第15話 生命


 暖かい風に微笑む。

 春の匂いだ。

 外に目をやると、優しい光が差し込んでいた。





 メグリを食べた私は、そのまま深い眠りについた。

 今、自分が成すべきことは全てやった。そんな達成感があった。

 後は我が子が目覚めるまで、この命を繋ぐ。

 その為の眠りだった。





 私の目覚め。

 それは愛しい我が子の、目覚めの時でもあった。


 尻尾を見ると、自分の体ほどにまで成長していた。

 その中で一人、また一人と、孵化ふかした子供たちがうごめいていた。


 私は力を振り絞り、これまで守ってきた尻尾を根元から切った。

 激痛が走る。

 でもそれは、心地よい痛みだった。


 切り離された尻尾が弾け、子供たちが姿を現す。

 私は笑みを浮かべ、次々と生まれて来る我が子を見つめた。


 ああ、そうだったな。

 私も生まれた時、こんな感じだった。

 ほんと、芋虫だ。

 でも、どうしようもなく愛おしいと思った。


 あなたたちにはこれから、たくさんの苦難が待っている。

 でも、負けないでね。

 諦めないでね。

 まあでも、心配ないか。

 だってあなたたちは、私とメグリの子供なんだから。

 きっとこの世界で、自分の生きた証を残してくれる。

 信じてるよ。





 子供たちが泣いている。

 そうだよね。

 お腹、空いたよね。

 お母さんが今から、最高のご馳走を作ってあげるから。

 ちょっと待っててね。

 私は手を鎌化させ、自分の胸に突き刺した。


 噴き出す血しぶきが、子供たちを真っ赤に染める。

 血の匂いに誘われ、私の下へと集まって来る。


 さあ、早い者勝ちだよ。

 生まれたばっかで悪いけど、早速競争だよ。


 頑張れ、頑張れ。


 意識が遠のいてゆく。

 それは私の人生の終わり。

 でも不思議と、怖くなかった。

 今、私は充足感に満たされていた。

 私は私の人生を、全てやり遂げた。

 後は子供たちに託そう。

 私はその為に、私の全てを与えよう。





 子供たちが集ってくる。

 私は一人一人に目を向けながら、最後にこうささやいた。




 ーー愛してるわーー




 ああ、そうだったんだ。

 私がこの世界で、初めて触れた声。

 あれは前世のお母さんじゃなく、この世界のお母さんだったんだ。


 何か嬉しいな。ふふっ。


 私は二人のお母さんから、最高の言葉をもらえたんだ。


 そして今、愛する我が子に、同じ言葉を送ってるんだ。






 罰ゲームだと思っていた転生。

 でも、今なら言える。

 幸せだった。

 短い人生だったかも知れない。

 でも、私はやり遂げた。

 人生を全うしたんだ。


 幸せだった二度目の人生。

 愛するメグリ。

 愛する子供たち。

 愛する世界。




 ありがとう。



*********************

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

作品に対する感想・ご意見等いただければ嬉しいです。

今後とも、よろしくお願い致します。


栗須帳拝

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少女ミサキの冒険譚 〜今日も明日も生きてやる~ 栗須帳(くりす・とばり) @kurisutobari

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