第2話

 「アルティアー、来たわよー!」

 「あ、お母さんいらっしゃい。あれ?お父さんは来なかったんだ?」


 気配が薄くて全然気づかなかったよ。


 「うん。お父さんはちょっと用事があってね……別行動になったのよ。荷物はこれだけ?」

 「うーん……あのさ、ドレスとかアクセサリー類って必要だと思う?それだけ迷ってるんだけど」

 「そうだね。一応、持っていこうか?向こうじゃなかなか手に入らないかもしれないし」

 「はーい。じゃあ、こっちのもよろしく」

 「わかったー」


 私がお母さんに渡すそばからどんどんとバッグに吸い込まれていく……魔道具って不思議だなー。


 「あ、そういえば陛下たちと話してきたんだけど、基本的にアルティアは好きに過ごせばいいって!本来なら今日の出来事でこの国に嫌気がさして出ていってもおかしくないから、もし気が向いたら聖女の活動してくれると嬉しいけど、食べ歩きなり冒険なり婚約者(仮)と仲良くするなり自由だって!」

 「へぇ、そうなんだ」


 かなり、優遇されてる気がする……でも、それくらいのことをされた気もする。あれが今日の出来事か……なんだかすごい前のことみたいに感じちゃった。


 「だから、まわりの害虫は私たちにまかせて、好きに過ごしなさい」

 「ん?害虫?……えっと、ありがとう。休暇だと思って楽しませてもらうね!」


 もし、私ひとりしか聖女がいなかったなら、自由に過ごすのもすこし気がひけるけど……本物?の聖女アヤネ様も幽閉塔で今までよりは働いてくれるみたいだし、スタンピード直後はケチな領主も率先して結界石用意するって話だから被害は出ないと思う。

 でも、ちょっと気になるからお母さんに少し待ってもらって、部屋にあった内職用の精霊石を全部結界石にして置いていくことにした。


 「お茶でも飲んで待ってるわー」

 「うん。すぐに終わらせるから!」


 よし、できた!これだけで数十個はあるから神殿長が有効活用してくれるでしょう……結構疲れたけどこれで心置きなく美味しいもの巡りの旅ができる。

 ふふっ、家族旅行だと思って楽しむつもり……聖女モードも解除しちゃうもんねー。あ、これでも聖女モード中は立ち振る舞いや話し方も気を使ってたんですよ。元々口の悪い両親の元で育ったから、お勉強大変だったなー。



 結局、部屋にあったほとんどの私物をカバンに詰めこみ、残りのものは候補者たちへ譲ることにした。

 それぞれにどこのお菓子がオススメとか困ったら誰に相談するといいかとか、抜け道はここを使うといいなどの手紙を書いて机に置いておく。

 ほんとはアドバイスでも書いてあげられればいいんだけど……どうも結界石やポーションの作り方のアドバイスとかは苦手で……こう、うまく伝わらないというか。私は感覚で作るタイプみたいで説明しても理解してもらえないんだよね。だから、息抜きしたいときに使える情報にしておいた。手紙は誰かが見つけて渡してくれるだろう。




 夜のうちに両親の拠点にしている宿屋へ移動した……結構な高級宿っぽいのに女将さんがサバサバしてて両親はこういうところも気に入ってるんだろうなーって感じた。

 だって家が王都を含めいくつかの街にあるらしいのにわざわざ宿に泊まってるくらいだし!まぁ、大体がそこに居ついてほしい領主からの贈り物らしく基本的に使ってないみたいだけどさ。

 両親も強い魔物を求めて飛び回る生活だから、料理とか洗濯をしてくれるところが楽なんだってー。あ、王都の家は防犯対策バッチリで倉庫代わりに使ってるらしい……


 この宿屋さんもお風呂があるっていうのもいいよね!神殿にもあったけど、自宅や宿屋にお風呂があるのは珍しいとか。でも、落ち人の影響で街にはいくつかのお風呂屋さんがある。結構人気らしい。

 早速、使わせてもらう。


 「ふぅー。あーきもちいー」


 お風呂に入ったら、なんだか疲れがとれた気がする。ポーションを混ぜればもっと効果あったかも……今度機会があれば試してみよう。


 「でもなー、髪の毛乾かすの面倒だなぁ……いっそのことバッサリ切っちゃおっかなー」

 「だめよっ!」

 「えー……お母さんくらいのボブにしたいなー」


 貴族令嬢は髪が短いなんてあり得ないらしく、私も第2王子の婚約者として伸ばしてたけど、今度の婚約は仮だし、私もともと平民だし自由にしていいってことはバッサリ切ってもいいかと思ったのになー……

 乾かすにも私は風魔法が使えないし、生活魔法だとそよ風ぐらいだから時間かかるんだよね。

 生活魔法はスキルがなくても少ない魔力で使えるんだけど、生活とつくだけあってコップ1杯の水が出せたり、火種代わりの火が出せたりするのね。


 「こんなにきれいな銀髪なんだからもったいないっ!それにこれからは私が髪を結って遊ぶんだからね!どうしても乾かすのが面倒なら魔道具買ってあげるから!」


 そういえば小さい頃はお母さんが毎日結ってくれたっけ……そこまで言うなら切るのはやめとこう。魔道具もいらないかな。時間かければ生活魔法で乾かせるもんね。

 そんなことを考えていたらお母さんがあっという間に魔法で乾かしてくれた。


 「お、乾いたー。ありがとう」

 「さ、明日は早いからさっさと寝る」

 「はーい」

 

 うつらうつらしながら、布団に潜り込んだらあっという間に眠りについていた。




 朝、ウキウキのお母さんに髪を結ってもらい、お忍びでお買い物する用の服に着替えた。

 きなりのシャツに深緑のロングスカート、焦げ茶のフード付き外套である。


 お父さんは明け方に戻ってきたんだって……何でもちょっと離れた街に害虫がいたからお仕置きしてきたとかなんとか……あ、お父さんはひとりならかなりのスピードで移動できるからちょっと離れた街でも戻ってこれるんですって。


 ぐぅぅ……


 「お腹空いた……朝ごはん……」

 「下で食うか?結構旨いぞ」

 「うん!」


 早速、宿屋の1階の食堂で朝食……ふむふむ。ここの朝ごはんは3種類から選ぶスタイルらしい。


◆メニュー◆

 1.野菜たっぷりスープと白パン、サラダ

 2.ポタージュとサンドイッチ

 3.がっつり肉丼


 「うーん……悩んじゃうなー」


 どれにしよう……


 「ん?悩むなら3種類頼んでみんなで分けようか?」

 「いいの?」

 「いいぞー。おーい、今日のメニュー1つずつ!」

 「はーい!」

 

 両親の言葉に甘えることにした。今か今かとごはんが運ばれてくるの待つ……


 「おまちどう!肉はスペシャルだよ!」

 「おう!ありがとな!」

 「ありがとうございます!いただきますっ」


 もぐもぐもぐ……うまー。

 

 「どうだ?旨いか?」

 「うん!すごく美味しかった!スープは野菜の味がしっかり出てるし白パンはふわふわでサラダのドレッシングも美味しいし……イモのポタージュもなめらかで、野菜とお肉がはさまったサンドイッチも脂っこくなくて美味しい……あとなにこの肉丼!オコメが肉汁とタレに絡まって美味しすぎるっ!」


 こんなに美味しいなんて……宿屋さんの食事も侮れない。

 オコメはあんまり食べたことなかったけれど、確かサヤカ様が広めたんだったかな?それまでは家畜のエサとして扱われていたとか……落ち人は食にこだわる人が多くてそこから広がった食材や料理、習慣もたくさんある。


 「あら、このお肉……こないだ私がお裾分けしてあげたお肉だわ。スペシャルって言ってたからわざわざお肉変えてくれたのね」

 「そうなの?すっごく美味しいねっ!サンドイッチのお肉もかな?」

 「そうねー」

 「おー、流石オークキングの肉は違えなー」


 オークキングだったんだー……あれ、買ったらものすごく高いって聞いたような。


 「たくさん凍らせて持ってきてよかったわ」

 「おう!まだ俺のカバンに入ってるぜ!非常食だ」



 そういえばお母さん氷魔法使えたんだ……あっ、凍らせてもらえば日持ちしないお菓子も買えるかも!


 ちなみに魔物を食べることは一般的で、そこらの屋台で売っている肉の半分は魔物の肉である。もちろん毒をもっているもの、なぜかものすごく苦いなどは食べない。

 中でもオークは美味しく食べれるお肉として人気であるが、姿が姿だけに苦手意識を持つものもいるそう。オークキングはめったに出回らないので高級食材らしい。

 スタンピード後、お祭りには倒された魔物の肉もたくさん出るので有効活用しているとか……だから、食べられる魔物の時はお祭りの屋台も増えるらしいです。


 

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