旅の始まり
1話
街角で一人の青年がため息を吐いていた。
「はあ、これでバイトもクビかあ。まあ一週間は食っていけるとして……」
青年は和風な旅装束、腰には打刀を差している。髪はボサッとしており、肌艶はあまり良くない。
葉月とモモちゃんがトンネルを抜けた先は異世界の空の上だった。
「わ~~~~、落ちてる~~~~」
背中に付いている羽は飾りか何かであった。飛べない天使だ。
「ふぎゃっ」
突如、頭上に降ってきたものに青年は潰される。
「ここが、異世界だね! すごい! ついに来ちゃったんだ~」
「葉月、踏んでる踏んでる」
そういえば、やけに柔らかい地面だなと思って足元を見る。人間だった。
「ひゃっ、ご、ごめんなさい、降ります!」
青年は腰をさすりながら立ち上がる。
「……何だ、女の子か。まさか空から女の子が降って来るなんて、ハハ……」
青年は乾いた笑いを浮かべつつ、空を見上げる。雲一つない青空が広がっていた。
「……超高速で飛んでる飛行機から飛び降りた?」
「えっと、何て説明すればいいんだろ」
葉月は後方を飛んでいたモモちゃんに声をかける。青年はそこで初めて見る生物の存在に気付く。昔、生物図鑑で見たような覚えがあった。
「まあ軽く自己紹介すればいいんじゃない?」
「え、そいつ喋るの⁉ あっ、もしかして君、魔法使いか何か⁉」
「う~ん、当たらずも遠からずね」
「魔法⁉ やっぱり魔法があるんだね! すごい、さすが異世界!」
「え、異世界……?」
「あ~、もう、順を追って説明するから、とりあえず自己紹介しなさい!」
「えっと、天間葉月です。よろしくお願いします」
「俺はノイン、旅人だ。こちらこそよろしく。……テンマハヅキ、この辺では聞かない、変わった名前だな。葉月って呼べばいいか?」
「はい、それで大丈夫です」
先ほどまでは異世界に来てテンションが上がっていた葉月だが、元来の人見知りが顔をのぞかせてきたのだった。
「私は葉月のパートナー、モモンガだからモモ。モモちゃんとか、まあ好きに呼んで」
「あー、そうだ、モモンガだよ。思い出した。北の方の森とかに住んでるやつ」
「ここの世界と葉月の世界の生物とかは大体同じよ。説明が簡単な方で助かったわ」
「この世界にしかいない生物とかもいるの? ユニコーンとかドラゴンとか」
「ええ、いたはずよ」
「わー、すごい! 見てみたい!」
「そうね。いつか会えたらいいわね。……じゃあ、とりあえず立ち話も何だから、どこか落ち着いて話せる場所に移動しましょうか」
「そうだな。案内するよ」
ノインはまだ聞きたいことが色々とあったが、とりあえず「異世界人」達を近場の安いカフェに案内する。
(こいつら、金とか持ってるのか……?)
地面にはタイルが敷かれ、洋館が立ち並んだ異国情緒溢れる街を葉月は目を輝かせながら歩いている。
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