第3話

 1度部屋に戻り、出かける準備……今日は買い物の前にまず冒険者ギルドへ行くらしい。


 なんで、冒険者ギルドへ行くかといえば両親が辺境に拠点を移すことの報告と、私の冒険者登録のためである。

 どうして私の冒険者登録をするのかっていうと……街にはいるのに身分証が必要な場合が多いからなんだけど、いま私が持ってる身分証はすぐに聖女だってばれちゃうやつなのね。

 小さな村や集落には身分証が必要ないこともあるんだけど、大きな街になるほど出入りが厳しかったりするから……平民が身分証を作ろうとするといちばん簡単なのが冒険者登録ってわけ。

 街に入るときに聖女だって分かったらのんびり食べ歩きなんてできないでしょ?

 冒険者証は持ってて損はないし、それにギルドでもポーションとか買い取ってくれるし資金調達にはピッタリだよね。

 だって、食べ歩きにはお金がかかると思うし……森に行けばそれなりにポーションの材料が手に入るから一石二鳥。

 


 「あ、これアルティアが使うといいわ」


 お母さんが差し出したのは果物の刺繍と幾何学模様がたくさん入った可愛いポシェット。


 「可愛いねー!でも、私バッグなら持ってるよ?」

 「おう、聞いて驚くな。これはマジックバッグだぞ!」

 「へぇー」


 マジックバッグってお父さんとお母さんの持っているたくさんものがはいるカバンのことだよね。確かダンジョンでたまに見つかるとか聞いたような……


 「といっても、私らのマジックバッグと比べればだいぶ要領少ないけどねー」

 「でも、リサイクルできないやつだしそっちのがアルティアには安全だろ?」

 「そうね」


 どうもダンジョンや遺跡から見つかる魔道具には『1度使用者登録をしたら2度と変更できないもの』と『正しい手順を踏めば使用者登録が何度もやり直せて譲渡、販売できるもの』があるらしい。

 使用者登録が何度もやり直せる方は冒険者たちにはリサイクルって呼ばれてるんだって……あ、登録っていうのは魔力を登録することなんだけど、そもそも使用者登録っていう機能がある魔道具自体は多くないと思う。

 『1度使用者登録をしたら2度と変更できないもの』を売りたい場合は使用者登録をする前なら可能ってことだね。


 このポシェットの場合は『1度使用者登録をしたら2度と変更できないもの』だから登録さえしてしまえば、狙われずに済んでどちらかといえば安全なのでこれをくれたみたい。

 つまり、使用者登録後は私以外が持ってもただの可愛いポシェットになるってことだね。


 「わーい、ありがとう!」

 

 早速、使用者登録して……えっと……あっ、できたみたい!


 「お母さん!昨日の荷物ポシェットにいれてみてもいいかな?」

 「いいわよー」


 おおっ!ポシェットの入り口より大きいものは近づけると吸い込まれるように入っていくっ!お母さんのバッグでも思ったけどやっぱり不思議だよねー。

 ちなみにポシェットの口に入るサイズは吸い込まれることなく普通に出し入れができた。

 ポシェットに手を入れると中に何が入ってるかがなんとなくわかるから、それを思い浮かべると取り出すことができた。


 「すごいね!」


 お母さんたちのものより容量が小さいって言ってたけど、昨日の荷物が全て入った上にまだ余裕がありそうなんだからすごいものに違いない。


 「んー、いくらリサイクルじゃねぇっつってもマジックバッグ持ってるやつ自体少ねぇから出し入れする時には気を付けろよ?」

 「そうね。そもそもがマジックバッグだとわからないように背負い袋も持った方がいいかもしれないわね」

 「はーい」


 念のため普通の背負い袋も持つことになった。今日の買い物リストに追加……変な人に目をつけられるよりいいよね。



 「じゃー、行くか」

 「ええ。アルティア、ちょっとじっとしてて」

 「はーい」


 ……ん?なんかうっすらとベールが掛かったような気がする。


 「これ、隠蔽魔法ね。話したら居場所ばれちゃうから移動中とギルド内ではいいって言うまで黙っててね」


 こくり。


 「あ、俺らは認識できてっから安心しろよ」

 「1度でも認識しちゃうと効果ないのよねー……んー、よっぽど腕が立つ人ならアルティアが黙ったままでも見つけられるかも?」

 「くれぐれも迷子にならないようにな!」

 

 こくこく……


 今日泊まった宿屋は比較的貴族街に近く、冒険者ギルドは下町にあるため少し距離がある。限定商品などを売っているお菓子屋さんも宿屋の近くなのでお買い物は後なんだってー。


 お祭りで騒がしい街中を歩き、時々美味しい匂いのする屋台にふらふらと近寄っては両親に引き戻され……冒険者ギルドへ向かう。


 冒険者ギルドは大きな看板と冒険者らしき人たちが出入りしていることから遠目にもすごく分かりやすかった。

 あれ?なんか冒険者っぽい人たちがみんなお父さんとお母さんのそばをサーッて離れていくんだけど……なんでだろう。

 そのお陰かあっという間に冒険者ギルドへ到着した。


 大きめの扉をくぐり建物へ入る……あれ?みんなシーンとしてどうしたのかな?さっきまで外からでも分かるほど騒がしかったのに。

 んー、みんなの視線が両親に向いてる気がするけど……あー、Sランク冒険者が珍しいのかな?

 ギルド内をゆっくり観察する間もなく、両親に気づいた職員さんにすぐさま部屋へ案内された。おおっ、さすがSランク冒険者、待遇が違うんだね!


 「とりあえず座って待っときましょ」


 頷いてから椅子へ座った……ふかふかだ。

 

 ここは商談用の部屋なのかな?壁際には高そうな武器やポーションが飾ってある。盗むようなひとはここにいれないってことかな。

 少し待っているとノックの後、扉が開いてムキムキの熊みたいな雰囲気の人が入ってきた。


 「おう!やっときたか」

 「待たせたな。で、今日は何の……ん?誰かいんな?」


 このひと、よっぽど腕が立つ人だっ!私が話してもいないのに気づいたよ!


 「……なんで気づいた?」

 「そりゃあよ、まずはふたりがおとなしく部屋へ案内されるのがおかしい。それにふたりの距離感がいつもより微妙に広い。あとは勘だな」

 「すごいわね!正解よ。さすが元Aランク冒険者ね」

 

 おおー、元Aランク冒険者なんだ。元ってことはギルドで働いてるのか……そういえばあんまり冒険者ギルドのひとと関わったことないかも。

 

 「アルティア、しゃべっていいぞ」

 「はーい」


 ん?おとなしく部屋へ案内されるのがおかしいって言われるなんて……ふたりいつも何してるのさ?え、もしかしてみんながシーンとしてたのと関係あったりして……


 「アルティアってーとあの聖女さんか?」

 「うん、俺の娘」

 「可愛いでしょー?」

 「はあぁぁあ!?お前さんたちあのふたり以外に子供いたのかよ!しかも聖女って!」


 あ、防音魔法はすでに展開済みだそう……安心して叫べるね。


 「はじめまして、アルティアです。よろしくお願いします」

 「おおう。俺はギルマスやってるベルガーだ。こちらこそ……それにしても噂になってるぞ」

 

 働いてる人じゃなくてギルマスさんだった。


 「あー、面倒だから明日には旅立ちたいわけ。だから、さっさと冒険者証つくってねー」

 「あとのんびり旅して辺境伯領に着いたら、あっちに拠点を移すことにしたからよろしくー」

 「きっと、あの子達もそうするって言うわね」

 「おいー、王都のギルドから一気に上位ランクが抜けんなよぉー」

 「あら、冒険者は何にも縛られないものよ」

 「緊急時には飛んできてやるよっ!それまではもっと下を育てろよなー」


 でも、お父さんがこう言うってことは仲良しなんだろうなー。


 「はあぁぁあ……わかった。登録だったな?ちょっと待っててくれ。茶は勝手に飲んでいいから」

 「わかった」


 ベルガーさんは部屋を出ていった。きっと必要なものを取りに行ったんだろう……



 ちなみにベルガーさんは昔お父さんたちとパーティ組んでいたことがあって、お父さんの曰くベルガーさんAランクまで鍛えてあげたのは俺だ!っていう間柄らしい。うん、冒険者仲間だったってことだよね……

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