第6話

 噂をすればなんとやらってやつですね……


 「お父さん、お母さん……これ、食べます?」

 「あら、美味しそうだこと」

 「おー、アルティア……それは後でな?」

 「はーい」


 残念ながら、両親の気をそらすことは失敗したようです。

 しかし、ほんの少しだけ勢いが弱まりましたよ!後は陛下と宰相様と神殿長に頑張ってもらいましょう。

 お父さんとお母さんは私の横にドスッと座ると…


 「そもそもさー、聖女とか必要なわけ?ポーションは錬金術師がいるし、冒険者にはヒーラーだっているし……植物魔法だってあるんだもの」

 「だよなー?聖女とか国が求心力集めたいがための道具にしてんじゃねぇの?そもそも王族に連なる者に嫁ぐルールとかなんだよ?」


 おお、はじめからガンガンいきますねえ……


 「確か、ヒーラーは聖魔法ではなく回復魔法を使うんでしたな?」

 「ええ……聖魔法の下位互換って言われてるけど凄腕ならそこらの候補者より使えるわよ(ま、元候補者の子もちらほらいるけど)」

 「ほほぅ……」

 「おっと、宰相の爺さんよ?そこに手出すんじゃねぇぞ?」

 「もちろんですとも……私共も貴方がた冒険者を敵に回すほど馬鹿ではありませんよ」

 「ちっ。それならいいがよ……もちろん神殿もだぞ?」

 「……ええ。わかっております」


 あらあら……お父さんもお母さんもここぞとばかり文句を言ってますねー。

 そもそも国王陛下と旧知の仲で仲が良いからってそんなにズバズバ言って大丈夫ですかね?

 あ、両親の態度はこれがデフォルトですのでお気になさらず。


 結婚相手の例外は……聖女、聖人が強くのぞみ、女神様からオーケーの神託をもらえたら国も貴族も余計なことを言わず祝福していたらしいですが、最近ではその話も聞きません。ふたりの仲を邪魔すると罰があったらしいです……しっかり歴史に残ってるとか。


 あとこれは公然の秘密なんですけど、聖女をやめるひともいるんですよ。

 元々女神様に朝晩きちんと祈らないひとは力も衰えやすくなるため……あえて不真面目に過ごして自由になり冒険者になった子もいたり……同期のあの子は元気ですかねー。たまに美味しい限定品情報をくれるんですよ。

 

 「一応、王族に連なるものが守るとなっているがよ?俺らなら別にアルティア守り通せるぜ?」

 「そうねー……結構余裕よね」

 「……ぅうむ。一応ルールにもちゃんとルーツがあるのだぞ……それにお主らは強い魔物と聞けば喜び勇んですっ飛んでいくではないか……それで守れるのか?」

 「まー、なんとかなるっしょ?アルティア、確か自分ひとり分なら結界石なくても結界張れたよな?」

 「ええ。まぁ……どのくらい耐えられるかわかりませんけど」


 うーん。お父さんが結構本気で殴っても大丈夫だったし、お母さんの魔法も耐えられたからそこそこ大丈夫だと思うけど……


 「それにさー、俺らに魔物倒してくれって依頼してる国王がそれ言っちゃう?」

 「まぁ、今回はうちのバカ息子がやらかしてしまっているから言い訳のしようもないわね」


 王妃様……さすがにバカ息子は……


 「確かに聖女以外でも出来ることもあるが、出来ないこともあるだろう」

 「はぁー……あれか?結界石か?あんなのなくたってどうにか工夫して暮らしてる国は多いんだぞ?」

 「そうよねー……ある意味甘えてるのよね。それに似たような効果の魔道具だってあるし……あとは浄化だったかしら?」

 「あれもなー?めっちゃ修行すればなんとかなっちまうんだよな?」

 「ええ……長男は才能なかったけど、次男は浄化使えるようになったわよ」


 おおー、マリス兄さん流石ですね!ハリス兄さんは脳筋ちっくだから無理だったんですかねー。


 「むむむ……だが、聖女たちの結界石のおかげで助けられる命がたくさんあるんだぞ!使えるものを使わず民を危険に晒すのは違うじゃろ?」


 お父さんもお母さんもS級冒険者ですからね……結界とかなくても割と余裕ですよね。

 あ、S級冒険者っていうのは各国にある冒険者ギルドという組織が決めたものらしくものすごく強い人がなるそうです。聖女でも両親のような飛び抜けた人に嫁いだり、保護されることを選べば自由に過ごせるかもしれませんね。

 

 「それはそうさ。俺たちの国みたいにならないように民を守ることを優先するのはいいと思うぜ?ただよ、王族に聖女や聖人が出たらどうすんだよ?そのお腹の子がそうだったら?」

 「むむ……」

 「あら?それは考えていませんでしたわ……」


 そうですよね……過去にもいたようですし、その時は隣国に嫁がれたんでしたっけ?

 他の国にも聖女のような役割を担っている方がいるそうなので、国内と比べるとそこまで重要視されてないのが現実みたいです。

 王妃様の実弟のアンドレ様の時も大変だったようです。年の離れた弟のさんらしくすでに王妃様が嫁がれた後でしたから余計に……国としては国外に出したくなくて苦労して相手を選定したとか。


 同じ世代に何人も聖女が誕生したら王族の数だって足りなくなってしまいますし……いずれルール変更は求められたかもしれません。

 両親の育った国は聖女にあたる人たちを表向きは崇め奉り、裏では奴隷のように酷使して最終的には地図から消えてしまったそうです。

 両親はシューラス王国へ留学していたため無事だったそうですが、家族や友人のほとんどがどうなったかわからないままだそう……だからこそ色々と思うところがあるんでしょう。

 そのこともあり両親は時々『女神様と話せそうならこの辺どーなの?って聞いといて』とか言うんですから。

 女神様と会話できた方なんて大聖女と呼ばれる方(数十年前にひとりしかいない)くらいで、通常の神託は一方通行なんですから無茶言わないでほしいですよね!


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