーダ」

 クリームソーダは割高だった。

「はい、承りました」


 十分ほどで注文した飲み物が運ばれてきて、皆はオタクトークに花を咲かせる。どんな作品を見てきたか、推しはどのキャラか、好きな機体、鉄道などなど。

 葉月は、小学生時代はオタクであることを隠していたので、同じオタク仲間と会話できることが純粋に嬉しかった。




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