戦士、輝く。

 開演時刻。本ベルが鳴った。暗転の中をほたる、空野、明子の3人が登壇する。音楽に合わせ、ナレーション役の影山が話し始めた。


『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがおりました』


 影山は相変わらずの優しい低音で、場を包み込むように読み上げる。彼を目当てに来た客も少なくない。まだ始まってもいないのに既に何人かは「今日は来てよかった」と感じている。


『おじいさんは光る竹を見つけると、あまりに珍しいので持って帰ってきました』


 幕が上がり、照明が点く。おばあさん役の明子にスポットライトが当たった。


「おおおおおお、おじいさんや」


 迫真の演技に、皆、目が点になる。続けておじいさん役の空野にもスポットが当たる。


「……は?」

「おじいさんや!」

「……誰じゃ」

「私ですよ! おばあさんですよ」

「……知らん」


 絶対に要らないリアルなやり取りに会場は一瞬ざわつく。余計なアドリブの押し問答を見せられ、物語はやっと前に進んだ。


「じゃあ、おばあさん。竹を切ってみよう」

『おじいさんが竹を切ると、中から大きな光が』

「「うわあっ!」」

『そして、気が付くと女の子が立っていました』


 いよいよ主役・ほたるの登場である。


「わたしは光の戦士・ほたる! おじいさん、おばあさん、私を出してくれてありがとう!」


 スポットが照らされると、大きな拍手と黄色い声援が彼女に贈られた。

 その様子をつまらなそうに袖から見ているのは、他ならぬひなたである。


「ふーん……」

「ふふっ」


 不意に影山の笑い声が聞こえてきた。


「な、何ですか影山さん? いやまあ確かに可笑しいですけどあの衣装は」

「まあそれもだけど……」

「はい?」

「前よりも随分感情を見せてくれるようになったなって」

「え……?」


 全身から血の気が引いていく感覚を覚える。


「もしかして今……出ちゃってました?」

「『ふーん……』」


 今度は顔が熱くなってくる。両手で覆い隠すも逆効果だ。


「溜め込まないのは良いことです。押し殺せば、それだけ爆発も大きい」


 指の隙間から影山の顔を見つめる。


「今日は、良い演技が出来そうですね」


 物語は中盤に差し掛かる。鬼退治に出るため、ほたるは大きくさせたお椀に乗り込み、家を出る。


「それではおじいさん、おばあさん、行ってまいります!」


 ほたるは緊張こそしていたが、自らの役になりきり堅実な演技を見せている。


「ほほほほほたる、きききをつけてい、い、いくんですよ。ねえ、おじいさん?」

「……何や、よう聞こえん」


 それだけに空野と明子による癖の強すぎる演技が大変余計である。


『ほたるは鬼のいる島に着きました。辺りは薄暗く、冷たい風が吹いています』

「出てこい! 鬼よ、出てこい!」


 ほたるが大きく鬼を呼ぶ。それが、彼女の出番を告げる合図だった。

 マイクの前に座り、一つ大きく息を吸う。

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