出発準備 編

第1話


 とりあえず話がまとまったので、私は先に神殿へ戻ることになりました。

 両親はまだ陛下たちとお話があるらしく、別れ際にいつでも移動できるように荷物をまとめておけと言われたのでそのつもりです。


 「ただいま戻りましたー」

 「「「アルティア様っ」」」


 神殿へ戻ると神官をはじめ一部の聖女、聖人……さらには候補者まで集まっているではないですかっ!

 皆さんはすでに婚約破棄の騒ぎことを知っているようです。パーティに参加していた方もいたのでそこからでしょうか。

 この様子では貴族だけでなく平民へ噂がひろがるのも時間の問題かもしれません。

 皆さんは私やアヤネ様を身近で見ているからこそ、私が偽物の聖女だと言われたことに怒ってくれて、おかしな噂も訂正してくれる気らしく嬉しい限りです。


 「皆、こころして聞いてほしいのだが……聖女アルティアはパーゼル辺境領に向かうことになった」

 

 神殿長から私がパーゼル辺境伯領へ向かうと告げられ、勘のいい方は婚約者変更に気づいたようだ。

 わからない人たちもあとでゆっくり教えてもらえると思います。


 「ということで、近日中にはのんびり食べ歩きの旅に出ますので!」

 「「「アルティア様……」」」

 

 あれ?なんで皆さんあきれたような表情なんでしょうか?


 「そ、そうですよね。アルティア様もゆっくり休暇を楽しまれるということですね」

 「はっ!そうでしたか!食べ歩きの旅ということにして色々と画策する者の目を欺くつもりなのでは……」

 「いや、ただ単に何も考えてない気がしますけど……」


 なんか、神官の皆さんこそこそと話し合ってますね?よくあるのであまり気にしてませんけど。


 「とにかく皆さんには大変お世話になりましたっ!聖女、聖人の方々はこれからも頑張ってくださいね!候補者の皆さんも困ったことがあればひとりで悩まず、神官さんや聖女たちを頼るといいですよ」

 「「「「はい!」」」」


 ……ま、永遠の別れじゃないし、王妃様の出産時期には戻ってくる予定だし……こんなものかな?


 「そんなぁ……アルティアがいなくなったら僕の内職の時間がなくなるんじゃ……」

 「そうですよ!お菓子を持ってお願いしたらやってくれたあれやこれやをすべて自分でなんて……」


 半分くらいが私がいなくなった後、やらなければいけない仕事が増えるとかなんとか言ってましたけど、なんのことですかね?

 え?お菓子でお願いされたあれやこれですか?……あれはお願いっていうよりもお茶会のついでにちょっと手伝っていただけだと思います。

 他にも聖女、聖人がいるのですから私ひとり分くらい抜けても大丈夫だと思います。そのうち候補者だって育ってくるはずですし……ほら、私が辺境へ行けばそこへ割かれていた人員が戻ってくるかもしれませんし?


 「とにかく、今後は各自頑張ってくれ……うぅ、胃が……」


 あ、神殿長の胃薬代わりのポーションも誰か準備してあげてくださいねー!


 「落ち着いたらお手紙も出しますねー!旅の途中で美味しかったもののリストも書きますから!」

 「「「アルティア様……」」」

 「では!」


 あ、女神様にもご報告しておかなきゃ……早速、祈りの間へ。


 「えっと……なんやかんやあって第2王子との婚約は白紙になりまして、パーゼル辺境伯との仮婚約が決まりました!あ、でも第2王子はアヤネ様が本物の聖女と信じておられるようですのでお似合いですよね!パーゼル辺境伯さまと仲良くできるよう見守ってくださいね」


 『……アル……ィア……楽……く…………時……神殿…………しい』


 なんとなく楽しく過ごせって言われたような気がするのと、時々立ち寄った街の神殿にきてくれるとうれしいというような?声が聞こえた気がするので思い出したときには寄るようにしましょう。

 朝晩の祈りは神殿で祈るより効果は低いですけど、習慣なので続けると思います。


 「では、失礼しますね」


 祈りの間を後にして自分の部屋へ戻る。

 ドレスを脱いで(候補者の子が手伝ってくれた)身軽になった。やっぱり慣れないもの着ると疲れますねー。


 「ふぅ……部屋の整理しなくちゃ」


 といってもあんまり荷物は多くないんだけど……とりあえず必要なものをまとめておいておく。

 えっと……絶対にいるのは洋服類とお礼にもらったお手紙と便箋セット、ポーション用の調合セット、お気に入りの手作りお茶、今まで内職で貯めたお金が入った巾着……あとは誕生日に神殿の皆さんからもらった櫛と鏡、本が数冊と大事なお菓子たち!!といっても食べちゃってほとんど残ってないけど、とっておきのお菓子が少しあるかな。

 あとでお母さんたちが迎えにきてくれるのでその時にたくさんものがはいるカバン(ダンジョン産)にいれてもらう予定。


 「この部屋ともお別れかぁ……」


 こじんまりしてるけど窓から見える景色は結構好きだったんだよね。


 「ま、この部屋にいること少なかったけどさ!」


 聖女のなかでは私も飛び回ってた方だからなー……お父さんとお母さんの血筋かなー?

 お茶を飲みつつ……


 「あ、のんびり食べ歩きの旅のためにルートを考えなくちゃ!」


 頭のなかで地図を思い浮かべる。


 シューラス王国の西側のほとんどが森林や山脈でその周辺を治めているのがパーゼル辺境伯領。ここを目指すことになる。王都はどちらかというと東南よりにある。


 うーん……王都から南へ行くと海があるから、海の幸は食べたいなぁ。

 さすがに王都でも新鮮なものは滅多に売ってないからなー。特産品って魅力的だよね。

 あとは、お母さんがおすすめのダンジョン内に美味しい果物が生えてるっていうラウナード子爵領でしょう。

 国の食を支えているといわれるフルーゲルク侯爵領は美味しい野菜がたくさんあって、食事と温泉が有名だと聞いたことがあります。ここも魅力的!


 でも、クズール侯爵領とか反王妃派や反神殿派の領地はなんとなく避けたい……それに食べ物の特産品や限定品もほとんどないんだよね。なんか、宝石とかそういうものが多いらしい。うん、興味ないなぁ。


 北の方には畜産が有名な地域もあるんだけど結構遠いし、途中に反王妃派や反神殿派の領地を通らなきゃいけないからなー……


 「そっちはやめとこうかな……」


 私はお仕事のときも街よりは森のそばとか、辺境の方に多く行ってたから観光地とかは他の聖女、聖人にも人気で私は行ったことがない。いつか行ってみたいなーって思いつつ、行けてないまま。


 多分、南側を通るルートだとこの間スタンピードが起きたルクシア伯爵領があるから様子もみてみたいし、あの甘酸っぱいのがクセになるお菓子もたくさん買いたいし!ベリー類が特産品であの甘酸っぱいのもベリーだと思う。


 行きたい場所に多少治安の悪い地域もあるけれど、最強の護衛がふたりもいるし、私だけなら結界も張れますし、美味しいものの前では些細なことですよね!まぁ、ふたりが反対する場所はさけるとおもう……たぶん。


 「ふふっ!どこへ行こうかと考えるだけでわくわくしてきたっ!」


 おいしいものや限定商品、特産品を食べ歩くのは私のなかでは決定している。

 スタンピードのお祭りも最低でも1週間くらいはやっているから……屋台とかも出てるはず。うわー楽しみ!

 でも、あんまり近い街や訪れたことのある街は正体がばれてしまう可能性があるし、ふたつみっつ離れていて、なおかつ訪れたことのない街で楽しむのがいいかもしれない。移動時間を考えてもそこで3、4日はお祭りが楽しめそうだ。


 ちなみにかつての大聖女サヤカ様の影響で1年は12ヶ月、ひと月は30日、1年は360日である。

 大聖女サヤカ様のいた世界よりもシューラス王国は四季がはっきりしていないが、一応春夏秋冬と区切られている。春と秋は過ごしやすいが夏は少し暑く、冬は寒いらしいとのこと。


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