4話
魔法の書は巨人が守っていた後ろの通路にあるようだった。
「やった! ついに手に入れたぞ!」
葉月達が戦っている間にウィリアムが先に取っていた。
「あっ、ずるいぞ!」
「漁夫の利」
「私には病気の娘がいるんです! その病気は、もう魔法でしか治せないんです!」
ウィリアムが涙ながらに訴える。
「私は、その娘さんのために、魔法の書を使ってもいいと思うよ」
「それはダメよ」
「何で?」
「人の運命を変えてはならない。これは天使の原則」
「私達が来なかったら、あの人が、普通に魔法の書をゲットしてたかもじゃん」
「巨人を倒せていないのに?」
「それは何とかして……」
「申し訳ありません。天使と聞こえたのですが……」
モモちゃんは「しまった」という顔をした。
「うん。私は天使だよ」
モモちゃんは頭を抱えた。本来、天使であることは簡単にバラしてはいけないのだ。
「天使様から、お慈悲を! 私の娘の病気を治して下さい!」
「いいよ」
「ちょ、馬鹿、葉月」
「ありがとうございます!」
葉月達はウィリアムのヘリに乗せてもらい、娘のいる病院に向かった。
モモちゃんは文句を言いたそうにしていたが、渋々と葉月に付いていく。
病室に着いた。
ベッドには薄幸そうな娘が座っていた。
「ライラ、帰ってきたよ」
「お父さん! 無事だったのね」
「この方々が魔法の書を手に入れるのを手伝ってくれたんだ」
事実とは若干違うが、葉月達は黙っておいた。
「魔法の書、手に入れたの?」
「ああ」
ウィリアムは早速、魔法の書を取り出し、使用しようとした。
「使ってもよろしいですね」
「うん」
モモちゃんはぶすーっとしていたが、葉月の選択に従った。
ウィリアムは葉月の許しを得ると、魔法の書のページを捲った。
「魔法の書よ、娘の病気を治したまえ!」
そう唱えると、魔法の書が光り、その光がライラの中に入っていった。すると、顔色の悪かったライラの血色が良くなったのが目に見えて分かった。
一応、主治医に検査をしてもらうと、病気は綺麗に消えていた。
「ありがとうございます!」
ライラの病気が治った後、二人は葉月達にお礼を言った。
役目を終えた魔法の書は回収した。
病院を出た後、モモちゃんは葉月に詰め寄った。
「何で勝手に、あんなことをしたの⁉」
「だって病気を治してあげたかったし」
「だから運命を変えてはいけないって!」
「だったら、私達と出会ったのも、あの人達の運命だよ」
「屁理屈言って!」
「おいおい、ケンカは止めろって。……葉月は良いことをしたんだろ」
「良いことって……」
「そうだよ。葉月は良いことをしたんだ」
「うん」
ロッソとシアンも葉月の味方だった。
「あんた達まで……」
「あのさ、魔法の書って、使えるの一回きりなの?」
「形を保ってるから、まだ使えるとは思うけれど」
「じゃあ、それを届ければいいじゃん」
「うんうん」
「コノハさんに怒られるかもしれないけどさ。ちょっと怒られるくらいで、あの人の病気が治るんなら、全然いいよ」
「じゃあ、早速、天界に行くわよ」
天界、コノハの部屋。
「で、一回、その辺の人間に使っちまった訳ね」
「はい、ごめんなさい」
「葉月は、それが正しいって思った訳だ」
「はい」
「運命論とか、俺個人はどうでもいいけど」
「ちょっと」
「今回の件は、反省文10枚で不問にする」
「許してくれるの?」
「ああ」
「良かった~」
「あんまり甘やかし過ぎないで」
「分かってるって。じゃあ、手に入れた魔法の書はお前らが好きに使っていいよ。冒険に役立ててくれ」
「え、回収は?」
「回収したら、どうせ天界の倉庫の中で腐らすだけだし、だったら、お前らに使ってもらえる方がいい」
「やった~! これで無双できるんじゃない?」
「まあ、全てのことには対応し切れないがな。これからも頑張れよ」
「うん!」
そうして、葉月達は旅に戻っていったのだった。
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