第3話

 正直な話……前々から殿下から好かれていないことには気づいていました。

 殿下は私の両親が冒険者であることも気に入らないらしく、自分には高位貴族が嫁ぐのが当然で、お前など……とグチグチ言われたことも多々ありますし。というか、ほぼ会う度ですかね。

 私に笑顔を見せるどころか視線は合わないし、婚約者として交流を深めるための月に何度かお茶会をしなくてはいけない時も返事はぶっきらぼうな上、そのうちの半分は無断欠席。

 こちらは休日を割いているというのに……最初から来ないとわかっていれば数量限定のお菓子を何回買いにいけたものか……まぁ、待ちぼうけでも紅茶とお菓子は出るからそれは遠慮なく食べましたけどね!うん、さすが王城の料理人の作ったお菓子って感じで街で買うのとは違う美味しさなんですよ。


 それなのに困ったことがあると私に丸投げしてくるんですから……国王陛下や王妃様そして周囲の方々によくしてもらっていなければここまで耐えられませんでしたよ。


 そういえば半年ほど前に落ち人であるアヤネ様のことも水晶が認め聖女となり、アヤネ様と殿下はいつのまにか急接近したそうです。

 よく一緒にいるとは聞いていましたけど……まぁ、ふたりについて聞こえてくるお話しはあまりいいものではありませんでした。

 例えば……勉強は一切しない、何かあると物に当たる、自分の失敗を人に押し付ける、高級なドレスを欲しがりデクラン殿下にねだることは日常茶飯事などなど……何故私が知っているかって?そういうお話を教えてくれる方もいますし、殿下の仕事が何故か私に回ってきているからですよ?ドレスや宝石の決済書とか私にどうしろって言うんでしょうねー。もちろん保留しておきましたよ?……後日めちゃくちゃ文句言われましたけど。


 それを含め溜まっていた不満をものすごく分厚いオブラート……うん、すでにオブラートと呼べませんね……ゼリーにしておきましょう。それに包んで進言したらものすごーく文句を言われて1日が潰れた記憶があります。お話される度にお腹がぽちゃんと動くので文句を言われているときはその回数を数えていたり、心の中で王都のお菓子屋さんの名前を行きたい順につぶやいているのは私だけの秘密です。だって、そうしないと耐えられなくって……


 それに、今回の件は……と考えていると第2王子は業を煮やしたのか


 「アルティア! お前との婚約を破棄し、この国から追放する。偽物め!」


 あら……まぁ。


 「婚約破棄は謹んでお受けしますが……シューラス王国からの追放ですか?」

 「そうだっ!そして俺はここにいる本物の聖女アヤネと婚約するっ!」

 「デクランさまぁ……嬉しいですぅ」


 わたしが反論しようにもすでにふたりだけの世界でいちゃいちゃしている……これで声かけたら無礼者っ!とかって余計に面倒なことになりそうだなぁ……おふたりは他の方々の視線は気にならないのでしょうか?大部分が軽蔑の類であとは好奇だと思うのですけど。


 「……はぁ……どうしましょう」


 

 そもそも内密に相談さえしてくださればいくらでも喜んで婚約解消いたしましたのに……ここまでことを大きくされては……はぁ。

 あら?アヤネ様は落ち人とはいえ聖女になる少し前にクズール侯爵家の養女になられたんでしたか……つまり、殿下がお望みの高位貴族ですね。


 そういえば、あと少し侯爵家の養女になるのが遅ければ神殿が保護できたのにって神殿長が悔しがっていましたね……どうもアヤネ様を養女にしたクズール侯爵家がやたら口を挟んでくるらしいのです。

 それに加えてアヤネ様は数年前にこちらへいらしたそうですが、聖女と認められるまで存在自体を隠し通していたんだとか。

 つまり、候補者として過ごしていないのにもかかわらず突然の聖女誕生ですから……上へ下への大騒ぎですよ。


 あ、落ち人とは違う世界から突然現れる人のことを言うそうです。ほとんどの方が黒髪、黒目をしていて割とすんなりと異世界だと信じる方が多いのだとか……数十年に1人か2人くらい現れ、大きな功績を残した者もいれば混乱を招く者もいて、国としては厳重に保護したいって感じらしいです。


 「ちっ……さっさと偽物を連れて行けっ!」

 「デクランさまぁ!わたし、こわぁいっ!あのひと睨んでくるぅ」


 え?私、考え事をしてただけなんですが……仕方ありませんね。私の容姿は銀髪に紫の目だけなら良かったのですけど、冒険者の両親の血筋かものすごーく目つきが悪いのですよね……普段は人々になるべく怖がられないようベールで顔を隠してます。ほら、聖女って優しいイメージじゃないですか。

 ただ、今日はドレスに合わないからって没収されてしまったので、初対面の方は一瞬ギョッとなさるのが通常でしたね。まあ、慣れたものですよ……ただ、普段ベールをしているせいで私が聖女だと気づかない方も多かったので、これからもそうしていれば多少たくさんお菓子を食べても聖女だと特定されずにお得な気もします。

 本当に数十年前にお菓子を広めてくださったタナカ様に感謝ですね。いつかタナカ洋菓子店の本店がある国にも行ってみたいものです。


 「おいっ!偽物!早くアヤネの前から消えろっ!」

 「デクランさまぁ!かっこいいー!」

 「ふっ」

 

 ……はっ。お菓子のことを考えていたら目の前のおふたりがすごく怒っているではないですか。なんででしょう?

 あー、早く出て行けってことですかー……その間も第2王子が私にいつものような文句を続けていると……会場の空気がだいぶ悪くなってしまいました。

 せっかくのパーティなのに皆様には悪いことをしてしまいました。浄化でもしておきましょう……あ、多少空気がすっきりしましたね!お菓子は残念ですけど……ここは一旦帰りましょうか。


 「では、失礼いたします」

 

 さっさと部屋に帰って、とっておきのお菓子を食べようと扉へ向かうと勢いよく扉が開き……どやどやと騎士たちが広間へやってきました。


 第2王子は満足そうですね……あれ?私でなく第2王子達が連れていかれてしまいました。先程会場から慌てて出て行ったのはこのためでしたか……はぁ。

 そして私はその後息を切らしてやってきた神殿長に連れられて見慣れぬ部屋へ……うん、悪いことにはならなさそうかな?

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