回想ー別れ

「ねえ~誰と喋ってるの?」

 先程からスマホを見てばかりいる奏斗に、後ろからきゅっと抱きつく。何回目か分からないぐらいのおうちデート。高校生になってからはお互いずっと忙しくなって、久しぶりだった。それなのに今日の奏斗の様子は少しおかしい。寂しくなって魔が差して、抱きついたまま膝立ちに立って奏斗の手元を覗き込んだ。

『奏斗の好きなタイプってどんな人~?』

 画面に映っていたのは、絵文字がもりもりの女の子とのトークだった。目に入ってきた、女の子側の文がかなり衝撃的で、私は思わず奏斗を抱きしめていたのを離してしまう。

「今の人、誰?」

「高校のクラスメイト」

 感情がこもってない声で、私に背を向けたまま奏斗は続ける。

「何て返したの?」

「え、まだ返してない。何を返すか考え中」

「ふざけないでよ!彼女いるからって返せば済む話じゃん!だいたい、デート中にどうしてほかの女子とメッセージするの?中学卒業してから、私たちそもそもあんまり会えてないのに、どうして……」

 奏斗は何も言わない。涙がこぼれてきて、ぐじゃぐじゃになった視界で、よろよろと奏斗のもとに再び寄り、またきゅっと抱きしめた。さっきよりずっと強く、もう奏斗が離れていかないように、抱きしめ続けた。でもその体は氷のように冷たく、硬かった。もうすべてが嫌になって、言いかけた「好きだよ」という言葉を涙や鼻水とともに飲み込むと、激しくむせてしまった。気が済むまで、溢れてくる涙を奏斗の背中に擦りつけたあと、私は黙って部屋を出ていった。

 帰ってから私は奏斗にメッセージを淡々と送った。

「さっきは言い過ぎたかも、ごめん」

「私が奏斗を好きな気持ちは変わらないから、これからも奏斗と一緒にいたい」

 すぐ既読が付き、奏斗から「ごめん」とメッセージが送られてきた。

 胸にざわざわとしたすきま風が吹き荒れる。「ごめん」の後に待ち受けている言葉は何なのだろう。それが知りたいし、知らなきゃいけないのは分かっている。でも、次のメッセージが送られてきたら、私たちの関係に終止符が打たれてしまうような気がした。そしてそれは秒読みだったのは明白だった。漠然とした不安に強く揺さぶられていると、メッセージが届いた。

「俺と別れてほしい」

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